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初恋を踏みにじられたので、可愛い番を作ります  作者: 宇和マチカ
探しびとは異なるもの

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ご機嫌と体調の反比例

お読み頂き有難う御座います。

今回から不定期更新とさせて頂きます。良しなに。


 ドレッダ侯爵邸の、白が基調ながらも薄い緑の家具や縫いぐるみが増えてきたのミューンの私室。

 昼を過ぎて少し雲が掛かっており、日差しは入らない。

 部屋の主は寝巻きに身を包み、ベッドに横たわっていた。

 顔色は血の気が引いており、良くない。だが、体調に反してご機嫌は右肩上がりに伸びる一方であった。


「あーん、出来ますか?」


 フリックは結局怒鳴りすぎて貧血を起こしたミューンの側で林檎を剥いていた。八等分に切り分けた林檎をフォークに刺し、ミューンの口許へ差し出す。


「う、ふふふふふふふー!勿論よ!あーん!出来るわ!」


 ミューンはそんな番の様子に隠すこと無くデレデレして、林檎を口に含む。


「フリックに剥いて貰った林檎は、シャクシャクで甘くてとろけちゃうわ!」

「い、いい林檎だからですよ!でも、その、うみゃ。あ、嬉しいです」


 はにかむフリックに、ミューンも蕩けてしまりが無くなった笑みを返す。

 永遠に続けていたい、果物を剥いて食べさせて貰うだなんてイチャイチャって素敵。ミューンの頭は貧血も有ってホワホワしていた。


「果物が剥けるなんて、器用なのねフリック」

「シスターアルベリーヌが教えてくださいました。だから、ミューン様が望むなら何時でも剥きますからね」

「……あのシスターは本当に偉大で偉人なのね……。未だお若いでしょうに、老成しておられるわ……。さぞかしご苦労なさったんでしょうね。フリックとコレッタ嬢を助けてくださって、本当に感謝しなきゃ」

「ミューン様……」

「お礼は汚れが目立ちにくい冬用カーテンが良いんですって。張り切って寄進するわね。うーむ、ピンクグレーかベージュかしら?でも子供がいるのだからもっと明るい色が良いでしょうに…」

「みゃ!?げ、現実的なひとでも有りますから……」


 て言うか、ちゃっかり貰うものは貰うスタンスな所は相変わらずドライでリアリストだな、とフリックはちょっと冷や汗をかいた。


「お嬢様」

「入りなさい」


 軽いノックがしたので、ミューンが許可すると執事が入ってきた。

 銀盆に捧げられていたのは、一枚の書類のようだ。


「お父様ったら本当にお仕事がお早いわね、配達ご苦労様」

「光栄で御座いますお嬢様。お館様は迅速を好まれますので。フリック様、失礼致します」

「あうみゃ!?あ、有難う御座います」

「とんでもないことで御座います」


 そして剥き終わった小さな俎板とナイフ、乗っている皮や種を綺麗に引き上げ、果汁に濡れたフリックの手まで蒸し手巾で拭い、礼に微笑むと音もなく去っていった。


「……此処の方々は、本当に親切ですね」

「え、あらそう?そう言ってくれると働き甲斐が有るって喜ぶわ!此方こそ使用人達に何時も素敵なお礼を笑顔で言ってくれて有難うね、フリック」

「あ、あの。はい」


 頬を染めるフリックに抱きつきたかったミューンは、また少しフラついていた。また頭に血が上ったらしい。

 血の気が多い性格だが、現実は昔から体が少しだけ弱いのである。


「それで、あの。その、異世界種のひとを見つけるのってどうやるんでしょう?半端島に行くには陸路で1ヶ月掛かりますよね?」


 空を飛べば十日程に短縮出来るだろうが……明日自家用飛行船を飛ばしましょう!とか言わないか、フリックは地味にビクついた。

 フリックには想像も付かない資産持ちの侯爵家なので、普通に持っていそうだから洒落にならない。


「うふふ、だからこれ。各牢獄の囚人のデータよ。蒸気船か蒸気飛行船で交互に来てるのよ。メメル大河はお役立ちよね」


 メメル大河には多くの船が往来しているが、そんなデータを乗せた船が混じっているとは知らなかった。

 そして意外と普通の手段だったので、フリックは胸を撫で下ろした。


「蒸気飛行船便は十日ごと。蒸気船便は十三日ごとね。遅めの蒸気船便の方がデータが多いのが不便だわ」

「飛行船は油代が掛かりますし、重いと飛べませんからね」

「高速飛行船は更に油代が掛かるらしいわ。っと、そんなことよりも。これね。異世界種、は……えーと。これかしら。色味は茶色と茶色っぽい黒。オクヤマカルタ」


 ミューンの血の気の薄い人差し指を目で追い、フリックははたと気付いた。

 部外秘と捺された判に×が書かれている。重要そうにしか見えない。


「ええと、部外者の僕も見てもいいんでしょうか?」

「フリックが二重にチェックしてくれると安心だわ」

「……し、失礼します。絶対に、漏らしませんので!!」

「あー、フリックが食べさせてくれるなんて。本当に美味しいわー」


 危険なひとを好きになってしまったかもしれない。切った林檎を彼女の口に運びながらフリックは今更実感するのだった。


「……歳は、10代から20代、ですか?」

「本当に無茶苦茶な生き物ね。はー幸せー」


 45年前にスオリジェが出会ったのは本当に本人なのだろうか。異世界種に常識は通用しないようだが。


「あれ、でも出獄予定って出てますね。15日後?」

「もう直ぐ出てくるのね。先んじて取っ捕まえて閣下の事を聞きましょう。軍は事務処理が遅いから、難航してると思うわ。恩を着せて私達を派手に祝福して貰いましょう!うふふははは!」

「そ、そうです、ね?」


 恩を着せずとも軍将なら祝ってくれそうだけどなあ、と思わなくもないフリックだったが、番が可愛く笑って楽しそうなので同意してしまった。

因みにミューンは果物の皮は剥けませんが、火打石で火付けは出来ます。

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キャラクターが多くなって来たので、確認にどうぞ。
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