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魔術幻想録  作者: 白洲悠
7/7

湯煙温泉郷の招待状

クロエがメイドに復帰した二日後、雅人は自分の部屋のベッドに横になっていた。


魔術競技大会がオレリア魔術学院の一学期の最後を締める行事であったため、昨日から三週間の夏期休業が始まっていたのだ。


時計はもう十時を指しているが、雅人が一向に起き上がる様子がない。


「頭が痛いし、喉が痛い・・・」


一昨日の辺りからなんとなく体がだるいと感じていたのだが、気のせいだと思いあまり気にも留めていなかったのだが、雅人の顔が真っ赤になってフラついていたのをルミカに言われ病院へ行ったところ。熱だと診断された。


大会の前日の怪我、大会の日にルミカに氷漬けにされ、さらにその次の日に湖に落ちて冷えたこと。度重なる事の影響で雅人の体が弱っていたそうだ。


実の両親が居なくなって柚葉との二人暮らしを始めてからは、柚葉が常に雅人の健康に気を使ってくれていた。そのため病気になるなど何年ぶりだ。


「でもまさか、学校医の先生があそこにも勤めているとは思わなかった・・・」


雅人の居た世界とは異なり夏休みは教員達も休暇が与えられている。


中には別の仕事場でも働く教員もいる。学校医の先生は職業病のせいなのか、休みの日でも薬品に囲まれていないと落ち着かないためこの病院にも勤めているそうだ。


雅人が考えていると、部屋のドアからノック音がする。


雅人が上体を起こして返事をすると、お盆を持ったクロエが部屋に入ってくる。


「おはようございます。お粥を作ったのですが、食べれますか?」


「ああ、頂くよ」


朝から何も食べてなく、ちょうどお腹がすいてたのでありがたく貰う事にした。


空腹だった事もあり、あっという間に椀が空になる。


「ご馳走様!」


「お粗末さまでした。じゃあお椀を片付けてきますね」


雅人から空になったお椀を受け取ったクロエはぺこりとお辞儀をして部屋を出て行く。


以前よりも増して笑顔を見せるようになったクロエ。仕事中も鼻歌を歌っている様子を見かけるようになった。


風邪であって決して怪我ではない為に動けるがルミカには


「風邪は万病の元です!ゆっくり休んでいてください!」


と釘を刺されてしまっている。


雅人と同時に診療して貰った彼女の方は普通に歩けるまで数日程度と、順調に回復しているらしい。改めて異世界の異常さに驚かされる。


ただ、魔術競技大会で受けた体の傷は治療にかなり時間が掛かってしまうようだが。


再びコンコンとノックがされる。


「雅人さん、起きてますか?」


噂をすればルミカがやってきた。


「このまま寝ててもただ退屈なんだが。動いちゃだめか?」


開口一番に雅人はルミカに愚痴をぶつける。


「ダメです!風邪はちゃんと寝て直してください!そうしないと治りませんよ?」


即答されたことに子供のように「むー」と唸っているとルミカが雅人の手を握る。


「この屋敷にいる人は全員私の家族の様なもの。誰一人すら欠けてもいけないんです。それは雅人さんも同じです。どうか分かってください」


必死に訴えてくるルミカに雅人は何も言えなくなり渋々と頷くのだった。


「ありがとうございます!早く風邪なんて治しましょうね!」


えい、えい、おー!と元気付けようとするルミカに苦笑いを返す雅人。


「いや、元の原因はルミカにもあるからな?」


「それは本当にごめんなさい。一晩放置したのは少々やりすぎたと思ってます。」


冗談で言ったつもりだったのだが、それをルミカは責められてるのと勘違いしたのか、捨てられた子犬の様にしゅんとしてしまう。もう過ぎた事である以上、ルミカを責める権利は雅人には無い。


