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飽きっぽい廃人ゲーマーによる宴会屋式MMO攻略術 ~七夕に交わした姉妹の再会の約束を叶えるとか面白そう~  作者: 岸野 遙
『七夕の約束を叶えるために』 ~害なすものと支える三花~

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遇湧限話 いまだ知られぬ限りの話、得るはいかなる富誉

 木曜日は午後の授業がないため、今日は早く帰ってログイン。

 露店を冷かしてからいつもの空き地に向かうと、空き地の狭い入り口前に二人のNPCがいた。


 こんな場所にNPCなんて珍しいなと考え、すぐに思い出す。

 そうだ、そもそもこの空き地を見つけたのもNPCが家の脇を出入りしてたからだったな。

 あの二人があの時のNPCなんだろうか?

 NPCの姿なんて覚えてないので分からないが、可能性は高いだろう。


「どうすんだ、入れないんじゃあれが」

「しっ、人が」


 そばに歩いていくと、話をやめて警戒するようにこっちを見てくる。


 怪しい。

 あからさまに怪しい。


 じっと見られているため、気付かないふりも無理があるか。

 視線を合わせて軽く会釈すると、気まずそうに頭を下げたのか眼を反らしたのか、こちらに視線を向けてくるのは止められた。

 そのまま、ただの通りすがりを装って空き地の入り口前を通り過ぎ、次の角を曲がる。



 怪しすぎて、素晴らしい!

 イレギュラーとか、突発イベントとか大好物です。心踊る!


 ささやかな歓喜とともに角から覗き込むと、先ほどのNPC二人は入り口を指さして何かを話していた。

 その声は聞こえないけれど、すれ違いざまに二人の姿はしっかりスクリーンショットとして撮影済み。

 その顔や服装を見返してみるが……特に変な点はない、かな?

 今のところ分かった範囲では、特に情報はないか。


 うーん。盗賊や工作員のスキルがあればなー。

 忍び寄ったり盗み聞きしたり出来るんだが。今あるのは斥候だけなので、他人を探るような能力はない。



 NPC達は入り口を乗り越えようとしたり、壁によじ登ろうとしたりと頑張っていたが、どうしても敷地には入れなかった様子。

 やがて、諦めたのか道具でも取りに行くのか、入り口から離れて向こうへ歩き出した。


 その後を、気付かれないように距離を開けて追跡する。

 しかし後を追って角を曲がった先には、誰もいない無人の通りが伸びるだけだった。


 この通りのどこかの家に入った?

 それとも、視界から外れた瞬間にゲーム的にキャラが消滅した?

 斥候スキルで痕跡探査を使うが、町の通りを人が歩いた痕跡など特に見つからず。

 怪しいNPCの追跡を諦め、空き地に戻った。



「―――さて」


 今更ながら、この空き地を見つけた時に見かけたNPCは、どこか挙動が怪しかった気がする。

 と言うのは、流石に今日の出来事からのこじ付けや思い込みかな?

 でも、少なくとも今日見た二人は怪しかった。それは間違いない。

 入れないとあれが、とか言ってたし。


 空き地に立ち、改めてこの場所を見渡す。

 敷地の四方を覆う塀。

 作業用の机に、多数の椅子。

 素材や完成品を入れるための箱。

 染色のための樽や、ステージを作るための材木の山。

 一角に積まれた、土管。


 無言で歩み寄り、土管の前に立つ。


 空き地の契約直後は、塀と同じく移動不能オブジェクトだった土管。

 動かすことも壊すことも出来ず、精々が長椅子代わりになるかも、というくらいだった。

 だが、両手で掴んで力を籠めれば、高いSTR(ステータス)値に抗うことはなく、軽々と持ち上がった。


 移動不能オブジェクトが、移動可能になった?

 明らかな変化。明らかな、異常事態(・・・・)

 期待に高ぶる心を抑え、ゆっくりと三本の土管をどかす。

 その下には手をかける窪みがあり、地面に走る切れ目に沿って地下への隠し扉が開かれた。




 ブレイブクレストのNPCには、|プレイヤーの数だけいる《パラレル》NPCと一人しかいない(ユニーク)NPCの二種類が存在する。

 これは、各プレイヤーが平等にゲームを楽しむためであり、同時に同じ世界で生活しているために誰かの行動が世界に影響を与えるからでもある。


 パラレルNPCの困りごとは、プレイヤーひとりひとりが、自分のペースで、自分のやり方で解決すればいい。

 全てのプレイヤーには平等に、NPCの困りごとを解決し、報酬を得る権利がある。


 では、ユニークNPCの困りごとは、どうしたらいいのか?

 そんなのは簡単だ。誰か一人のプレイヤーが、解決すればいいのだ。


 つまり、NPCと同じように呼び分けるならば。

『|プレイヤーの数だけある《通常》クエスト』と、『一人しかできない(ユニーク)クエスト』ということである。




 まだ、クエスト開始のアナウンスはない。つまり、クエストは始まっていないので、引き返すことはできる。


 隠し扉から下へ伸びる梯子を握り、音を立てないように注意して下りた。

 建物2階分くらい下りた先は狭い通路の端。

 明かりはなく、上から差し込むささやかな光が足元だけをかすかに照らす。

 今は魔術系のスキルをセットしていないため、アイテムのランタンで明かりを灯した。

 ちなみに、ゲームなので油切れとか酸欠は気にしなくて大丈夫です。錬金術の神秘。


……明かりつけると、見張りが居たら即座にばれるよなぁ。

 でも日の光は届かないし、仕方ないか。


 数メートル、おそらく敷地の塀を越えて隣の建物の下まで移動したところで、小部屋に突き当たった。

 見回せばいくつか木箱があり、そばに置いてある箱の中には大量の硬貨が入っている。

 指でそっと摘まんでみると、何の抵抗もなく持ち上げることができた。どうやら移動不能オブジェクトではなく、純粋なフルン硬貨(お金)のようだ。

 コインだけでこの量。一体いくらくらいなんだろうか。

……全部硬貨だから大した金額にはならないだろうけど。イメージ的には、500円玉がぎっしり入っている箱だけど、1枚1円の価値しかない、と思ってくれればいい。

 あまり期待しないようにしよう。


 木箱の他には、壁の一面に大扉。

 あとはここへ降りてきた時のように上階への梯子があるが、梯子の先にある天井の扉については、まるで扉からの侵入を阻むように太い柱が突き立てられている。

 どうやら屋内から地下室への道は閉ざされ、今は我らの空き地の土管下からしかここに来れないようだ。


 調べるべきは、大扉か、上階か。

 怪しいNPC達の言う『あれ』とやらは、空き地からしか来れない地下室にあるのだろう。

 つまり、大扉の向こう側。


 意を決して、大扉に触れると―――



【 システム:これより先は、ユニーククエストとなります 】



 待ちに待ったアナウンスが、ぼく一人だけのために、小さく響くのだった。



「一話通して、一人も女の子が出ていない、ですって……?


 信じられないわ。こんなの、私の知ってるライナじゃない!」」


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