いつの間にか交渉のテーブルへ
お読み頂き有り難う御座います。
「ぎゃあ!?」
「お嬢様!?ご無事で!?あっ、さっ、宰相閣下!?」
何と、ミューンを避けて器用に落ちてきた塊は天井を開けて入ってきたコンラッドだった。
「ふむ!オープンルーフ式の馬車は、警備的に芳しくなさそうだ。空からの襲撃にとても弱い。良く分かったとも」
「何ウチの馬車の屋根に潜んでんのよ!!非常識なの!?非常識だったわね!!」
侯爵家の馬車の天井窓は、乗員が外の景色を楽しむ為に内側から開けるシステムなのだが、何故外側から開けられたのだろう。無駄に器用なコンラッドに、ミューンはイラっとした。
「まあまあ。搦め手で無いと聞かないだろう?うわっ!埃が立つだろう!!」
しかも、しれっとミューンの隣に座り込んで来ている。ミューンは怒りで載せているクッションを投げつけた。
「早く降りなさいよ不法侵入で突き出すわよ!!法務大臣の愛娘の力を馬鹿にしているわね!?後、普通にアンタと二人乗りが嫌!!」
「其処まで嫌うかね!?もっと大人の対応は無いのかね!?」
「煩いのよ早く降りろ!」
「ええと、お嬢様……」
御者もまさか宰相が乗り込んでいるとは思わず、手を出す訳にはいかない。ワアワして目を白黒させていた。
「んぎぎぎぎ!アンタなんか窓から出なさいよ!!道で!頭を打つが良いわ!」
「非力だが痛いよ、ミューン!!」
「お、お二方!?」
そして、中ですったもんだしていると、メメル校近くの商店街に馬車は差し掛かる。
「あれっ、君の愛しの番では?」
「ああっ!?フリック!」
コンラッドを馬車から叩き出そうとしていたミューンは愛しの番の姿を見つける。
そして道端で大騒ぎを繰り広げ、今に至るのだった。
「……うーん、やっぱりコンラッドの声を聴いていると思い出し怒りが収まらないわね。話の前にガツンと一発ぶたせなさい」
「あ、危ないですよ!!」
ミューンは目隠しながらも手を振り回してよろけて、慌ててフリックに支えられた。
「さんざんクッションをぶつけて来ただろうに!!」
「……何というか、騒がしい大人ですわ」
「……」
ミューンとコンラッドの掛け合いを、フリックは少し戸惑ったように眺めている。
「フリック!?どうして黙ってしまうの!?言っておくけど、コイツの女性遍歴は見た目に反して貧相だから!私のように素敵な女性が範囲外なだけよ!!」
「自分で言うかね!?ミューンも大概図々しいし、失礼極まりないからね!!」
「え、あ、あう……えと、えーと」
「安心したまえ、剣歯虎君。私には、想い人が出来てしまったのだよ。まあ、そうでなくてもミューンは対象外だが」
「そ、そうですか」
そうハッキリ興味がないと言い切られても、フリックは何だか面白くないらしく、顔を曇らせた。
しかしそんな彼に構わず、コンラッドは声を張る。
「では、聞き給え諸君。私の輝かしい一昨日までの出来事を」
「意外と最近ですわね……。まさか恋バナ?聞くの初めてですわ」
「え、何で?コンラッドの?それ要るのかしら?聞きたくないわ……」
「ま、まあまあミューン様。宰相様のお言葉を聞きましょう……」
意外とノリノリのシュラヴィに、嫌そうなミューンを宥めるフリック。そんな彼らを前に、コンラッドは朗々と語り始めた。
「……と言う訳でね」
「日頃の行いが悪かったことを反省しなさい、以上よ。
フリック、この食べさせてくれたお菓子とっても美味しいわ。家では私が食べさせてあげるからね!」
「酷くないかねミューン!?」
「え、あう……。あ、有難う御座います」
