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季節名の道  作者: 元国麗
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六話 見えない結び目

 

 ギルドの奥に構えられた牢屋の中には随分と質の良い机と椅子が二つ置かれ、一つに私が座り、対面に隻眼の男が座った。私に負けず劣らずの鋭い目をしていて、その奥にある光は私とは違った攻撃的な狂気が見て取れた。

 男は煙草とかいう薬を吸うと、煙を吐きかけてきた。


「けほけほけほっ、けほけほっ」


 咽る。なんて嫌な匂いなんだ。嗅覚にねっとりと纏わりついてくるし、喉が痛い。

 苦しむ私を尻目に男は私から押収した武器、指輪包丁を輪に下げて、見せ付けるようにすると机の上に放り投げて言った。


「調べたら毒が塗ってあったが、一体何を塗った?」


「こほっ、し、神経毒っ……激痛を引き起こして、敵の自由を奪う」


「お前、何をしたか分かってるか?お前のいた所がどうか知らないが、人を殺せば極刑は免れない。たとえ女でもなっ」


 今までに陥った事も無いような状況に私は何も言えない。こういう場合、皆殺しが手っ取り早いと解ってはいても、何かが引っ掛かってそれを行動に移させようとはしない。


「……」


「何とか言ったらどうだ?」


「何を言っても結果は変わらない」


 正鵠を射たはずの言葉が気に障ったのか、男の拳が鼻の先にあった。


「ふざけたことを抜かすと殺すぞ」


 できもしないことをよく言ったものだ。もし、男の拳が私の顔面に入っていたなら男の拳は複雑骨折していたところだ。などと、力を誇示するようなことを思ってもどうにもならない。

 しかし、このままいけば極刑が待っている。いや、ここはまず私が本当にあの三人を殺したのかどうか検証する必要がある。


「屋根上の三人、手口は何だったの?」


「お前、バカか?」


「いいから、教えて」


「めんどくせえ、自分の目で見てこい。隣に安置してある」


 手錠を嵌めた状態で隣の部屋へと移動する。そこにはきちんと並べられた仏が四つあって、その四つ目の顔を見たとき、驚きのあまり、一秒が永遠に化けたように感じられた。

 ――――さようなら。頭の中でその言葉がずっと、反響していた。


 硝子細工店にいたあの女が死んでいた。


 それはそれで衝撃的だったが、あの男に言ったように、結果は変わらない。今はすべきことをする。

 屋根上で死んでいた三人の死体を検分して、可笑しくて笑ってしまった。たとえ酔っていたとしても、こんな酷い斬り方はしない。これで私は自分がやっていないという確証を得たけど、他の人間を納得させるには、真犯人を捕まえるしかない。

 よく見てみると、女の命を奪った傷と、他の三人の傷が酷似している。そうなると、犯人はセコイ奴だということが分かる。人に罪を擦り付けるためにわざわざ三人の屍を運び込んでくるんだから。そんなのは屋根上を調べればすぐに不自然な点が見つかるし、私が立って愛刀を抜刀していたということは……私も殺して、「犯人は抵抗して死んだ」ことにでもする気だったに違いない。

 だが、私は反撃なり威嚇なりをしてきて、逃げるしかなかった。ここでの犯人は運が良い。私が眠っていたから、顔を見られずに済んだのだ。犯人がもし、顔を見られたと思って逃亡したとしたら?

 それは厄介なことだけど、突然いなくなれば不審に思われるはず。ただ、流れ者だったらどうしようもないが、私に容疑がかかったという時点で犯人は私を利用する計画を立てる必要があったことになるからその線は薄い。


 結局、どうやって犯人を燻り出すのか、全てはそこにかかっている。

 そうしてつらつらと考えていると、誰かの叫び声が聞こえてきた。


「トキナは昨日ここに着いたばかりなんだっ!!人を殺す動機なんてものはないし、するはずがないっ!!!」


 カイルだった。しかし、凄い声だ。


「うるせえぞカイル!!じゃあ何かあ?!あの女がやってねえって証拠でもあんのかあ!!!」


 張り合うようにして、煙草(仮称)が叫び返す。凄まじい声に周囲がビリビリと震える音を立てた。


「変なところがいくつかあった!死体が運び出される時に見たけど切り口があまりに雑だ!!トキナはもっと上手だ!!!!それに屋根上を見てみたけど死体の傷口と比べてみて明らかに周囲の血の痕が少ないし、妙な血の痕も見つけた!!!」


「うるせえ!!! …じゃあ、どうしてあの女は剣を片手に下りてきたりした?しかも他の傭兵に怪我までさせてるぞ?仮にあの女が・・・真犯人とやらと鉢合わせしたとしてだ。追うこともせずに剣を片手に降りてきたってのは不自然だろが!」


 ぐうの音も出ない反論だ。そんな煙草の言葉にカイルはしばらく黙っていたが、やがてこう言った。


「それはっ、彼女の茶目っ気だああぁぁぁぁぁぁぁァァァァッッ!!!」


 無茶を言う。まあ、屋根上に上ったという事は酒も見つけたに違いない。

 それで、そのことを言うと不利になるからと考えてくれての言葉なんだということは解るけど、本当に無茶を言う。もっと言い様があるというのに。


「バッカヤロウガアアァァァッッ!!!」


 煙草の堪忍袋の緒が切れたのか、怪獣のような叫び声を上げて、続いて破壊音が鳴り響き始める。このままだとカイルが危ないかもしれないので音のした方へと駆けつけると、そこには両手に盾を構えたカイルと鬼のような形相をした煙草が青空の下、瓦礫の上に立っていた。

 二人は私の存在に気付くと、一斉にこちらを振り向いた。


「女、話は聞こえてたよなあ?どういうことだか言ってみろ!!」


「茶目っ気だよね!?トキナ?!」


 カイルの言葉には首が取れても頷けないし、頷く気も無いので、はっきりと口にした。


「あれは正当防衛。向こうが勘違いして、襲い掛かってきた」


 しーんと静まり返る。煙草は表情を消した。何か思い当たる節があるような顔だった。


「ほら!! 正当防衛じゃないか!!!」


 突如そう言いだしたカイルに煙草は再び鬼の形相を浮かべるが、疲れたのか、肩を落とすと私の前にやって来た。


「…仕方ねえから、とりあえず釈放してやる。だだし、お前も犯人捜索に協力しろ。それが条件だ」


 私が頷くと、煙草は二回手を叩いた。


「はーい」


 元気よく返事をしてやって来たのは、大分幼くなってはいたけど、夢に出てきた女、そのものだった。


 一体、どういうことなのか?


 私は目の前の少女を眺めながら、ただただ、呆然としていた。



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