遇湧限話 三者三様彩りに、心の沙汰と各想い
えー、空気が凍っているので、ちょっと視覚的な解説をいたします。聴覚と感覚を閉ざしてお付き合いください。
ちづるの服装は、布面積の非常に少ない羽織風の着物。いや、着物じゃないと思うんだけど、そういう感じの服。
まるで横に長いひし形の布を身体に巻き付けたように、上半身は両肩からうなじとおへそを晒し、その巨大な胸の谷間に服の端を挟み込んで固定した、上乳も下乳も見えるというエロゲーまっしぐらな恰好。
下半身も下半身で、和装生地を何枚も重ねつつも前が大きく開かれており、なまめかしいふとももが4割くらい覗き見えるエロスカート。
ヒロインがこういう服装で戦ったりするアニメやゲームあるよね? という和風な装いをしている。
うん、普通に好みですし興奮する。やばい、ちづるが頭おかしい。
布地で中央部分だけを細く覆おうとも、とてもじゃないが隠しきれない巨大な胸。
はるまきさんよりも明らかに大きい胸は、知人どころか写真集などを含めても過去見た中で最大。とんでもなく凶悪である。まさしく凶器、死ぬ。
おそらく、胸課金で最大値に巨大化したくらい(金額は途方もない)の大きさなので、ブレイブクレスト内ならごく稀にあのサイズを見るんだけどさぁ。
あれ、生身のサイズなんだよね……前にちづるから写真送り付けられたから知ってる。要らないというのに押し付けられたので、仕方なく大切に保管してます。
言うまでもなく、その顔は女神もかくやという美貌。ぶっちゃけ、顔だけで色々と滅ぼしたり世の中荒らしたりできるレベルの、まさに傾国の美女。
事実、エステリアでは宇宙を傾けてたからなぁ……
あと、財力も頭脳も地位も、全てがわりとパーフェクト。
世の中って不公平だよねという気持ちもあるが、相応の努力もしてるので妬む気持ちはあまりない。
流石のラスボス千羽鶴である。
あ、空気戻りました?
まだやばそうですね、もうちょっと解説を続けましょう。
はるまきさんも絶世の美女と言っていいが、ちづるが妖艶・傾国方面なのに対し、はるまきさんはもう少しアイドル的というか人間的な美しさ&可愛さだ。
身長はちづるよりほんの少し低い、胸囲は負けてる。お腹回りは、服の上からでしか分からないけど、おそらく同等か辛うじてちづるより細いくらいだろう。
服装は漆黒の魔女っ娘スタイル。他人が居る時はローブで丸ごと身体を包んで隠しているが、二人きりとか本気の時とかは邪魔なローブを脱ぐ。こちらもちょっとエロい。
めったに見せてくれないからこその希少性、というのもあって良いと思います。今もいつの間にかローブ脱いでるけど。
あ、とうとうメジャー取り出して測定しようとしてる。やばい、死人が出そう!
PK設定は―――よし、ちゃんと禁止になってるな。ならとりあえず大丈夫か。
みかんさんは……ごめん、中学生だと思ってた。
確かに、胸だけは身長に不釣り合いに大きい。身長に比較したサイズで言えば、三人の中で一番だろうとは思うんだけど。
胸を除いた顔や仕草は、こちらは明らかに可愛い系。あるいは小動物系や妹系、そういった可愛らしさで、はるまきさんやちづるとは方向性がまったく違う。
服装に気を遣うお年頃ではないからか、まだ冒険用の一般的装備と、町中用の普段着の二着くらいしか持っていない、はずだ。
うん、もうちょっと可愛い服を着せたい。着せ替えしたい。
えっと、メジャーの次は、あれ?
みかんさんが座布団取り出して何か言ってる? ちづるが怒りに燃えてる?
状況は分からないけど、いい加減、寝たいなぁ。
───よし、寝よう!
「すみませんが、眠たいのでそろそろ失礼しますね」
「ライナ、邪魔しないで」
「ライナさん、黙っててください」
「主様、止めないで下さいまし」
おおーい、誰一人としてぼくの言った言葉聞いてないよね!?
返事はしてくれたけど、こっち見てないよね?
ほほう、よろしい。そこまで無視してくれるなら、むしろ真正面から受けて立とうじゃないか。
挨拶したからもう落ちていいじゃん、という悪魔の囁きを跳ね除け。
もはや諍うこと自体が目的になりつつあるような三人を、笑って真正面から見つめる。
「ちづる」
「ふぁっ、ひゃい!」
低い声で呟いたぼくの言葉に、ちづるが背筋を震わせ慌ててこちらに向き直った。
「オレの声が、聞こえているな?」
「しっ、失礼いたしました」
迷わず地に膝をつけて土下座する。
えっ、なんでそこで土下座するの? お前の思考回路どうなってるの!?