つまり、勝手口に何か落ちてきたので見に行ったら、好みの女性だったのでちょっとだけ婚約破棄を手伝った。そして満を持して口説こうとしたら、ゴードンに酷い妨害を受けた、許さん!という話らしい。
フリックに世話を焼かれデレデレつつも、ミューンはコンラッドの話を一刀両断に切って捨てた。
「その勝手口のお嬢さんに同情しますわ……。
そのもと婚約者と浮気相手女が、あらぬところを玉虫色に焼かれて良かったですわね」
「……だろう?」
マトモにコンラッドの話を大人しく聞いていたのは、シュラヴィだけらしい。ミューンは食べさせてもらったマカロンを咀嚼し終わると、鼻で嗤った。
「それ、コンラッドの手柄でも何でもないじゃない。
その子がちゃーんと勉強して指摘してこその、勘違い男の自滅だわ。
大体、ちょーっとだけ横槍入れて、書類を拵えただけなのに、多分ドヤ顔で恩人面なんて、本当に図々しさメガ盛りよ!」
「ミュ、ミューン様……。書類も大事だと思いますよ」
「フリックまでコンラッドに同情するの!?」
「あう!?同情では……。世の中には困ってるひとも他に居るんだって思っただけです。ミューン様みたいな優しいひとも居ますし……棄てたもんじゃないなって」
「フリック!!ええい見えないわ、抱き締めて!」
「はう!?ひ、人前ですから!」
フリックは、突然のミューンのリクエストにアワアワしていた。
「は、ハレンチだわ!!何顔と胸を見てるのよフリック・レストヴァ!!」
「む!? ち、違う!」
「何なのよ爬虫類の子!
別にフリックは私の何処を見ても良いのよ!大体服着てるのにハレンチもへったくれもないわ!見せたくない部分は着てるのよ!」
「だから、わたくしは誇り高き翼竜だって言ってるでしょ!?」
「痴話とガチの喧嘩は止めたまえ。それで、ミューン」
ヒートアップしそうなふたりを、コンラッドが柔らかい表情ながらも有無を言わさぬ調子で、割って入る。
「私の恨みを分かってくれただろう?」
「まあね。何でその場で不慮の事故を巻き起こしてこないのか分からないわ。得意じゃないのそういうの」
突然大人達が起こした、ひやりとした空気にフリックとシュラヴィは身を強張らせ、息を飲む。
「流石に王宮では、ね」
「まどろっこしいわね。結局何をしたいのよ。
危険地域なら、一人で勝手に踏み込んで痛い目見て頂戴」
「子供達も居ることだしここは単刀直入に言おうか。然るべき王位継承者を押し上げたいと思うのだよ」
「ユーイン様を?」
第二王子ユーインの名前をミューンが出すと、コンラッドは頷き……とんでもない言葉を口にした。
「そうだよ。あの方、実は王位継承者であるお嬢様がいらっしゃるんだ。
ご本人も存じ上げないらしいが、私は知っているのだよ」
「おじょっ!?」
「へえっ!?」
第二王子ユーインの、子供。
その爆弾発言に、シュラヴィは叫びそうになって口を押さえ、フリックはミューンの腕にすがり付き、ミューンは眉根を寄せた。
「そ、それ!!わたくし達が聞いたら駄目なヤツですわよね!?漏らしたら、首が飛んでしまうヤツなのでは!?」
涙目で怯えるシュラヴィに、コンラッドは微笑みを向けた。彼の弟を思い出したのだろうか、迂闊に頬を染めている。
「ふはは、勿論だとも。翼竜嬢」
「ひっやああ!!」
「……フリック。私、このコンラッドの手口が昔から嫌いなのよ。無視して帰りましょ!」
「い、い……」
確かに、フリックもとても帰りたかった。が、無視は不可能だろう。
断りきれない心理に持っていくのは基本ですね。
コンラッドの細かい事情は、宜しければ『煤色の乙女は伝説の泉 (私有地) にお供えを投げ入れる』https://ncode.syosetu.com/n0474go/で完結済みにてお送り致しております。




