王子の説得者
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「ミューン、彼らが誤解しているだろう!無いからね!
我々の匂いを察知して、ユーイン殿下が逃げるかもと言ってるのだよ!」
フリックとシュラヴィの困惑が伝わったのか、コンラッドは慌てて事情を説明する。
しかし、匂いを察知したら逃げるとは……野生動物じゃないの!しかも失礼だし!とミューンは憤慨していた。
「寧ろ出てきて、ゴードンの非礼を私に兄として詫びて欲しいわ。王太子はスルーだったのよ!!
コンラッドは嫌がられて当然でしょ!!」
「失礼だねミューン!私だって被害者なのだが!」
「どうでもいいわよ。全く、厄介な犬科ね!匂いくらい王族の大人なんだから我慢しなさいよ!」
実際ミューンだって、気に入らない人々との交流を我慢しているのだ。筆頭はゴードンだが目の前のコンラッドとか!何で匂いが気に食わない、そんな我が儘が見逃されるのよ許さん!とミューンはイラッとした。
「昔付き合っていたご婦人とおんなじ化粧品の匂いがするから嫌だそうだよ。えーと、ゴッテリだったかね?」
意外な事実が判明したようだ。ミューンに関係ない、そんな理由で避けられていると知り、激高する。
「何よそれ!!何であの殿下のために化粧品のメーカーを忖度しなきゃならんのよ!?
後、ゴッテリじゃなくてゴッチャーリよ!」
名前が似ているので、訂正したミューン自身も何回か間違えたことが有るのは黙っておいた。
「ミュ、ミューン様、落ち着いてください」
「確かにこの頃のゴッチャーリのマスカラは落ちが早い割に化粧落としで中々取れないし、容器は2回落とした程度で直ぐ割れて……あれ?」
しかし、意外と不満点が沢山出てきた。
「それ、変えた方がいいんじゃありませんの……」
「嫌よ!!そんなに変えて欲しけりゃ、前のゴッチャーリのクオリティの奴を見付けてきなさいよね!!最近アレ乾燥するのよ!」
「何でわたくしが!?
大体、ゴッチャーリって死ぬ程お高い化粧品じゃありませんの!羨ましい!!単に肌質が変わられただけでは!?」
「うーん、全部デコッチャーにしようかしら……。開けて間もないのと買い置きが三本有るしねえ。マスカラもこの間新色全部取り寄せて新品だし……」
「そ、それもうワンランクお高い奴……。こ、これだから貴族は……!不要品ください!!」
遠慮無く物をねだるシュラヴィに、プライドは無いのだろうか、とやり取りを見ていたフリックは思って引いた。
「ねえフリック、貴方のお姉さまお化粧は?あーでもお好みによるわ」
「へえっ!?」
「無視ですの!?私は皮膚が丈夫ですからオッケーですわよ!!腹立たしいですけど物に罪は有りませんし貰ってやりますわ!!」
「化粧談義は男にはよく解らないが、もういいかね」
延々とフリックを巻き込んで迄続きそうな話の流れに、コンラッドが突っ込みを入れる。正直フリックにも解らないジャンルだったので、コッソリと安堵のため息を吐いた。
「あ、普通に若いご婦人を嫌がられる事もあるから、接触するのは男が良いね」
「そっち先に言いなさいよ!!」
そもそも、化粧品云々のくだりは嫌がらせか!とミューンは激高した。絶対変えるものかと思ったが、変更しても良いかなと思ってしまい余計に腹が立ってしょうがない。
「えっ、第二王子殿下って、女性嫌いですの!?」
「婚約者に去られてからは、更に考古学にのめり込まれてね。
あれ、メメル校を恋愛禁止に変えた歴史的大悲劇を知らないかね?」
「変な女に横恋慕されて着き纏われた挙げ句、本命にフラれただけよ」
先程の意趣返しに、コンラッドのもって回った言い回しを、ミューンはズバッと斬って棄ててやった。校則は変わったが、歴史的とは大袈裟すぎる。
「ミューン、君ってこう、形式美は無いのかね。良くないよ!」
「煩いのよ!……待ちなさいよ、てことは、フリックをユーイン様にぶつける気!?」
「ぼ、僕ですか!?」
「消去法だが、善良且つ番持ち。オマケにメメル校の優等生の古生獣人の雄。いやあ、適任で何よりだ」
「……いや、普通に無理よ。フリックに殿下を説得させるなんて」
「おや、ミューンは番を信じないのかね?」
ニヤリ、とコンラッドは笑った。ミューンには見えないが、勘で解る。手探りでフリックを止めようとしたミューンの手は、やんわりと外された。
「……あの、僕……お話してみます」
「フリック!?」
「僕も、ミューン様との未来が欲しいので。王子様にお話をしてみたいです」
狼は鼻が良いですから一度匂いを嫌うと大変そうですね。