だが、ここで動揺してはいけない。そしたらまた元の諍いに戻る。
あえてちづるを、土下座したせいで地面で柔らかく広がって深い谷間が垣間見えるのを視界に入れないようにして、言葉を続ける。
「オレはまだ、お前を呼んでいないな?」
「もっ、申し訳ございません!」
「いや、謝らなくていい。今回の救援は助かったから、呼んでいないのにここに来たことは不問にする」
一体、どこまでがちづるの計算通りだったのか。
さっき裏掲示板のログとか言っていたから、あの犯罪者は裏掲示板で人を集めたはず。
募集者の正体が分からない状態で参加を表明したということは、ちづるにとっても今回の件は偶然だった可能性が高い。
……計算づくや暗躍の結果の可能性も捨てきれないのが怖いが、まぁ。そこまで考えるのは疲れるから、偶然だが可能性が高いとみて参加した、ぐらいに考えておこう。
「主様、寛大な処置、ありがとうございますわ」
「うん、許したしお前が悪いと思ってないから、土下座はやめろ」
「かしこまりましたわ」
流石に土下座されてるのは落ち着かないんだ。土下座から立ち上がるちづるに少しほっとする。
少しだけ言葉を選んで、今回の結果と礼を渡す。
「正直、お前の献身にどう向き合えばいいか分からないんだ。
だから、もうしばらく待ってくれ」
「……かしこまりました」
おそらくちづるとしては、今回の件に恩を感じたぼくがちづるの参加を認め、このままスタッフに参戦できると踏んでいたのだろう。
だが、先ほどの諍いを見るに、それはまだ認められない。全部をちづるの思い通りにはさせない。
だって怖いから。いつか、ぼくが罪も痛みも忘れて、流されてしまいそうで。
「感謝しているのは本当だ。だから、後で誘いは出しておくので、気が向いたら受けてくれ。
ユニーククエストには、ちゃんと呼ぶ」
「!
かしこまりました。主様のちづる、その時を心待ちにしておりますわ」
「そんな大げさに考えないでくれ。
運良くユニーククエストを見つけたんで友人を誘った、それだけだからな」
「ゆっ───!」
ぼくの言葉に、再び背筋を震わせ―――
ちづるは、ぴくりとも動かなくなった。
……あれ?
おーい、どうしたー?
あ、駄目だ。絶頂してるっぽい、VRなのに器用な奴だ。
「……えーっと、こほん。ちづるは以上。
次、はるまき様」
「何かしら?」
どこまでも従順(かつ変態)なちづるとは違い、こちらは不機嫌で怒った様子のはるまきさん。
だが、躊躇ったり引いたりはしない。きっちり、話はつける。
「ありがとう、助かった」
「……ん。当然よ、はるまきはライナの相棒なんですからね」
「ただ、メッセージのトラップ通知とか、勝手に変更しないでくれ。驚くから」
「知らないわ。
私に内緒で、他の友人にだけ頼ってるのが気に入らなかったんだもの」
「そこは純粋に、生産職業の差なんですが───」
「いいわ。
だったら私も、錬金術と家具製作を上げるわ」
「ちょっと、はるまき様まで何でちづるみたいなこと言ってんだよ!?」
あと錬金術は調理と近いのでそこまでハードル高くないけど、家具製作は木材調達とか腕力とかあれこれでシビアだと思います!
「……それよ」
「ん?」
「ラシャ、チョリソーは、まだリアルの男友達だから我慢したわ。ええ、非常に不本意ながら、何とかライナの顔を立てて我慢してあげたわ」
「えっと、何の話です?」
「だけど、なぜこの女を、ライナは呼び捨てにしているのかしら?
全面的に信頼し、メイドのように扱い、二人でしん、しんこ、暮らしてたなんて! ずるい、許せないわ!」
「あー……呼び名、かぁ。
確かに、出会いが敵対関係だったせいか、それとも突っ込みを入れ過ぎたせいか、ちづるは何となく最初から呼び捨てだったんだよなぁ」
思わず呟いた言葉に、びくんと反応したちづるの遺体。
よく見ると、いやよく見なくても顔がだらしなく緩んでおり、うん。
とりあえず、土管の影まで運んで捨ててきた。子供の教育に良くないという判断です。触った身体が柔らかくて眠れなくなりそうです、ほんとあいつ何もしなくてもやばい。
「それなら!
