第三十一話
次に石皿と石棒を洗い、台の上で緑ハーブを小型ナイフで細かく切り刻む。石棒ですり潰し、鍋に入れる。
次に、彼女はアケビの茎部分を微塵切りにして入れる。この頃には、アーミービーの刺激臭が収まっていた。多めの白の増強石が入れられ、水面が泡立つ。
材料を入れ終わると、ブラジェナは杖を振り、魔力を込めた。アーミービーの毒性が強いため、普段よりも多い。鍋が淡い白い光を放った。彼女は時折短いかき混ぜ棒で混ぜながら、時計に視線を送った。粘度が強く、混ぜにくく感じた。普段よりも腕に力を入れる。淡い黄色い液体が泡立ち、徐々に濁った緑色に変化していく。
そろそろ良いかしら。
ブラジェナは火を消し、鍋を覗き込むと、口元を緩めた。
暫く冷ます間に、ブラジェナは瓶を用意した。薬匙で鍋の中身を注ぎ入れ、ブラジェナは瓶に顔を寄せると眉間に皺を寄せた。
これは……。
濁った緑色。先程よりは収まっているが、匂いが強い。これは毒消し薬じゃないわ。
ブラジェナは魔法薬をケースに入れる。
紙に結果や温度や調合時間等を記録しつつ、ブラジェナは小さくため息を吐いた。
ある小皿に入れた雑草に魔法薬を浸すと、数秒後に全体が黒茶色に変色した。鼻を匂いが刺激する。
やっぱり……。
ブラジェナは小さくため息を吐いた。多分毒薬……、失敗ね。彼女は口を一文字に結んだ。やっぱり、難しいわね……。でも。彼女は目を鋭くさせる。今まで出来なかっただけかもしれないわ。やってみせるわ!彼女は左手の拳を握った。
そんなブラジェナに、左から声がかけられた。
「ブラジェナ、毒薬を作ってたんだ?匂いからして、材料はアーミービーか?」
ブラジェナが右に視線を向けると、同僚の男性が笑みを浮かべ瓶を見ていた。ブラジェナは眉を顰めると、首を横に振る。彼女は抑揚のない声で返した。
「いいえ、毒薬になってしまいましたが……、毒消し薬です。」
ブラジェナの言葉に、男性は目を白黒させ、声を上げた。
「え、毒消し薬?難しいのに?」
「はい。承知しておりますが、毒消し薬を作りたいです。」
「そうか……、頑張れ!」
白い歯を見せる同僚に、ブラジェナは微笑を浮かべた。
「はい、努力します!」
二人の声を聞いていたのか、周りから声が投げかけられる。
「ブラジェナさん、アーミービーで毒消し薬作ってるんですか?良くやりますね。」
「俺も前挑戦したけど、失敗したんだよな。暫くして止めたわ。別の研究した方がマシさ。」
同僚の一人の男性は呆れと感心の籠った声で言い、もう一人の男性は首を横に振り、両手を上に上げた。
周りが何と言おうが、私はやってみせるわ!ブラジェナは拳を握って意気込む。そんな中、横槍が入った。
「ブラジェナ、良くやるよなー。もし成功したら、何か奢ってくれよ。」
ヤンネは肩を竦めた後、金色の瞳を細め、含み笑いをしながら言った。ブラジェナは眉を顰める。
「そこは、ヤンネが私に、じゃないの?」
ヤンネは首を傾けた。目が笑っている。彼はしらじらしい態度で首を傾けた。
「何で俺が?ブラジェナが奢るのが普通だろ。」
「何でよ!」
怒るブラジェナに、ヤンネは両手をあげ、どうどう、と言う仕草をした。
暫くして、我に返ったブラジェナは、視線を離れたところに向けた。赤の瞳がこちらに向いている。彼女の背筋に冷たいものが流れる。これ以上は……、やめておこうかしら。彼女は軽く頭を振ると、中鍋の中身を全て瓶に移し替える。背後から何だ、という呟きが聞こえたが、無視した。
「ヤンネ?作業は終わったのか?」
ゲ、と言う呻き声が聞こえた。
「副リーダー……。」
「終わったなら、早く別に作業に移るんだ。それとも別の作業を増やされたいのか?」
「いえ、そんな……。」
背後から聞こえるヤンネとアルマスのやり取りに、ブラジェナは笑みを浮かべた。私を揶揄った罰よ!
ブラジェナは意識を背けなかった。
ブラジェナは毒薬が入ったケースを前に、深くため息を吐いた。どれもダメそうね……。彼女はよいしょ、とケースを持ち上げると、指定の場所へ持って行った。たまたまそこにいた女性の同僚に声をかける。
ブラジェナが鑑定杖で鑑定して欲しい、と頼むと、空色のショートヘアに同色の瞳の同僚、ダグニーは笑みを見せて首を縦に振った。ブラジェナ自身がやらないのは、作成者自身がやるよりも、周りの者が鑑定した方が誤魔化しが効かないからである。
ダグニーは箱から鑑定杖を取り出し、左手で紫色の玉をそれぞれに翳す。上に魔法薬の情報が出て来た。
──毒薬 効果小 他問題なし
──毒薬 問題なし
ブラジェナは眉を寄せた。
やっぱり……。
問題しかないわ。
毒薬で問題なしと出ようが、彼女の意図した結果ではないので、不本意である。毒薬としても、効果が薄い、と出たものが多かった。彼女は小さくため息を吐くと、眉を寄せ、口元を引き締める。彼女は心を奮い立たせた。
まだ始めたばかりだもの。仕方ないわ!それにしても……。
ブラジェナは毒薬の瓶に視線を巡らす。普通の毒薬はともかく、効果が薄いのは困るわね。彼女は目を細めた。研究所は、失敗作のうち、効果が薄いものは、基本的に廃棄している。何か、勿体無いわね。何かに利用出来ないかしら?彼女は思考を巡らす。効果が薄いといっても、使えないわけではないのよね……。
何かに利用出来ないかしら?
ブラジェナは暫く考えたが、頭を振って思考を断ち切る。後にしましょう。それより今は実験よ!
同僚であるダグニーは、そんなブラジェナに他所に、鑑定杖を戻す。
「他は大丈夫?」
ブラジェナはダグニーの声にハッと我に返ると、目を瞬かせ笑みを浮かべた。
「ありがとう。」
「いえ。」
ダグニーは微笑を浮かべると、一瞬だけある方向へ視線を向けると、自分の机へ戻って行った。




