軍将の探しびととフリックの災難
お読み頂き有難う御座います。
スオリジェの探しびとが明らかになります。
「異世界種を探せなんて無理ですよ。奴ら、俺よりも姿を変えて失踪したり沸いて出たりする生き物じゃないですか」
「苦戦すると分かっているのだがな……」
「まあ、異世界種?閣下は、異世界種をお探しですの?」
そう言えば偶に見かける気がするが、随分神出鬼没で不安定な者だと聞く。大体一点集中型の技能を持っているらしいが、それ以外は実に体も弱くヘナチョコらしい。
軍将が自ら追いかけるような異世界種の者とは、やはりミューンに思いも寄らないようなエグくて恐ろしい凶悪犯なのだろう。何の罪を犯したのだろう。今すぐにフリックへの護衛を五倍に増やさねば……!!とミューンは固唾を飲んでスオリジェの返答を待った。
「45年前に消えた恋人なのです」
ミューンは思いも寄らぬ返答に絶句して、瞬きした。
恋人。
どんな凶悪犯ですか?顔怖いですか!?と聞かなくて本当に良かった!とミューンは安堵した。
「いやですからね。閣下は初恋拗らせ過ぎでは」
「失礼でしょジュラン!!アンタみたいな縺れた仲を余計拗らせる馬よりも、とても誠実で純愛じゃないの!!」
ミューンは自分の事を棚に上げて、ゲンナリするジュランを叱り飛ばした。
「失礼だっての!一角獣だよ!!」
「種族なんて本当にどうでもいいのよ!こんな切ないご依頼を無下にするだなんて本当に悪人ね!!」
「悪人じゃないとは言わないけどな!?
通常の人探しじゃねーんだよ!ザブジャブジャブーンに居るかもって話だって」
「まあ」
そりゃ地味に遠い。隣国だが、山を越え谷を越え他色々越えて国境まで1ヶ月弱掛かるらしい。
「ザブジャブジャブーンの裏稼業ネットワークにも依頼掛けてるんで、ご勘弁ください。今、人手が足りないんですって」
「祖国ですが、梨の礫ですな」
スオリジェはザブジャブジャブーンの出身らしい。
外国人が軍将になれるなんて、ウチの制度って意外と開けてたのねとミューンは少しだけ感心した。
「僭越ながら、吾輩が馬車迄お送りしましょう」
「まあ、軍将がご一緒なら心丈夫ですわ。有難う御座います」
結局スオリジェの前でジュランを心ゆくまで罵る訳にも行かず、ミューンは手ぶらで帰る事となった。
確かに馬車迄は近いが、先程の酔っぱらいの例が有るので有難い。勿論護衛は付いているが、彼らを使うと揉み消さないといけないので面倒だ。立場の有る軍将に表沙汰に守って貰うに越したことはない。
早く帰らないとフリックを出迎えられないわ……。
今日のお菓子は何が良いかしら。可愛らしい柄のクッキーを喜んでいたから、可愛らしい形のマドレーヌやフィナンシェを……。
とミューンが考えていると、表通りに着いた。本当に遠くない。馬車の御者が恭しく待っている。
「有難う御座います閣下、此方で……」
丁寧にお礼を言うと、商店街の向こうでモメている声がする。
「だから待ってよ!!教えてってば!!」
「何なんだよ着いてくるな!!」
「いーじゃんアンタ賢いんでしょ?ケチケチすんなって!」
「僕に触るなよ!!」
「うわモフモフでツンデレ美少年とかテンプレ!」
どうやら十代のカップルがモメているようだ。
茶色の髪の少女が若草色の髪のネコ科の少年に絡んでいる。
「……何故」
「ミューン嬢?」
若草色の髪に、同じ色の尻尾と虎耳を膨らませて、朝、見送った姿と同じメメル校の制服を着た少年。
「だから僕に触るな!!僕に触って良いのはミューン……さま」
「うおよ?」
少女の手を振りほどき、ハッと何かに気付いた少年……フリックは、鼻をフンフンと動かした。
「あ、ミューン様!!何処に」
「ふ、フリック……」
駆け寄ろうとすると、細身の女がフリックに抱きついた。
「友達になろーって言ってるだけじゃん!!頼むから話聞いてよ!!」
「ぎゃっ!!」
「うおモフモフ!!」
目の前が真っ暗になった気がした。
あの女、私のフリックの尻尾を、掴んだ!!
私の、私のフリックに触った!!あんな、私しか許されてない尻尾を触った!!
獣人にとって、番にしか触らせないって言ってたのに!!
ミューンは、怒り狂っていた。
「誰か。あの痴れ者を撃って!!」
がちゃり、と撃鉄を起こす音が聞こえるも、後ろで取り上げられた。
どうやら護衛が構えた銃を取り上げ、スオリジェが妨害したらしい。
「止めんか!!な、なりませんぞミューン嬢!街中です!」
「では閣下、あの痴れ者を逮捕してくださいませ!!」
「確かにアレは目に余りますな」
「きゃあっ!!な!何なのよ!?」
「みゃっ!」
スオリジェの合図で大勢の警備騎士が押し寄せ、昼下がりの商店街は大騒ぎとなった。
よくトラブルに巻き込まれるヒロイン体質なヒーロー、フリックです。




