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小話:エミリア

ブクマ、評価ありがとうございます。


この話で完了です。



わたしのお兄さまはとても頼りになるの。

騎士団の副団長で、逞しい体躯に優れた身体能力。


とても頼れるでしょう?


そんなある日、とてつもないことを知ってしまったの。

お兄さまの秘密を。

墓場まで持っていく必要があるとは思うの。


でも、でも。




・・・誰かに話したい。



******


 これ、なんだろう?



 そんな単純な疑問だった。いつものように帰ってこないお兄さまを待っていた。もう寝る時間だと言われベッドに向かう。どんなに遅くてもお兄さまは帰ってくればわたしの顔を見に来てくれるから。わたしの家族はお兄さましかいないから、お兄さまが帰ってこないとこの広い屋敷に一人になる。それが嫌だったけど、お兄さまが帰ってくれば部屋まで来てくれるのが分かれば、我慢できる。


 なのに、寝る直前に連絡があって。今日は予定外だけど夜に騎士団の仕事があるから帰れないって。


 今夜は一人だと知ってしまうと、寂しくて寂しくて。


 そんな気持ちから、侍女たちがいなくなってから部屋を抜け出した。そのまま静かにお兄さまの部屋に入ったの。お兄さまの部屋はとても綺麗に片付いている。大きなベッドは体格のいいお兄さまだから仕方がない。そっとベッドにもぐりこもうとしたときに、変なものを見つけたの。


 いつもと変わらない部屋なのに、何かが違う。首を傾げ、思わず歩き回った。


「扉……?」


 見つけたのは薄っすらと開いている扉。


 どうやらいつもは閉まっているけど、今日は忘れてしまったようだ。ゆっくりと扉に近づいてみる。壁の一部になっていて、とても扉には見えない。こうして少しだけ隙間があるから分かるようなもの。


「何の部屋だろう?」


 好奇心に負けてそっと開けて見た。隠し小部屋にあったのは、沢山のドレス。そして、靴に宝石類。化粧道具の置いてあるドレッサー。


 思わぬものに思わず呆けた。


「え?」


 え? え ? え??????



 わたしのお兄さまは騎士団でも一番荒くれと言われている実力集団である第2騎士団の副団長だ。瘴気に狂った獣が大群で押し寄せてきても、一振りで何十匹も屠ると言われているほどの剛腕だ。

 背もすごく高く、顔もごつい。30歳とは思えないほど、しかも老成している。


 要するに枯れている。

 恋人はいないし、もっぱら娼館にお世話になっているようだ。


 ちなみにこれは侍女談だ。


 わたしはとても男前でかっこよく大好きだが、一般的には好まれない。腕も足もすごく筋肉が付いていて、お腹も腹筋が盛り上がっている。禿げていないのが救いだ。禿げていたらどこのならず者かと思われるほどの迫力がある。


「これ、お兄さまが着るの?」


 そこに広がっているのは大柄のお兄さまでも着ることが可能なドレスたち。靴だってバカでかい。華奢なつくりなのに大きすぎて華奢に見えない。化粧品も使っているのか、半分くらい減っていた。


「え?」


 どういうこと?


 放心状態ながらも、次々に物色していく。どれもこれもセクシーなドレスだった。お兄さまがこれを着たところを想像できない。できないけど、色とか形とか、お兄さまの好みだと思う。

 そして見つけてしまった。見てはいけない物を。


 とってもセクシーなランジェリー。

 スケスケの。

 色とりどりそろっている。後ろ何て、紐じゃないの!というほどの細さ。前だってきっと……隠れないよ?


 自信ないけど……多分。


 ここはお兄さまの部屋にある隠し小部屋。

 今日はたまたまカギがかかっていなかった。

 隠し小部屋には、恐ろしく大きなサイズの女性のドレスと下着たち。

 デザインはお兄さま好み……だと思う。

 そして、とてもセクシー。

 化粧は半分使用されている。


 そこまで状況をまとめて、今度こそどうしていいかわからなくなった。


 これらを身に纏い化粧をし、しなを作るお兄さま。

 あの筋肉もりもりでくねっとした仕草などできるのだろうか、不明だ。


 そこまで想像してみて、気が付いた。


 どうやらお兄さまはあんなにもごつい体を持ちながら、心は乙女だったみたいだ。





******



 13年生きてきて、これほどの秘密を抱えるなんて思っていなかった。

 誰にも行ってはいけないと言う圧力と誰かに相談したいと思う気持ちがせめぎ合って、とても胸が苦しかった。


「エミリア、悩みがあるのか?」


 そんな気持ちを抱えて、少し笑みが少なくなってしまったのか、明け方仕事が終わって帰ってきたお兄さまが気遣う様に聞いてきた。お兄さまはこれからまたお仕事に行かなくてはいけないのに。


