余波はまだまだ続いているらしい
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ミューンはあの後、コンラッドとの約束をすっぽかしたようです。
「やあ。最近、王妃になれる令嬢として名を馳せているらしいね、ミューン」
此処は闇の大地商店街にある、喫茶店。
貸し切りにされた店内では、待たされて物々しい刺々しい雰囲気を放つミューンが待ち受けていた。そんな彼女にコンラッドは来店して一番に嫌味を投げ掛ける。
「それは私がフリックをキングメイカーしろっていう暗喩?私は結婚準備に忙しいのよ。クーデターなら、結婚してからにするわ」
「……何と言うか、時の流れとゴードンは残酷だね。あんなに単純可憐だった性根が怖いことしか言わない風体に生まれ変わるんだから痛っ!」
あの後、聞き耳を立てて噂話の収集に向かったミューンは、ジュランを忘れており、すっぽかした上にフリックが帰ってくる時間なので家に戻っていた。
さぞかしあの女官は怒られているだろうが、嘗て彼女らの噂話にイライラさせられたミューンは全く気にしていない。
「そういう往来で物理に出るの良くないよミューン!君、殴り返されないと分からないのかな!?」
「まあ、キャーって叫びましょうか?
ウチの護衛は、怪我した傭兵上がりと水軍と空軍と陸軍の退役軍人を丁寧に保護して、固い忠誠を私達に誓っているのよ」
今日のミューンの護衛は筋骨隆々な女性鷹獣人と魔術師風の男である。
ニコリ、と頷きながら威圧の微笑みを向ける彼らのオーラはとても怖く、軽く人避けになっている。
大型魔術特化で無差別に乱戦向きのコンラッドが、街中でパッと戦って敵う相手にはどうしても見えない。
眉根を寄せ、彼等を観察していたコンラッドは、あることに気が付いた。
「気のせいかな。其処の魔導師殿、陸軍の騎士長キーチャートン殿の第七子殿では?それに、鷹の傭兵殿は冒険者ネットワークのランキングに最近乗っていたのを見た気がするがね?お名前を度忘れしてしまって申し訳無いが」
「おお、当たりです!ただ、父とは縁を切り結婚しまして婿に入りました!シン・ソラニです!」
「マキです。怪我をしたところを侯爵家に治して頂きました」
本当に陸軍関係者、しかもお偉いさんの息子にランキングに入っていた傭兵まで引き込んでいるミューンの陰険な手口に、コンラッドはイラッとする。そして有効そうなので真似しようと心に誓ったのであった。
「……黄金の魔獣令嬢いやドロメラ・ソラニ子爵がご結婚されたとは聞いていたが、……何故こんな悪どいミューンの護衛に……?やむにやまれない事情のアルバイトかね?可哀想に。
王宮の事務方で書類書き写しのアルバイト業務が出ていたよ」
因みに、目茶苦茶守秘義務が厳しい上期間は長年。そして罰則が禁固刑10年と厳しすぎるので、嫌がられているアルバイトとして有名である。
「失礼ね!!奥方様が調子悪いから勤労して貰っているの!」
「魔獣子爵は領地無しですので。ハハハ、結婚してから知りました」
「笑い事では無いんじゃないかな」
普通、継承権の無い貴族の子弟は、爵位持ちのご令嬢と結婚するのは夢と聞く。
目茶苦茶逆玉の輿として喜べる立場である筈だが、魔獣子爵は違う。
番を求めて放浪癖が有るので、大概特殊任務を帯びて王都を離れていることが多い。
「お嬢様、俺の事よりも」
「そうだったわね。それより最近、スオリジェ軍将閣下に婚約者希望が群れをなして列を形成せず、あわや乱闘になりかけているんですってね。無自覚のお人助けが独り身に染みたんですって。
軍将閣下、人格者過ぎじゃない?」
あれから手近な侍女や女官、お茶会に乱入して聞き回ったいや言わせた所、スオリジェ軍将を狙うのは、厚生大臣の娘だけではないらしい。
「ああ。最近離縁が流行っているらしいからね……」
「あれよね。ゴードンから逃げて適当に結婚した組」
ゴードンと結婚出来る立場であった伯爵家以上の娘を持っている親や本人が焦って適当な所へ結婚させた時期がある。
適当な結婚でラッキーにも幸せを掴んだ者も居れば……三割程破綻していたらしい。
「ホホホ当然よね!人を孤独に追い込んでスケープゴートにした愚か者の末路に相応しいけど!スオリジェ軍将閣下に集るのは困るわ!!」
「君、剣歯虎くんから降りてスオリジェ閣下に鞍替えするのかい?まあ、剣歯虎くんの輝かしい未来の為に痛!!お盆で攻撃するかい!?」
「私の!愛は!!フリックに捧げられているのよ!!ああ忌まわしい清らかな乙女好きな癖に!!自分は手垢に塗られたヨゴレ馬の癖に!!何て汚らわしい奴なの!!ロジェル嬢は逃げるべきよ!」
「はあ!?乙女ロジェル関係無くないかねミューン!!って言うか痛い!!」
「お嬢様……物を大切にせよと、フリック様から」
「はっ!?フリックが!そう!フリックよ!フリックが言ったのなら仕方無いわね」
そして何事もなかったかのように、ミューンは砂糖壺の下に敷かれていた銀盆を置き、優雅に紅茶から漂うキャラメルの香りを味わった。
「……これから剣歯虎くんと話すことにするよ。彼を窓口にしてくれないかね」
「あんたまさか、美少年まで範疇内なの!?」
「何でだね!?私は乙女ロジェルが居るんだがね!?」
ソラニ子爵家の前当主はとある村娘にゴリ押し気味で結婚した魔導師です。