それなら私も、ライナに突っ込まれまくるようにボケを頑張るわ」
「うん、そういうことじゃないからな?」
はるまきさんの多分本気の発言に、控えめに突っ込む。
間違っても、呼び捨てにしたり声を荒げるほどの突っ込みではないのだが、それがはるまきさんには不満だったらしい。
「ライナは、私に対してばっかり、殊更に遠慮しすぎだわ。
今までは理解して我慢しようとしていたけれど、今日の様子を見ていたら……我慢してた私が、馬鹿みたいじゃない」
「……ごめん。
馬鹿じゃないし、心から感謝しているよ。ありがとう、はるまき、様」
「そこは呼び捨てにするところでしょうが!」
頬を摘んでぐりぐり引っ張られた。ちょっぴり痛いが、甘んじて受け入れる。
「ちづるの能力は確かに信用しているが、性格面がこれっぽっちも信頼できないんでなぁ。
細かい指示を出さずとも信頼できるのは、相棒のはるまきだけだよ」
「……ずるいわ、ライナの馬鹿」
摘んだ指から力を抜き、頬を撫でるはるまきさん。
その困ったような優しい眼差しに、感謝と信頼を込めて見つめ返す。
「それだけ、信頼している証なんだよ」
「ライナのすけこまし」
「……ちょっとそれは酷くない?」
「酷くないわ、事実だもの。
精々ちょろくて都合の良いはるまき様は、ずるいライナが他の女の子と仲良くなれるようにこれからもお膳立てに励むわ、ふんっ」
「はるまき様に拗ねられると、結構困るんだけどなぁ。はぁ……
今度また『空』に誘うので、それで勘弁して下さいませ」
「ふん、だ」
ぼくの提示した詫びに、良いとも悪いとも答えず。
話は終わりとばかりに、はるまきさんが手を離して一歩下がった。
残るは、あと一人。中学生じゃなかった、みかんさん。
「みかんさん」
「私、中学生じゃないですもん……」
「エスパー!?」
なんでぼくの周り、みんなこんなに鋭いの?
そんなにぼく、顔に出やすいの?
「むぅ……ごめんなさい」
ちょっとだけむくれた顔を、すぐに萎ませて。
消え入るように、みかんさんは呟いた。
「えっと。謝罪は、もうたくさん聞いたからいいんですよ。
他人の善意や良心に付け込み、詐欺行為を働いた者が悪いのですから」
「でも……」
まあ、納得はできないだろう。
詐欺行為で騙されて連れまわされたことと今回の事は直接の関連性はないけど、そもそも犯罪者をスタッフに勧誘したのはみかんさん。
それについては、さっき散々謝られたからもういいんだけどなぁ……
「まあ、そうですね。
もしみかんさんが、まだ謝ることがあるとすれば」
「は、はい」
「勝手にぼくの限度を決めつけて、相談したらいけないと思ったこと、ですかね?
これでも一応、ガイドと護衛と知識と肉壁と荷物持ちしながらメール処理しつつイベントアイテム集めてはるまき様のフォローをするくらいなら余裕ですから」
「話し相手と採掘を追加だわ」
あれ、採掘ってあの時言われたっけ? まあいいか。
はるまきさんの言う活動内容に、みかんさんは一度目を丸くした後に困ったように言う。
「そんなにいっぺんに出来ないですよ、いくらライナさんでも」
「いやいや、事実としてこのくらいはしてますから。
だから、ぼくには出来ないとか、決めつけないで下さいませ。逆境ほど燃える」
「……すみませんでした」
元気ないなぁ、もう。
仕方ないから、ちょっと乱雑に頭を撫でる。
明るいオレンジの髪が指を通り踊るさまが心地よく可愛らしい。
「わわっ」
「みかんさんに、今回の件で罰を与えます」
「え、え?」
「今後何か困った事があったら、どんなに些細な事でも、ぼくに全く関係ないことでも、ぼくに相談すること。
例え、迷惑掛けるかもとか、ぼくが忙しいしとか気が咎めても、それを我慢して相談すること。それがぼくからみかんさんへの罰でございます」
ぼくの決めた罰に、みかんさんが不思議そうな顔で頭の上のぼくの手に触れた。
「……それって、罰なんですか?」
「ええ。大変でございますよ?
