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やがて祐介も寝入ってしまい、気がつくと外はまっ昼間で暑そうなのに部屋の中はクーラーが効いていて寒涼しい。




ふと美香を見ると彼女はまだ眠っていた。




その安らかな顔からは彼女が少女だった頃の面影も薄っすら想像できそうな そんな気がして祐介は窓際のテーブルで静かにタバコを吸いながら聖女の寝顔に見とれた。




昨日、あんなに酔っ払ってわんわん泣いた彼女を初めて目にした。




今まで自分の事をこの世で一番不幸な人間なんて思ったりしていたけれど、それでも僕には父親がいる。実家がある。それに比べて中学から子供達だけでアパートに住むなんて状況が続いた美香は僕よりも遥かに苦労や悲しみ、孤独を背負ってきたのだろう。



だから前の彼氏をあの人がいないと生きていけない…。そんな風に長い月日の間思いつめていたのだろうか?そして僕はその人の存在を超えられるのだろうか?立ち上る煙に乗って色々な思いが頭の中に浮かぶ。





音を立てないようにトイレに行き戻ってくると美香が目を覚ました。





「起こしちゃった?ごめん」






無言で首を横に振った美香は昨夜の酒のせいでずきずきと振動のある頭痛に襲われ始めた。





ふらふらとミニキッチンの方へ踏み出し、引き出しから頭痛薬を取り出した。





祐介は慌てて水を用意し美香をテーブルの所へ座らせると薬を飲ます。





「大丈夫?」





「頭がずきんずきん痛くて」





「まだ横になってた方がいいんじゃない?」





「ありがとう。こんな姿を見せてしまってごめんなさい。もう後は一人で大丈夫やねんから」




「でも…心配だし」




「まだ一緒に居てくれはるの?昨日、さんざん迷惑をかけてしまったやろうに…」






「そんな迷惑とかじゃないし」






「うち、頭ぼっさぼさやろ(笑)で、顔はまさに妖怪(笑)」明るい室内で祐介とまじまじと目が合うと恥ずかしさが込み上げてきたので自分を茶化した。





美香につられて祐介も笑い出す。





「あ~ホンマにやばいとこ見られてしもうて…。もうあかんわ。頭おかしい、変な人って完全にバレてしまった」





祐介は声もなく美香に微笑み「だね、まさに衝撃的…」とふざけて返した。





頭痛薬が効き始め、二人は交代でシャワーを浴び、ホテル内のレストランの食事をテイクアウトして部屋で一緒に食べた。






日曜日の穏やかな都内を見下ろしながら美香の心は揺れていた。こんな自分のままで また誰かと付き合ってしまっていいのだろうかと…。箸を持つ手は不定期に止まる。





始まりがあれば必ず終わりがある。別れるたびに毎回悲しい思いをするのならば誰とも付き合わずにいる方が楽なのかも知れない。人の心は変わる。永遠の愛を誓って結婚しても変わることだってあるのだ。




うちは何よりも不確さが嫌い。嫌いというか恐くて不安でたまらない。




不確かな関係、不確かな気持ち、不確かな未来……




でも一番不確かなのは自分自身。自分という存在なのではないだろうか?





街が金色こんじきに染まる夕暮れ時、祐介は美香を東京駅まで送っていった。





「祐介さんホンマにありがとう。」





「うん。気をつけて…」





別れ際はそんなそっけない会話しか交わせなかった。




本当はもう一度彼女を抱きしめて、その唇に触れたかったのに。




人混みの中へと消えてゆくその後姿を最後まで見つめる間もなく車を発進させなければならなかった。




美香との距離は縮まったようでそうではないかも知れない。初めから交わることすら無理なのだろうか?胸が張り裂けそうなほど恋焦がれている想いは届かないのだろうか?




マーメイドはその柔らかそうな唇に触れたらおしまい。泡になって消えてしまう……。許されるのは遠くから彼女を見守ることだけ。アンデルセン童話の内容を無意識に書き換えてしまうほど祐介の心は切なさで埋め尽くされていた。




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