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季節名の道  作者: 元国麗
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三話 これからよろしく

 


 街に着いたら早速、周囲からの好奇の視線というやつに晒された。特に気にする必要は無いと判じて、カイルをせっついてギルドにやって来た。石造りの建物が多いとは聞き及んでいたが、実際に目にすると獄舎か蔵に見える。それを口にするのは疲れるからしなかったが、そんなことよりもウエスタンドアというものに驚いた。向こうの人がふすまを「動く壁」だと言うが、私からすればこれは「開く壁」と言えた。

 あれか。開けゴマってこんな感じだろうか?

 いつしか下らない連想遊戯を始めた私の手をカイルは引っ張ってわざわざ受付まで連れて来てくれていた。


[かたじけない]


「?」


「ありがとう」


「どういたしまして」


 かたじけないは当たり前だけど通じない。けど何故だろう?こうして違う土地にいるせいか、侍というものを嫌でも意識してしまうのは…。

 そうして考えながら目の前を見ると、金髪碧眼の女性が鉄格子越しにこちらを不思議そうに見ていた。私はその視線よりも目の前の鉄格子がより獄舎の印象を強めているのを感じていたが、目的を見失ってはならない。私はここへ傭兵としての登録を済ませに来たのだ。そう意を決して一歩、前へと進み出た。

 女性は私の意を汲み取ってくれたのか、にこりと綺麗に笑って問いかけてくれた。


「ギルドへの登録ですか?」


 私は黙って頷いた。


「それでしたら」そう言って一枚の紙を差し出される。「こちらに必要事項を記入してください」


 もう一度頷いて紙とペンを受け取る。

 魔物という悩みの種はあれ、私の故郷よりずっと文化が進んでいそうだ。

 そんな認識をしたせいなのか、それとも生まれ育った故郷に何かしら思い入れがあったのか季節名と漢字で名前を書いた後に振り仮名を振るようにして大陸の文字で名前を記して提出した。


「…トキナさんですね」言いながら何かのカラクリをカタカタ叩いていた。「はい。承りました」


 今度は紙ではなく、固い板を渡された。花札に近い感じを受けたけど、別物だというのは一目瞭然だ。 その銀色の札には私の名前がしっかりと刻印されていた。


「…換金してもらえる?」


 袋を台の上にドンと置いてそう言った自分がどこか無礼な気がしたが、気にしないでおこう。


 しばらくして、女性は戻って来るとお金の入った革袋を持ってきてくれた。それを受け取ろうと手を伸ばすと、その手を掴まれて、握手する格好になる。でも何故そうなるのか理解できない。私は首を傾げた。


「おめでとうございます!」


 その興奮気味な大声に私は眉を寄せる。


「さる特A級の傭兵の方があなたの倒したウルフルの切り口を鑑定しまして、そうしたらトキナさんを推薦なされましてね。本当におめでとうございます。あなたの傭兵の階級はA級からとなります」


 この人は私の幸福を自分の事のように喜んでくれたんだ。そのことに深く感動する。


「ありがとう」


 しかし、手を放して欲しい。いつまでも握られていたら、お金を受け取れないんだ。これからの生命線、早く懐に収めたいと気持ちが逸るのは仕方の無いことだった。

 女性からの熱烈なお祝い受けて戻って来た私をカイルが出迎えてくれた。その顔は笑顔だ。故郷に居た時に私に向けられる表情とのかなりの違いに少し戸惑いのようなものを覚えながらも、傍まで寄っていった。


「おめでとう。これで晴れて傭兵になったわけだ」


 ありがとうと言いたいところだったけど、一日に同じ言葉を何度も言うのは好きじゃないので、黙って頷いておいた。


「…嬉しくない?」


 首を横に振って否定すると、カイルは何か得心が行ったのか「ああ」と言った。


「トキナ、喋るのはあんまり好きじゃない?」


 頷こうとすると、顎を掴まれて上を向かされた。もしそこに攻撃の兆候があれば斬り捨てていただろう。


「もしかして、この傷が原因なの?」


 そう言うと手を離してくれた。そうしないと頷けないから当然の配慮だろう。私は頷いた。そう、組長との戦いで負ったこの喉の傷、どうして生きてるのか解らないほど見事に貫かれた。

 どうやら綺麗に入りすぎて、抜いてみたら息を吹き返したという話らしいが、コウイショウというやつであまり喋れないのだ。


「刺し傷だったよね?どうやって助かったの?」


 その問いには肩をすくめるしかない。そういう奇跡については神にでも仏にでも好きなほうに訊いてほしい。本当に、私の知るところじゃない。


「トキナ、階級は?」


 ……カイルは私に喋らせたいのか?苛立った瞳を向けると、どうやらそういう思惑だったらしく目を逸らした。


「ごめん。調子に乗りすぎた。それでコンビの件だけど、考えてくれた?」


 頷いて、次に手を差し出す。それを見たカイルは嬉しさを爆発でもさせたのか、私に飛びついてきた。 さすがに身の危険を感じたので、柄で鳩尾を容赦無く突かせてもらった。それを受けたカイルは悶絶して体をくの字に折った。

 回復するのを待って、もう一度手を差し出す。今度はちゃんと握り返してくれた。


「よろしく、カイル」


 これがお互いの利益となることを祈ろう。そんな損得勘定を働かせながら、私は、初めての仲間というのが嬉しくて、微笑を浮かべた。するとカイルは再び体中に嬉しさを爆発させたのか、


「ああ! よろしくなトキナ!!」


 凄まじい大声に気持ちを乗せてそう言ったのだった。



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