例えば、甘いもの食べ過ぎて太ったとか、友達に告白されて困ったとか。そういうことも、ぼくに相談するんですからねー?」
「え、えええ!?
駄目です、それはすっごく恥ずかしいです!」
「ははは。だからこそ、罰になるんじゃないですか」
でも、本当に体重が1キロ太っちゃったんですとか相談されても、ぼくの方が困るんだけどな!
あと告白されたとかも聞きたくない。聞きたくない。
なんだこれ、ぼくに対する罰なんだろうか。
「う、うー。
でも、相談しないで迷惑掛けたし、でもでも……うう」
「無期限というのも無責任ですし、一応期限も定めましょうか」
「ううう。い、一年とかでしょうか?」
具体的な数字で聞いてくるみかんさん。
ただその表情は、丸っきり小動物が怯えているようで、相変わらず可愛らしい。
もっといじめたくなる? ちょっとだけ、ほんの少しだけです。
「みかんさんが、このブレイブクレストの世界で───いや、違うな。
世界やゲームを問わず、だ。
困ったことがあれば、大小や問題の種類によらず、ぼくに全部相談して下さい。
あなたがぼくと、ゲームに限らず、友達で居たいと思って下さる限り」
「そんなの、ずっとじゃないですか!」
ぼくの提示した期間に、出来るだけ口を挟まないでいたはるまきさんが、なぜかため息をついた。
「まあ、意図せず妥当なところね。ライナらしいけど」
「ずっと、というわけではございませんよ」
―――友達でなくなることなんて、普通によくあることなんだよ。
ぼくは、それを良く知っている。
今日普通に手を振って別れ、二度と会えない。VRゲーの世界では、よくあることなのだ。
だが、そこまでみかんさんに説明することはないだろう。
少なくとも、今この瞬間。みかんさんにとっては、それは『ずっと』と同義らしい。
その言葉が、ぼくにとってどれほど嬉しい事か。
それを全く知らずに、知らないからこそ、みかんさんの言葉が心から嬉しい。
「ありがとう。
では、みかんさんの罰はそういうことで決定しました」
「け、決定ですか?」
「はい、決定でございます。
かわりというわけではございませんが、みかんさんの窮状に気づけずに、イケメンとお出かけばっかりして、やっぱり若い奴の方がいいんだなーと思っていたぼくに対して、みかんさんも罰を決めていいですよ」
「え、えええ!?
ライナさん、そんなこと思ってたんですか?」
「いや、そりゃまあそうでしょう。
ぼくは年寄りですし、イベントの準備はひたすら単純作業で面倒だし、短冊の穴あけとか一種の拷問ですし。
若い子はイケメンとお出かけの方が楽しいよなーって思って作業を振らないようにしてましたよ」
中学生と大学生で年齢1.5倍、とかもちょっぴり思ってましたよ? 言わないけど。
「ちゅ、中学生の子供だからって顔してます! また私のこと子供扱いしてます!」
「なんでわかるの!?」
「ライナさん、私やはるまきさんに対しては何考えてるか分かりやすいです!」
「そうね、同感だわ」
「理不尽!」
っと、時間がものすごく遅くなってるね。VRシステムから休憩入れろってアラートがきた。
「こほん。時間がやばいので、そろそろ巻きでいきましょう」
「んっ、んんっ」
ぼくの宣言に、時間に気づいたかはるまきさんも気まずそうに声を詰まらせた。
「とりあえず、みかんさんはぼくに対する罰を、今度考えておいて下さいませ。思いつかなければ、貸し1でもOKでございます」
「わ、わかりました。頑張って考えます!」
「おかげさまでユニーククエストはギルドとして受注できましたので、それについては明日以降に改めてご説明とお誘いします。
行くのは土曜か日曜の夜の予定で、他の活動や闘技大会によってちょっとブレますので。予定は多めに空けておいて下さいね」
「わかりました」
「わかったわ」
二人の返事に頷く。あとは、今日しなきゃいけないことはないな、よし。
「それでは、もう朝なのであまり寝る時間はございませんが、急いで休むといたしましょう。
一日、お疲れ様でした」
「はい、お疲れ様でした。眠たいです」
「そうね、私も眠いわ。お疲れ」
「ええ。
明日からも、また改めてよろしくお願いしますね」
そうしてぼくらは、長い長い夜を終え。
疲労の中で、満ち足りた気持ちで朝を迎える。
明日からの日々が、また輝かしいものとなることを願って―――
あ、ちづる回収するの忘れてた。すまん!




