羽なしハーピーは侯爵令嬢を招く
お読み頂き有難うございます。
事件後、修道女アルベリーヌがミューンとフリックを招いたようです。
「あの茶番劇……いえ、試練にご協力頂きまして……。そして、見事なお手前、感心しました」
フリックと一緒に修道院に招かれたミューンは、本に躓く。
袖を引っ張られたかと思うと、個室に引っ張りこまれて頭を下げられた。
「いえいえー。結局コンラッドに良いところを取られちゃったわ。散々に罵ってやれなかったの!」
「そうですか。……寧ろそれがドレッダ嬢の戦略と受けとりましたが」
「フフッ!もっと派手にやっつけてやりたかったわ」
「……ええ、やる気であればもっとゴードン殿下……いえ、義理の……姉妹の夫は何て言うのでしょう。複婚の表現はこの国に有りませんし、難しいですね」
「一応親戚関係であられるんだし、アレとかコレとかソコのでいいんじゃないかしら。意味有りげねシスターアルベリーヌ」
この修道女は本当に底知れない。ミューンは口を尖らしそうになって、慌てて表情を引き締めた。
「ええ。コンラッド宰相閣下と組まれて、まるで取り巻きのように囃し立てる立場におられました。陛下のお出ましで、更に控えた位置におられたとか。
貴女はもっと目立つパフォーマンスがお得意な方ですのに」
何でそんな見てきたみたいに知ってるんだ、とミューンは内心引いた。
あのゴードンの傍にいた妹のハーピー嬢が余程細かく報告したに違いない。が、誤魔化すことにした。
「えー、そーんなこと無いわよ」
「何故ポーズを付けるんですか?それは誤魔化しに必要でしょうか?」
ミューンの雑誌で見て何かに使おうと真似た渾身のポージングは、アルベリーヌに冷静に突っ込まれた。
「あの場にはフリックがおりましたしね。お心のままに無慈悲に手を下す残酷シーンを見せずにいられたことは感謝致します。
ドレッダ嬢個人の格好付けも有るようですが」
「ぐぐぐ……。何でそんなにお詳しい&ツッコミが激しいのかしら」
「僭越ながら、フリックも愛し子。母親代わりを自負しておりますので」
シレッと宣うアルベリーヌに、ミューンは大袈裟に眉根を寄せた。
「……怖いわ。母親の勘怖いわー。私にはお母様が長く居ないからイマイチ分からないけど。ってそれよりよ!其方こそ誤魔化してるわねシスターアルベリーヌ!」
ばん、とミューンはアルベリーヌの目前に本を置いて……手の痛みに後悔した。
ミューンが置いた絵本の表紙には、寄り添うふたりのハーピーの少女、そして周りには色々な幻獣人が描かれている。
「丁寧にお扱いください。手も本も痛みます」
「全くね……結構痛いわ!力加減大変よ!
これだから派手なパフォーマンスは練習が必要なの!これからはやめとくわ」
「何かが違う気もしますが……どちらでこの本を?」
「いや白々しいわね。鷹の子が読んで放置してたわよ」
「ちがうよー。かしたげたんだよー。もおー」
「あっ!こらマーブル!ミューン様とシスターの邪魔しちゃ駄目だよ!すみません!直ぐ連れていきますね!」
窓の外から可愛らしい抗議の声がしたので振り返ると、可愛らしい翼を生やした鷹獣人の子が窓枠にぶら下がっている。慌ててフリックが飛び上がって引き離して連れていった。
「フリック!あーあっちに混ざりたい……」
「……あの子は双頭の鷹の一族なのですが、双頭に生まれなかったと言う理由だけ捨てられたのです」
「訳が分からないわね。あの羽の先の黄色い所とか可愛いじゃないの。……其処の蛇の子もよね?」
庭では、先がピンク色に染まった尻尾を持った白い髪の幼児がボールを引っ張り、同じように転がって遊んでいた。慌ててフリックが駆け寄る様子に、またミューンの顔が緩んでいる。
「三つ口の蛇の一族です。三つ口に生まれなかったから捨てられました。
この場にいる私の愛し子達は、世界一可愛らしいでしょう?」
「ええ、メロメロねシスターアルベリーヌ。私にとってフリックが最高だけど確かに皆可愛いわよ。……これは、浮き川の島の物語なのね」
「売れないのです……。ノンフィクションは当事者以外には人気がないようで」
「そ、そーれはー……題材によるんじゃないかしら?」
言いにくそうなミューンに全く困った様子もなく、アルベリーヌは首を振って話を続けた。
「浮き島に沢山の種族が住んでいた昔。
ハーピーは皆様と同じく一夫一妻制でした。他の幻獣人や古生獣人と多少の諍い有れど、領分を弁えて暮らしていたのです。
崩れたのは……ある年から雌しか生まれなくなり、雄は奇病にかかりました。雄しか生まれなくなった種族も居ました。
詳しい理由は今でも分かりません。
ある日、一羽のハーピーが他の種族の雄に拐われました。それを皮切りに、浮き川の島に住まう住人の中、拐い拐われる地獄が始まったのです」
このページですね、と開かれたページの挿し絵は、絵本の柔らかい絵柄でも……痛ましい。
「……幼児向けなんですのよね?」
「愛し子達には人気なのです。自分と同じ種族が出てきますし」
良く見れば、ベンチにもブランコにも……結構同じ本が転がっている。
修道院は色んな子供で溢れています。