「ううん。何でもない」


 そう答えるしかない。


「昨夜は済まなかった。一人では怖かっただろう」


 そういって大きな手でわたしの頭を撫でてくれた。お父さまとお母さまがわたしを庇いながら二人とも瘴気を取り込んだ獣に殺されてから、こうしてお兄さまは安心させるように頭を撫でてくれるようになった。もう13歳だから、普通の貴族の子供なら婚約者とかいてもおかしくはない年齢だ。ただ、うちは伯爵家だけれども騎士の家系でお兄さまがいるし、政略結婚も意味をなさない。特殊な状況がわたしの甘えを許してくれているのは理解していた。


「心配しないで。大丈夫よ。今日は大好きなダンスの練習だから」


 心配しないように言ったつもりだったが、お兄さまは眉をぎゅっと寄せてしまった。


「ダンス……相手は団長の息子か」

「そう、だけど?」


 不機嫌そうなお兄さまを見て、思わず眉間の皺を伸ばした。あのドレスを着て化粧をするなら眉間には皺が残っていない方がいいはずだから。無意識の伸ばしているとお兄さまに両手を抑えられた。


「今日は騎士団に連れて行こう。ダンスはやめだ」

「でも」


 わたし、騎士団に行ってもやることないけど。


「代わりに俺の書類をちょっと手伝ってくれ」

「ふーん」


 書類と聞いて、ピンときた。お兄さまは見かけ通り、大雑把だ。特に書類整理が大嫌い。わたしも中身はわからないけど、分類するくらいはできる。最近、副官の人に色々と仕込まれているようでならないが。


「さあ、支度しよう」


 お兄さまが言い出したら、止められない。


******


 衝撃的な秘密を確認するために、騎士団に来たのはよかったのかもしれない。慣れた道をお兄さまに抱えあげられながら、今日の予定を立てた。


 まずはお兄さまの副官。


 彼にそれとなくお兄さまの好みを教えてもらう。次に、お兄さまが男の人が好きなのかも聞いてみる。だって、あんなにも乙女なんだもん。もしかしたら恋愛対象も男の人かもしれない。

 それと、お兄さまが誰を意識しているのかも探らないと。乙女な気持ちが爆発するということは、実際に思う人がいると思う。お兄さまはほとんど騎士団にいるから、その相手が騎士団の中にいる確率は高いはず。


「どうした? 今日は大人しいな」

「え?」


 どうしよう。考え込みすぎて会話するの忘れていた。お兄さまはそんなに話さないけどわたしはずっとおしゃべりしている。それがないから不審に思ったのかもしれない。昨夜、お兄さまの秘密を知ってしまったことがバレない様に気を付けないと。だけど、これだけは言っておこう。


「お兄さま」

「なんだ」

「わたし、お兄さまが大好き」


 そういってちゅっと頬にキスをした。男性が好きでも妹からのキスは許してほしい。これからもずっと女性としての分類をしなくてもいいから。


 違う。

 お兄さまとわたしは同じ分類よ。女性同士仲良くしても問題ないはず。

 だから、今すぐにとは言わない。わたしがお嫁に行くまでにはこの秘密を教えてね。






 でもね、話したいの誰かに。




******



「……というわけで、話しちゃった」


 わたしは猫の精霊ヴィーにそっと教えた。ヴィーは驚きのあまりに目を大きく見開き、口も開きっぱなし。


 そうだよね、こうなるよね?

 わたしもこうなってしまいたい。



「マジにゃん?」

「そうなの。ちょっとね、卑猥なんだけど前は辛うじて? 隠れそうで、後ろはもう紐なの。途中にバラの花が付けてあるから……お尻にお花が咲く感じになるのかな? ちょっと想像できない。ねえ、あれって着たらどうなるんだろう?」

「筋肉だるまのブライアンにそんな趣味が……想像がつかないにゃん」

 

 ヴィーが放心していた。でもすぐに立ち直る。


「わからないことは、オスカーに聞くにゃん。既婚者だし、王族だからきっと色っぽい愛人が一杯だにゃん。きっと知っているにゃん」


 閃いたという顔をするので慌てて止めようと手を伸ばした。


「ダメよ! お兄さまの秘密が」

「ブライアンのことをバラさなかったらいいにゃん。ただ、こんな下着はどんな感じになるのか教えてもらうだけにゃん」


 ヴィーはそう言って意気揚々と歩き出した。

 もちろん、わたしも。



 だって知りたいんだもん。

 そしてもっと素敵なものがあったら、それをそっとプレゼントしよう。






Fin.






+++++


補足:

あのドレスたちはブライアンの物ではありません。

二人の今は亡き叔父のものでした。つい最近見つけて、慌てて小部屋に隠したというのが真相。

エミリアが知る日が来るかは不明。


+++++


最後までありがとうございました。


最後が下品ですみません。。。


最後までお付きあいしていただき、感謝します。

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