困窮する子爵家
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ご評価、ブクマ誠に有り難う御座います。
ミューンは異世界種にかなりの鬱屈した思いを抱いているようです。
「フリック、貴方は本当に賢いわね。過去に目をやるだなんて」
「え、えと。か、過分な接触は……その、駄目ですよミューン様。婚前は、その」
フリックが微笑んで、ミューンの手から身を躱す。
「え?」
フリックが離れるなんて、今までに無かったことだ。
嫌な予感がミューンの胸全体に広がっていく。
「貴女の補助のお陰で更に賢くなれましたし、良い職にも就けそうです。だから、異世界種の彼女とこれからやっていきますね」
「うおおおおわわわわわわ!!誰よその女はあああああ!!おのれ異世界種!!物理的に断絶させてやるうううう!!」
ミューンは叫んだ。有らん限りの声を尽くす。
力一杯叫んだミューンの声で、ドレッダ侯爵邸は物理的に揺れ……はしなかったが、大騒ぎになった。
「はっ!?」
そして、ミューンは気づく。
さっきと場所が違う。自分の部屋だ。どうやら寝惚けていたようである。
「お嬢様!?曲者で御座いますか!?」
「みゃっ!?ミューン様、ご、ご無事ですか!?」
ダンダンと扉を叩く音が聞こえてくる。
使用人の声と、フリックの声も。
たまりかねてミューンは部屋から飛び出した。
「みぎゃっ!?」
「フリック!!悪夢を見たわ!!あの者共許せないわ異世界種を滅ぼしましょう!!打ち払え!!」
「おおお落ち着いてくださいミューン様!!みゃ、だ、ダイレクトにやわやわ……う、薄着で廊下に出たら風邪をひかれますよ!」
「フリック様、ストールで御座います」
ファサ、とタイミング良く大きい毛織布がミューンごと掛けられる。
揉みくちゃにされて、目を回しながらもしがみついてくるミューンの背中を撫で擦った。
何時ものミューンは大概テンションが高めだが、今回は尋常ではないのではないか。
横の使用人の暖かい目にも少し引きながらもフリックは尋ねた。
「……一体何の夢を……。予知夢ですか?」
「そんなオカルトな能力は全く無いわ!!ウチは単なる人に出来る範囲を頑張って偉くなった一般的な侯爵家なの!!」
「そ、そうですか。それも凄いですよね」
一般的な侯爵家とは何だろうか。他に比べるサンプルも無いので、フリックは背中を撫でる方に集中した。他に気をやると顔から火を吹きそうだった。
「ミューン様、落ち着いてください。僕達はスオリジェ軍将のお力になるって決めましたよね?ひとつの種族を迫害しちゃいけませんよ」
「分かったわ、個人攻撃を大量にする」
全く分かられていない。
「お嬢様……そろそろお休みになられては。未だ明け方で御座います」
「フリックと寝るわ」
「みゃ……え、はあ!?」
「何もしないから!!何もしないわ!!フリック、一緒に居て頂戴!!どうせ時間の問題よ!!何かあっても誰にも言わないわ!!」
「いや寝惚けられてますね!?婚前に一緒に寝ちゃ……だ、駄目ですよおおおお!!使用人さんも止めてください!!」
その後フリックは一睡も出来なかった。
「……あら?フリックがお昼寝してるわ。まあ、耳まで動かず寝てるのね」
「あ、あはは。えーと、少し寝不足、みたいです」
日差しが柔らかく入るサンルームの長椅子にぐったりと横たわるフリック。尻尾も力無くはみ出して床に垂れている。
付き添っていた姉のコレッタが、すっかり騒動を忘れ去ったらしいミューンに、乾いた笑いを返した。
「フリックの指摘のお陰で断絶された男爵家の醜聞の話まで捗ったの。流石フリックよね」
「そ、そうですか。弟がお役に立てて何よりです」
「地方の魔術学院の不正を暴きに行った魔獣子爵……へー、変なことしてるのね」
「魔獣子爵ですか……。原型は本当にいる魔獣とそっくりで、見分けが付かないそうですね」
「コレッタ嬢は知ってるの?あれ、かなりマイナーな存在よね?」
ミューンは驚いた。
魔獣子爵の名前は、同じ貴族でも知っている者の方が少ない筈だ。
「恐れながら同じ子爵位を頂いてましたし、少しだけ。私達古生獣人に身体能力以外の特殊能力は有りませんが、彼等には『繰り返す力』が有るとか。
勿論、制限有りですが」
「へー、目茶苦茶オカルトな能力ね。あら、でも、異世界種も過去や未来に行ったり来たり出来たわよね?」
「彼等は自分で行き先を決められずに彷徨うそうですから、少しだけ違いますね」
フリックによく似た容貌の大人しい少女は、意外とコアな情報通のようだ。
「特殊任務については知りませんが、中でも力が強い子爵家は緑青銅のヌメドー家だったと思います」
「黄金のガサガサの家らしいけど」
「黄金のソラニ家ですね。彼等の大きさと身体能力は随一だと聞いてます」
「……ウチに居るわね、その子爵の伴侶が」
ソラニ家。そう書類の一番下に書かれていた。
目茶苦茶護衛の中にいる名前ではないか。
「え、そ、そうなんですか……。知らないとは言え、ご挨拶もせず……今からでも」
「にゃ、みゃ……」
「いやでも子爵本人じゃないのよね。流石に家族と言えど過去の話の詳細は知らんでしょうし。アポ取るべき……いやでも体調がお悪いのよ。前子爵とかにご連絡取れないかしら」
しかし、子爵の両親はド田舎に住んでいると聞く。
シン・ソラニを呼び出して相談すると彼はアッサリと快諾した。
「妻にですか?構いませんよ。体調が上向いたので復職しておりますし」
「今、特殊任務は帯びておられないのですね」
過分な挨拶を納得行くまでしたコレッタが首を傾げる。
「ええ、王宮の廊下清掃業務です。何せ俺とも其処で出会いまして」
子爵が王宮とは言え廊下の掃き掃除。
ミューンは面食らい、コレッタは呆気に取られたようだ。
「そ、そんな。お恥ずかしい身の上の我が家と違って、魔獣子爵が……御自ら。勿論清掃業務は尊いですが……子爵の給金としては……」
「……困窮しておいでなの?」
「一応身分は隠してますよ。困窮はしてますね。なので俺を雇い続けて下さるとかなり有り難いです。爵位とか有っても仕事が無いと。ハハハッ」
「わ、分かります……。身につまされるお話です」
王宮もあまり風通しが良くなかったな、とミューンは思うのだった。
護衛のシンの妻魔獣子爵ドロメラは田舎の宿育ちなので、母親にこき使われいや、鍛えられています。