「冗談だぞ?それに、元々の原因は俺が抜け出した事にある」


「ですが、そのお陰で私も助かりました」


「そうか?」


自分から庇って怪我をしたとはいえ礼を言われては悪い気はしない。


するとルミカが一転変わって複雑そうな表情を向けてくる。


「でも・・・よくよく考えてみたら雅人さんに非は無い気がするのですが」


先ほどと一八〇度反転したルミカの発言に雅人は何故かと聞き返す。


「元々雅人さんが自宅療養となったのは爆発から私を庇った事で負った傷が原因です。それに、今回の風邪も元の原因は私にあります!」


確かに今回の事の始まりはルミカを爆発から守った事だが、原因はあのヤンキーである。それに自分自らルミカを守ろうとした事で負った傷なのだ。


徐々にルミカの顔が真っ青になってガタガタ震え始める。


「ど、ど、どうしましょう!?悪くない筈の雅人さんを一方的に責めてしまうなんて・・・」


「落ち着け!ルミカに原因は無いから!俺に非があるからな?」


このまま放っておいたら何を言い出すか分からない。屋敷の使用人達や村々の住人達を大切にする彼女の事だ最悪の場合切腹をするとでも言い出しかねない。


スクッと立ち上がったルミカの周りに氷の刃が形成される。


「ご、ご、ごめんなさい!私にはこれくらいしか出来ませんが・・・」


震える指を振るうと氷の刃の先端が一斉にルミカ自身へと向く。


「お、おいやめろ!早まるんじゃない!」


風邪で体がだるい事なんて気にしていられない。全力でルミカを止めに入る。


だが、体のだるさで目の焦点が一瞬ぼやけてしまい、抑えようとしたのが押し倒す形になってしまった。


一瞬遅れて宙を切った氷の刃は部屋の四方へと飛んで行き、壁に深々と刺さる。


「ひゃああああ!?」


氷の刃が壁を突き抜けて廊下まで出たのだろう。外から悲鳴が上がる。


一先ず怪我人が出なかった事に安堵するが、一方で改めてその威力を目にして寒さとは違う震えが背筋を駆け巡る。


「雅人さん・・・何で止めたんですか?私にはこれしか出来る事ないのに」


押し倒されたルミカがポツポツと喋りだす。


「バカッ!そんな事で責任取れると思ってるのか!?昨日言った事をよく思い出してみろ!『屋敷の皆は自分の家族』それはルミカもその家族に含まれるって事だ!」


ルミカが危ない事をしたことに対する怒りもあり、続々とルミカに言葉を浴びせる。


ルミカの顔にポタポタと滴が落ちる。雅人は涙を流していた。


「・・・もう、いやなんだよ!周りで誰かが死ぬのなんて、もう見たくないんだよ!」


数年前、両親が亡くなったと聞いたとたん雅人は泣かなかった。目の前で泣きじゃくる柚葉の手前自分まで泣く姿を晒すわけにはいかなかった。両親の火葬が終わって自宅に戻った後、雅人は目に込み上げて来るものを感じた。それはずっと妹の前では見せられまいと、ぐっと耐えていたものであった。嗚咽にも似たような叫びを上げ一晩中泣きじゃくっていた。次の日の朝、目の下にはクマができ、一晩中泣いた事でまっ赤になったその目を見た柚葉は薄々何かを感づいていたのか何も言わずにただ朝食を食べようと言ってくれた。その日から雅人は決意した。目の前で誰かを死なせない、悲しませないために父親から教わって来た剣道を続けて、誰かを守れる強さを手に入れようと。


「だから・・・頼むからもう二度とこんな事しないでくれ・・・」


雅人がルミカを掴む手に力が入る。


「・・・」


ルミカは黙り込んでしまう。雅人がどんな思いで自分を止めようとしたのかという考えが頭の中を巡っていたからだ。


「ごめん・・・なさい。雅人さん。もう二度とこんな事は・・・」


ルミカの目にも涙が浮かぶ。自分のやろうとした事に対する過ちと後悔が混ざった涙を。


その途端、雅人の体が完全にルミカの方へ倒れてくる。


「わ、ま、雅人さん?どうしましたか!?・・・・あっ」


雅人は泣くのに疲れたのか、それともルミカの台詞を聞いて安心したのかそのまま寝てしまっている。


退かそうとするものの身動きが取れない以上どうしようかとアタフタしていると


「わぁぁぁ・・・!」


ルミカが振り向くとドアの隙間から屋敷のメイド達が覗き込んでいたのだ。


メイド達に気づいたルミカは徐々に顔を真っ赤にしていき


「ち、違いますから誤解です。それとベッドに寝かせるの手伝ってください!」


ルミカの声にメイド達が「はぁ~い!」と緩みきった笑顔で返事を返した後、ぞろぞろと部屋に入ってくる。


雅人をベッドに戻し、メイドが一人残らず部屋から去っていった後、残されたルミカは横で寝ている雅人の寝顔を見やる。


(大丈夫ですから、私はもう死んだりしませんから。だから雅人さんも・・・)


