金糸雀と葡萄
新年、あけましておめでとう御座います。
今年もお読みくださいました方々に感謝を!
二番目の狼王子ユーインの昔の話となります。
此処は、不思議な虹色油で動く歯車が音を立てて働く国、シャーゴン。
あるところに、一人の兄がいる小さな狼の王子が居ました。
赤褐色の髪と耳と尻尾を持つ彼はとても明るく賢くて、家族皆に可愛がられていたのです。
「おお、何と可愛らしい王子だ」
「見て、尻尾がぽわぽわしているわ。綿毛のようね」
ある日、彼が8歳の時。小さな弟王子が産まれる。とても可愛い赤ん坊で、皆みーんな夢中になってしまいました。
それからお母さまは弟に掛かり切り。
お父さまはお仕事にお忙しい。
お兄さまはお勉強にお忙しくなってしまった。
弟王子に皆を取られ、王子さまはひとりぼっち。
家族は、誰も王子さまを気に留めてません。
お庭の片隅で穴を掘っていて泥だらけになっても、御夕飯の時間にも。
だあれも迎えに来ない日が有ったのです。
そんな日に、王子さまは一人の異世界種に出会います。
その異世界種は、王子さまに負けず劣らず泥だらけでした。
「い、犬だ……」
「いぬ?違うよ」
彼との出会いが、王子さまをの寂しさを少しだけ無くしてしまったようです。
旅人である彼のお話はとっても面白くて、壮大で。
巨大な遺跡のお話に、お城から出たことのない王子さまはすっかりと魅入られてしまったのです。
そして、色んなお話の後、異世界種は王子さまのことを聞きました。
お父さまのこと、お母さまのこと、お兄さまのこと、そして弟のこと。
色んなことを問われ、答えました。
「政略結婚?そりゃカワイソーだな」
「どうして?お父さまもお母さまも、シアワセだよ」
未だ幼い王子さまは政略結婚のことをよくは知りませんでしたが、両親が仲良しなのは分かっていました。だから、異世界種が眉根を寄せる意味が分からなかったのです。
「だって、好きな奴と結婚できないの、マジ不幸だぜ?俺の親なんか、それで別れたし」
王子さまは婚約者、金糸雀色の髪のプリシテと5歳の時に婚約をしていました。
未だたくさん会ったことは有りません。『少し気が強いけれど、良いご縁ね』とお母さまが言っていたから、王子さまに不安は有りませんでした。
異世界種と会えたのは、それっきり。
彼らは、自らの意思に反して何処かへ行ってしまう種族のようなのです。
その日、王子さまは沢山泣きました。
家族はその涙で王子さまを寂しくさせていたことを気付き、沢山謝ってくれたのです。
久々にお母さまのお布団で、お母さまに抱きしめられた王子さまはすやすやと眠ることが出来ました。
次の日、頭の左右をドーナツのように丸めて結んだ、金糸雀色の髪のプリシテが来ました。何故か、少し頬っぺたを膨らませ、むくれています。
「おさびしい思いをしていらしたのに、気付けず申し訳ありません」
言葉は丁寧。なのにトゲトゲした声に、王子さまは驚きます。
確かに寂しかったけど、王子さまはプリシテに慰めて欲しいとは思わなかったので、その膨れっ面に首を傾げました。
「ええと……誰かに、いわれてムリヤリきたの?」
「いいえ、わたしの……考えでここにきました。わたし、殿下にながらくおつかえするのですから」
好きな人と結婚できないのは、不幸なのだろうか。
あの異世界種の言葉が甦ります。
王子様の心は、少し軋みました。
そして、王子さまは大きくなり。
兄が遊びまわって大怪我をしたり、甘やかされて自由奔放に育った弟が、国の重鎮である侯爵令嬢相手に派手な喧嘩を売ったのを見ました。
特に弟の件は、それはもう、侯爵令嬢のお父さまの大臣は怒るし、お父さまやお母さまを巻き込んでの大騒ぎ。
王子さまは首を傾げました。
お兄さまも、弟も自由にしている。自分だって好きにしてもいいんじゃないだろうか。
「……私も少し、自由になってみたいな」
そう、例えば。
遺跡のことをもっと勉強する為に、学校へ入るとか。
そうして、お父さまに頼み込んだ王子さまは身分を隠して大河の傍にある学校へ入学することを決めるのです。
そこで、出会ったのは葡萄色の髪をおさげに結んだマリエット。
同じく身分を偽って入学させた従者と共に迷う王子さまに、親切に声を掛けたのです。
葡萄色の髪のマリエットは、国では少し大きめな商家の次女。
大きな商売へ繋がるような、立派なお家のお婿さんを探していました。
「あたし、マリエット。宜しくね!」
「僕は、ユーイ」
偽名を名乗った王子さまは、葡萄色の髪のマリエットとにこやかに握手を交わしました。
その後、ふたりは学友として仲良くなりました。
でも、その交流を。金糸雀色の髪のプリシテが唇を噛んで耐えているのを、王子さまは知らなかったのです。
中間子も大変です。




