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第9話「トンカツから始まる兄妹?」

「我は、マリン・レヴィアタン。よろしくね♪」


 ドラゴンっ娘はマリンと名乗った。


「ち、ちょっとあんた、今まで人型になったことなんてなかったじゃん! びっくりしたわよ!」


 マリンが人型になれることは、ローザも初めて知ったらしい。


「特に今までは、その必要が無かったからね」


「今は、その必要があるっていうの?」


「そりゃああるよ。人の姿でさっきの料理を食べた方が、食いでがあるじゃん♪」


 まあドラゴンの大きさからしたら、トンカツなんて、一粒みたいな感じだもんね。


「あ、あんた……」


 ローザは、「お前は天才か……」みたいな顔して驚愕(きょうがく)している。

 揚げ物にかける熱意は二人とも似た者同士かもしれない。

 いつの間にか、俺がもう一度トンカツを作ることが既定路線みたいになってる。


 まあ喜んでくれるなら作るけどさ。

 結局、ローザも食べられなかったしね。





 場所を厨房に移した。


 マリンは、もう暴れるつもりはないらしく、大人しくしている。

 大人しくしていると普通の女の子に見える。

 髪は黒いし、角もアクセサリーに見えなくはないし、さっきまで暴れていたドラゴンには見えない。


「トンカツ、まだ~」


 マリンから催促の声が飛ぶ。


「あんた、さっき食べたじゃない。今度のトンカツを食べるのは、私が先よ!」


「え~、さっきのなんて食べたうちに入らないよ~」


「はいはい、多めに作るから一緒に食べようね」


 こんなところで暴れられたら、魔王城が壊れちゃうからね。


 トンカツが完成したので、大皿に盛って二人の前に出す。

 食べやすくするために、1.5センチ幅に細く切ってある。

 ソースはさっきと同じ洋風ソースを使っている。


「やっと、魔王が食べられる……」


「ほわぁ~」


 ローザとマリンが、今にもトンカツに襲いかかりそうだ。


「ほら、このフォークを使って。あと、急いで食べると苦しくなったりするからね」


 トンカツは逃げないから、ゆっくり食べるようにと伝える。


 ローザが、トンカツを口に入れた。

 マリンがその様子を注意深く見守っている。


「……(はむはむ) うん、美味しー♪ 外がサクサクの後に、中から美味しいのが溢れてきたわ」


 ローザを眺めていたマリンが、ゴクリと(つば)を飲み込んだ。


「ローザの口に合ったようで何よりだ」


「うんうん、この噛み応えも最高ね。さすが魔王というだけあるわ。今まで私が食べてた肉は、どうやらサンダルだったようね」


 唐揚げに続いてトンカツも、ローザの中で好評のようだ。


「あたしも、食べる。…………(もぐもぐ)」


 マリンの一人称が、「我」から「あたし」に変わったのは人型に合わせたのだろうか。


「どう、美味しいでしょ!」


 なんでそこでローザが得意気なんだろう。


 マリンは、トンカツを味わって飲み込んだ後で、口を開いた。


「ヤバいね、この美味しさは! うっかり、竜の姿に戻りそうになっちゃった。これの為なら、小国一つ滅ぼしちゃうよ」


 竜型に戻るのも、国を滅ぼすのも止めてもらいたい。


「トンカツは何時でも作るから、これからは暴れないでね」


 良い機会だ。

 ここで上手く手懐けられれば、平和にグッと近づく気がする。


「しっかし、このカトブレパスの肉、今まで食べたどれよりも断トツね」


 マリンの口から不穏な単語が出た。

 ゲームだと終盤に出てくる凶悪な魔物の名前だ。


「カトブレパス……?」


「うん、この肉ってそうだよね?」


 マリンが、ローザに同意を求める。


「ええ、そうよ。私が、近くの樹海で狩ってきたのよ。なかなか手強かったよ」


 なるほど……、どうやら魔王城の厨房には、とんでもない食材がいっぱいありそうだ。

 そういえば、この前唐揚げに使った鶏肉っぼいの、あれは何の肉だったのだろう。


 俺がローザに鶏肉について聞こうか聞くまいか悩んでいると、マリンが声をかけてきた。


「決めた! あたしは今から、イツキに忠誠を誓うね♪ イツキのためなら、何が相手だって戦うよ。カトブレパスとか、カトブレパスとか」


 え? 何を言ってるのこの子。

 それに、トンカツが食べたい気持ちが駄々もれだ。

 この世界のカトブレパスが狩り尽くされるのも、時間の問題かもしれない。

 俺はまだ見ぬカトブレパスを憐れんだ。


「ち、ちょっとマリン! 駄目よ! イツキは私のなんだからね!」


「いいじゃん、いいじゃん。あたしのものになったからって、何か減るわけじゃないしさ~」


「減るわ、何か減る気がするわ! それに何で急にそんなことになったのよ?」


「だって、そうすれば美味しいトンカツが毎日食べられるでしょ。そうだ、これからはイツキのことは親しみを込めて『お兄ちゃん』って呼ぶね。いいでしょ、お兄ちゃん♪」


「ちょっとマリン、何で『忠誠を誓う』がお兄ちゃんになるのよ。ううん、忠誠だって認めたわけじゃないからね」


「ふっふっふ……。世の中のお兄ちゃんは、妹に忠誠を誓うものなのよ。あれ? それだと逆になっちゃうか。まあ、いいじゃん。あたしもお兄ちゃんのために、色々頑張るからさ♪」


 俺を置いて話がどんどん進んでいく。

 結局、ローザもマリンの押しには勝てず、俺にはこの日、妹ができたのだった。


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