ルミカは雅人の額に唇を当てるとそのまま部屋を出て行くのだった。




「う、う~ん?」


しばらくして雅人は瞼を開いて起き上がる。窓を見ると夕暮れが差し込み始めていた。


雅人は額に残る微かな感触に首を傾げる。


寝たお陰で頭痛ものどの痛みも引いてきた。小腹も空いてきたため、何か食べようかと立ち上がると、キィとドアが開かれる。


屋敷の人は全員必ずノックしてからドアを開けるため、外からお客が来たのかと思っていると、ピッピッピという音が聞こえてきて開かれたドアから小さな人物が入ってくる。


書庫にいる妖精がやってきたのだ。口には笛を咥えてピッピッピと音を奏でている。


その妖精がドアの外に向けて片手を上げると笛を吹きながら後ろ歩きをし始める。


すると、他の妖精達が集団で丸い物体を担いだまま行進してくる。


その物体とはリンゴであった。赤く熟したリンゴを妖精達が担いでいたのだ。


それが三組ほど来た所で先頭で入ってきた妖精のピーッピッという笛の音でこちらに


一斉に振り返ってくる。


「どうしたんだ?」


雅人が妖精達の目の前にしゃがむと笛を吹いていた妖精が小さな紙を差し出してくる。


雅人が紙を受け取り、書かれている文字を読み上げる。


「リンゴ 体にいいと聞いた 食べて」


少し歪な文字ではあるが確かにそのように書かれていた。


「くれるのか?」


雅人が尋ねると、妖精達は揃って頷き始める。その時にバランスを崩して落としたのか、リンゴがこちらにコロコロと転がってくる。それを手に取ると


「ありがとな!そうだ!皆で食べないか?一人で食べるのは寂しいからな」


妖精達の表情がぱっと明るくなり飛び跳ね始める。


妖精達が一緒に持ってきてくれた果物ナイフを手にリンゴを剥き始める。


(そういえば、柚葉が熱になったときもこんな風に剥いてあげてたっけか)


