利害の一致
お読み頂き有り難う御座います。
フリックの怯えた様子を感じ取ったミューンは、微笑んだ。が、目隠しのせいでちょっと明後日の方向を向いてしまっていた。
「大丈夫よ、フリック。多少機密を聞いたところで、しらばっくれていいのよ」
「そ、そんなこと出来ませんよ」
「ふふふふ、善良な子だね、剣歯虎君」
コンラッドの笑い声にイラッとしつつも、ミューンは彼がいる方向らしき方を向いた。
「……こういう突飛で真っ赤な大嘘を並べ立ててまで、ゴードンを痛め付けたい気持ちは買うわ。只、フリックを怯えさせたのは大減点よ!」
「ミューン様!?」
ミューンは目隠しのまま、怒りのままに立ち上がろうとして……またよろけて、側のフリックにすがり付く。
「フリック!コンラッドはどっち!?ええい、行儀悪いけど指差してやるわ!」
「え、ええと!?ひとを指差しちゃいけませんよミューン様!」
「見えないとは言え、よくコケる方ですわね……」
「ふんっ!何とでも仰い!爬虫類な姿が見えなければ平気よ!」
「トコトン失礼ですわね!!」
「君は本当に番本意に生きているね……。番に全力過ぎて逆に引かれるよ」
思わぬ言葉に、フリックは目を剥いた。
「そ、そんなこと。ひ、引きませんよ!」
「そうよ!外野の癖に煩いのよ!
大体ねえ、貴方だけに秘密を教えます!とか、時間が迫っております!なんて詐欺みたいな手段よ!胡散臭くて悪辣な商売の模倣なの!?」
「別に時間制限は設けていないよ。タイムセールに偏見過ぎやしないかい。何か損でもさせられたのかね?」
「煩いのよ!ああ腹立つ!」
「あの、ミューン様」
くいくい、とミューンはフリックに袖を引っ張られる。
「何かしらフリック。帰る?」
「いえ、ミューン様。あの、どうしてユーイン様を王様に推す必要が有るんですか?ゴードン様は、その、兎も角。王太子様がおられるのに……」
「そ、それもそうだわ。わたくしも気になるわ、どうしてかしら」
「ほうほう聞くかね?少し前に王太子殿下と王太子妃殿下がね」
そして、興味の赴くままに聞いてしまったシュラヴィは……頭を抱えた。
「聞きたくなかったです!聞くんじゃなかった!」
「物凄く迂闊でウッカリな爬虫類女子ね。自分だけでも逃げりゃ良いのに、何で害しかないコンラッドの話なんか聞くのよ。さっきで懲りなさいよ」
「失礼ですけど、言い返せませんわ!でもフリック・レストヴァだって!」
「フリックは私が守るわよ。コンラッド如きどうってことないわ」
「酷いわ!!差別よ!」
「君達、相性が良くないのだね。それで、剣歯虎君は理解してくれたかな?」
喚き合う女性陣をスルーして、コンラッドに水を向けられたフリックは、恐る恐る口を開いた。
「……つまり、王太子様ご夫婦の仲が芳しくないので、お子様が居られるユーイン様が最適、と仰りたいんですか」
「そうだよ!君は中々物分かりがいい剣歯虎ではないか!」
「当たり前よ!私のフリックなのよ!」
フリックを誉められて誇らしくなったミューンは胸を張った。しかし、その本人の声は何故か少し暗い。
「……ユーイン様は、玉座をお望みなんですか?僕達の婚約宣誓書に署名くださった恩人ですよね。もしお望みで無いなら止めて差し上げた方が」
「残念なことに、あの兄弟は全員玉座に無関心なのだよ。仕事はするんだけどね」
「そ、そうなんですか
骨肉の争いが起こるよりはマシでしょうが、それもどうなんでしょう」
そう言えばバッサバサではその骨肉の争いが起こっていた筈だが、シュラヴィは反応していない。この子も色々有るのか、頭が良くないのかしらとミューンは思った。
「だから、過去に真面目だったユーイン様が適任だと思うね。まあ、ミューンがゴードンを操れば何とかなったのだが」
「そ、それは絶対駄目です!!絶対駄目です!!ミューン様は僕のです!!」
「フリックったら!」
フリックの必死さに感動したミューンは抱き合いたかったが、そもそも見えない上にまたコケそうなので諦めた。
「……この空間、さっきからわたくしに物凄く苦行なのですけど」
「煩いわね。でも仕方ないわ。私とフリックの愛で引きこもる日々の為にユーイン様を王位に引き上げましょう」
「引きこもりは体と精神に良くないよミューン」
考えてみれば、フリックと領地に引きこもり幸せに暮らすには、王国が平和でなければ出来ない。
コンラッドに手を貸すのは不本意で嫌でイラッとするが、仕方ないわとミューンは気持ちを切り替えることにした。
「どっちにしろ、ユーイン様にコンタクトを取らないといけないわ。あの方、何処をほっつき歩いているのかしら」
「あの方はほっつき歩かないよ。壁の前を常に動かないのだからね。彫像のように」
「はー?あの方、まだあの壁調べてるの?まさか何か飛び出してくるのかしら」
「壁に張り付いた虫くらいしかないだろうがね」
「虫ぐらいならいいけど、古代の怨念とかなら嫌ね。権力が効かない相手とは喧嘩すべきじゃないわ」
因みにミューンは権力が効くなら、何とでも喧嘩するつもりだった。
「しかし、私とミューンでは会えないかもしれない。あの方は特に匂いに敏感だから」
「コンラッドは性格が悪い匂いだろうから仕方ないけれど、何で私を避けるのよ」
性格の悪い匂いってどんなのだろうと、フリックとシュラヴィは首を傾げた。
ミューンの最終目標は、平和な領地での愛の日々です。




