招いた客と招かれざる客
お読み頂き有り難う御座います!誤字報告、誠に助かっております!
フリックとスオリジェのお茶会……を見つめるミューンです。
「無事で何よりなんだけれど……何でフリックがスオリジェ軍将と良い感じの雰囲気を醸し出しているのかしら」
すわ、フリックの危機かとあの後、ミューンは気持ち多めに護衛を引き連れて家を飛び出した。
そして、くまなく闇の大地商店街を大捜索……に掛かろうとしたところ、フリックが家に帰ってきたと連絡を受けたのである。
「何なのあの光景は」
違う門から慌ただしく帰ってきたミューンが見つめる先に。
美しく咲き誇るミモザの下で微笑む、若草色の剣歯虎と、勇壮な鮫獣人が……目茶苦茶和やかかつ、良い雰囲気で語り合っている。
彼らは初対面だった筈だが、目茶苦茶親しげに見える。
「はっ!
まさかフリックが、溢れ出る知性と可愛らしさで軍将をタラシ込んでしまったのかしら……!?
ああああ年長の殿方にウケが良いから……!!ああ……流石私の婚約者!
でも、何にも無いのに、何なのこの焦燥感と苛立ちは!!」
「お、お嬢様。落ち着いてください!この距離でも結構向こうに聞こえてしまいます!!」
見かねて護衛のシンが声を掛けるも、ミューンの眉間のシワは寄ったままだった。
「乱入したいわあ……。何なのあのホワホワな雰囲気。ああいう現場は婚約者の私が独占するもんじゃないの?
いえ、でも戦略的に出てったら台無しよね。ああいう感じの殿方同士の話に中途半端に突っ込むと碌な事がないわ」
「……よく分かりませんが、多分正しいご判断ですね」
「ミューン様……お客様で御座います。お約束されていないようですが……」
その時、侍女がミューンに来客を知らせに来た。しかもアポ無しのようだ
「え、誰?」
「ファニー・ラシェマ少尉と名乗っておいでです」
「……厚生大臣の三女の?まさかスオリジェ軍将をストーカーして来たの……。行き過ぎた執着は嫌われる第一歩だと言うのに……」
交流も大して持っていない相手なので、無碍に追い返しても構わないのだが、暫し思案した。
「まあ、会っても良いわ。でないとスオリジェ閣下が帰る迄ウチの前で張り込みそうだものね」
「承知致しました。御仕度は如何なさいますか?」
「着替えて行くから待たせておいて。お茶の仕度は下から二番目のランクで良いわ」
招かれざる客なのだから仕方がない。
そして、ミューンはゆっくりめに柔らかな空色のデイドレスに着替え、化粧を丁寧に直させた。
鏡の中の自分は、勝ち気に微笑んでいる。女の戦いで憂さを張らすのも悪くはない。
「……それで、何の御用かしら?お姉様のスワニー嬢なら兎も角……私と貴女は親しくさせて頂いて無かったわよね?」
「突然の訪問、失礼致しましたわー」
口ではそう言うものの、ファニーはツン、とそっぽを向いたままだ。
「此方に、上司がお伺いしているとお聞きしましてー」
「まあ、何故上司をお探しに?プライベートに何処へ行こうが勝手では無くて?」
「……仕事の事ですからー、探し回っているんです。邪推なさらないでくださると嬉しいです」
此方を睨むファニーの灰色の目は、貴族の女らしい華やかな化粧を施されている。身に纏う改造された軍服は優雅だとは思うが、とても有事に向きそうはない。
こんなのを軍に捩じ込まれたら大変ね、とミューンは内心嘆息しつつも、驚きの表情を作る。
「まあ!では、職務中にあの方は我が家で油を売っているとお思いで?意外だわ、あんなに勤勉な方が」
「軍将がサボる訳無いでしょー!?」
「まあ、軍将?……貴女の直属の上司の方ではないの?何故軍のトップを身内でもない貴女が?プライベートの閣下を何故お探しに?態々、アポイントもとらないで、親しくもない我が家に」
「……っ!……癖に」
ギリ、と歯軋りが聞こえそうな形相でファニーが下を向く。
「あら何か言って?聞こえないわ」
「何ですって」
「でも聞いてあげないわ。だって私、貴女と仲良くもないもの」
「……何ですって!?」
ファニーの後ろに控える侍女から、合図を受ける。頃合いだ。
フフン、とミューンは偉そうに見えるよう敢えて口角を上げる。
「何を驚くの?まさか、父親の立場を笠に着て嵩に掛かるおつもり?言っておくけれど、このミューンには通用しなくてよホホホホホ!」
「っ!!昔から嫌な女!!貴女がゴードン様とサッサと結婚していれば、他の子達も不幸にならなくてすんだのに!私だってあんな急かされて結婚なんてしなくても!昔からスオリジェ閣下と」
「……まあ!他の方々とグルになって私に不幸な結婚をさせようとなさっていたの?怖いわ」
「白々しい!!知ってる癖に!!それなのに何!?あんな子供を引き込んで嫌らしい!!」
「ホホホ、私の婚約者が素晴らしすぎて羨ましいの?人を妬んでも貴女の品性は落ちる一方ね」
ファニーが激昂したその時、ガタリ、と音が響く。
「……あらまあ!貴女が余りに大きい声を出すものだから、狭い我が家に響き渡ったわね」
「……あんた……」
足音が、聞こえてくる。重い足音だった。
スオリジェに聞かれたく無いのだろうか。ファニーはウロウロと目を所在無げに動かしている。
淑女教育が捗々しく無かったのか、甘やかされていたのか。
この程度の嫌味で感情を露にしているようなら余計軍属に向かないわね、とミューンは思った。
「軍属か令嬢か。どちら目線で売り込まれるか存じないけど、軽くて大きな声は殿方に嫌われるわね」
「……失礼させて頂くわっ!!」
肩をビクつかせたファニーは、勢いよく立ち上がるとあっという間に逃げてしまった。
逃げ足は中々のようだ。
「はーん、思ったより小者ね……。つまんないわ」
そして、ミューンの背後に回った侍女が、飾られた壁の仕掛けを丁寧に外し、現れたのは隠し扉。
「中々の舌戦だったと思ったがな。遅まきながら、お邪魔させて頂いている。ミューン嬢」
「か、格好良かったですけど……あうう、ミューン様……」
恭しく開けられた其処に、スオリジェとフリックが困惑した顔で立っていた。
主にミューンは口喧嘩で幼馴染みやその他令嬢達と渡り合っておりました。
ゴードンにフラれる迄は口喧嘩すらしたことが無かったようです。