慣れた手付きであっという間にリンゴの皮を剥くと、続いて妖精達の食べやすいサイズにカットする。といってもせいぜいサイコロサイズではあるが。


喜んでリンゴを食べ始める妖精達を見ていると自然と笑みが浮かんでくる。


自分の分のリンゴを切った終えたところで自分も一緒に食べ始める。


瑞々しくありながらも甘さのある果実の汁が口の中で広がる。大勢で食べているので、一層美味しく感じるという事もあるのだろう。


「美味しいな」


「そうだね、確かにこれは美味しいと思う。でも、僕はオレンジの方が好きかな」


「そうか?これも十分美味しい・・・って」


いつの間にか雅人の隣で切られたリンゴを頬張っている人物が居た。


「何でお前がここに居るんだ?レオニス」


コルンの日の夜突然現れたと思ったらいつの間にか消えていた白髪の魔術師レオニスがそこに居た。


「ほらひみにあいひひたひひまってるひゃないふぁ!」


「食ってから喋れよ。待っててやるから」


口一杯に詰め込んだリンゴをやっと飲み込んだところで


「そりゃ、君に会いに来たからじゃないか!」


そういった後、リンゴを口に放り込む。


「前回は怪我人もいてゆっくり話す余裕が無かったからね」


ああ、と雅人は納得する。あの時助けた男性は今では怪我がすっかり治って自分の家に帰っていったが、あの時すぐに治療しなければ危ない状態だったらしい。


「あの時は助かった。礼を言っておく」


雅人が頭を下げる。今でも変な奴だとは思っているが、彼にはルミカの時を含めて二度も助けられた借りがある。この際、礼を述べておくべきだろう。


「僕はほんの少し手を貸しただけさ。あとは君の自身の実力だよ」


すると、レオニスが近づき雅人の体を上から下まで隅々と眺め始める。


「ふむふむ、なるほど」


やっぱりこいつは危ない奴なんじゃないかと雅人が思い始めていると、急にレオニスが立ち上がってこちらに向き直ってくる。


「雅人君!僕と戦ってみてくれないか?」


レオニスが雅人に決闘を申し込んでくる。


「は?何でだよ?」


そもそも戦う理由が無い以上自分には戦うつもりは無い。それにルミカにも安静にしているようにと言われている。これ以上彼女を裏切るような真似はしたくない。


「君が僕に勝ったら教えてあげてもいいよ・・・元の世界に帰る方法を」


「!!」


この世界で過ごすうちに忘れかけてしまっていたが、それは雅人がずっと探していた事であった。


「あるのか?・・・俺が帰れる方法」


「勿論さ!魔術師の名に掛けて誓うよ!」


『魔術師の名に掛けて』その言葉の意味を以前、ルミカに聞いてみたところ、この国の魔術師は皆自分が魔術師であることを誇りに持っている。よって、約束事をするときにこの言葉を使うという事は「絶対に自分は嘘を付かない」という絶対的な証明となる。


仮に嘘を喋ろうとすればその人物は魔術師の名を穢す事になり最悪、詐欺に似た罪で、牢屋に入れられてしまう事もあるらしい。


レオニスがそこまでの事を言うのは彼の言う事が本当の事だということだろう。


「俺が負けたら?」


「僕の頼みを一つ聞いて貰う」


つまり、ハイリスクハイリターンというわけだ。このレオニスがどれほどの実力者かは計り知れないが、この機を逃してしまっては一生もとの世界に帰れないかもしれない。


雅人は決心すると


「・・・分かった、その勝負受けよう」


「そう言ってくれると思っていたよ」


レオニスが人差し指で床に何かを書き始める。


指の軌跡で紋章が描かれると突然光が放たれ、二人の体が光に包み込まれる。


雅人が瞼を開けるとそこには一面何も無い平面が広がっていた。


その平面に立っているのは雅人とだけだった。


先程まで足元に居た妖精たちの姿が無い。


雅人がキョロキョロと見渡して妖精の姿を探していると


「ここは僕と君意外は誰もいない空間。さっきまでいた小人君達はこの空間の外に居る。ここは外の誰からの干渉も受けないし、こちらからも外の世界には干渉できない。時空すら超越する空間。僕の【】さ」


「?」


初めて聞く言葉に雅人は首を傾げるとレオニスが語り始める。


「選ばれた人間だけが使う事の出来る特別な魔術。それが!まあ、それは一旦置いといて・・・」


「ルールは簡単!魔術や剣、どんな方法を使ってもいいから三分以内にこの僕に一度でも掠り傷を付けられたら君の勝ちさ」


「は?」


告げられた内容に思わずポカーンとして聞き返してしまう雅人。


「僕は一切攻撃しないで君の攻撃を避ける。ね?簡単だろ?」


(何か考えているのか?)


どう考えても自分にとって有利な内容である事に疑いを持ち始める。先ほどから一度もその場から動こうとしないレオニスをじっと見つめる。


そこまでしてまで勝つ自信があるという事なのだろうか。それとも、雅人が自分よりも弱いと思って甘く見ているのでは無いかと徐々に思い始める。


どちらにせよ、自分が見下されている事には変わりない。


「バカにしやがって・・・ハンデのつもりか?」


「まさか!そんな訳無いじゃないか。これが一番いいと思うけど?」


レオニスが雅人に何かを投げてくる。反射的に受け取るとそれは雅人の剣だった。


「お前も攻撃する。その勝負だったら受けてやる」


やれやれとレオニスは首を横に振ると


「・・・後悔はしないね?」


すると、それまで無風だったはずの空間に突如、暴風が吹き荒れる。吹き飛ばされそうになるのを雅人は耐えると鞘から剣を引き抜く。


(何だ?さっきと雰囲気が一変した?)


「・・・じゃあ行くよ」


一瞬でレオニスの姿が消える。【ブースト】を使ったのだと確信した雅人は同じように唱え始める。


「・・・遅いよ」


雅人の体が重い衝撃を受けて吹っ飛ばされる。


「〈光の刀刃よ!〉」


気づいた時には両手に光の刃を携えたレオニスが雅人の目の前まで迫ってきていた。


ダメージを受け流すために雅人は受身の姿勢を取るが瞬間またしてもレオニスの姿が掻き消える。一瞬遅れて全方位から衝撃が襲いかかる。


「くっ!」


連続攻撃が一瞬止み、反撃へと移ろうとするが追いつかない。いや、追いつけないのだ。それほどまでに雅人とレオニスとの間に力量の差があるのだ。


剣を振るもののレオニスの体にはかすりすらしない


「ただ闇雲に振っても攻撃は当たらないぞ!」


余裕だというばかりにレオニスに言われて、雅人の顔には徐々に焦りを浮かべ始める。振るう剣が焦りで余計に当たらなくなる。


一撃、たった一撃でもレオニスに当てれば元の世界に帰る方法が見つかる。その喜びがある反面、これを逃せば二度と帰るチャンスは無くなってしまうという気持ちが雅人の頭の中を多い尽くしていたのである。


探していたものがすぐ近くはあるものの、遠くも感じる事に雅人の振る剣は雑になる。


ひたすら避けていて痺れを切らしたレオニスの手の先に複数の魔術陣が浮かび上がる。


「〈雷の鉄槌よ!〉」


魔術陣から紫電が迸る。反応が遅れて雅人は紫電をまともに受けてしまう。


その場に膝を着いた雅人に更なる追い討ちを駆けるべくレオニスの手の先に魔術陣が浮かび上がる。


一際巨大で存在感を示す魔術陣。それは雅人がよく知っている物だとよく知っていた。


「〈雷鳴を纏いし雷撃の咆哮よ!〉」


次の瞬間、魔術陣から【エレクトロ・バースト】が放たれる。


雷鳴の衝撃が雅人へと襲い掛かる。避ける事が難しい距離まで迫っていたその魔術に雅人は自分も


「〈雷精よ、閃光の煌きと化せ、雷撃の咆哮と成せ!〉」


雷鳴の衝撃を放って対抗しようとする。


しかし、雅人の手の先に現れた魔術陣はそのまま何も放出することなく消える。


「なっ!?」


雅人が驚きを浮かべた数瞬後、雅人にレオニスの放った雷鳴の衝撃が襲い掛かるのだった。


何も無い空間を大きく吹き飛ばされた雅人は地面に叩きつけられる。


「ま、まだだ!」


二度もまともに魔術を食らって常人ならもう立ち上がれないほどに傷を負った。それでも雅人はよろよろと立ち上がる。対するレオニスも魔術陣を展開して身構える。


その時、ゴングの鳴ったような音が空間中に響き渡る。


「タイムアップだね」


音を聞いたレオニスは魔術を放つべく挙げていた手を下ろす。同時に雅人はその場に膝をつく。

周りの景色が屋敷の中へと戻る。


「そんな・・・」


剣を使えば誰にも負けはしない。そんな雅人の考えが一瞬にして覆されたのだ。負けた事によるショックとともに元の世界に帰る手段を失ったのだ。


レオニスは少し考え込む様な仕草をすると、何かに気づいたかのように雅人の背後に回りこむ。


次の瞬間、レオニスが雅人の服を捲り上げると背中に手の平を当てる。


「な!?」


突然の事に雅人は飛びのこうとするが、


「じっとしてて!」


レオニスが声を大きくする。横目でその姿を見やると瞼を閉じている。背中からはほんのり温かくもくすぐったい様な感覚がやって来る。


やがて、そのくすぐったさが無くなるとレオニスが瞼を開く。


「・・・やっぱりね。君の体内で魔力回廊が歪んでる。」


服装を正しながら、雅人はどういうことかと聞き返す。レオニスは両手の人指し指をあげると片方の指を横に滑らせる。


「そうだね、君に分かりやすいように言うならば……線路が途中で途切れてるということかな?魔力回廊という名の線路に魔力という電車が走る。普通なら脱線する事も無いし、事故も起こらない。だけど、君の場合は別だ。その線路の一部が途中で途切れてしまっている。」


滑らせていた指を止めると


「途切れてる線路があれば当然、電車を止めなければいけなくなる。でも、線路も無限に存在するわけじゃない。同じ線路にどんどん電車が集まってくる。もしこれが魔力ならばどうなると思う?」


レオニスの問いかけに再び首をかしげる。


「行き場の無い魔力が一つの所に溜まり暴発する。つまり、術者は死ぬ」


「おいおい…、死ぬってそんな簡単に…!」


「……」


「……マジかよ」


レオニスの真剣な表情に出かけていた言葉が引っ込む。


「ともかく、今は回路が修復されるまでは安静にしているしかない」


雅人は歯を食いしばり再び俯く。


「……と、言いたいところだけど、君の性格上そうはいかないだろう?早く直す方法が無い事もない」


「…!!その方法は何だ!?」





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