星空投映機
一台の『星空投映機』が科学館の倉庫の奥で埃をかぶっていた。
この国に現存する最古の『星空投映機』、その一つだ。
かつてはプラネタリウムの真ん中で、たくさんのお客さんたちのために、満天の星を映し出していた。
けれども、時代の流れは速い。
新しいタイプの『星空投映機』が次々と誕生してくる。
昔は作業のほとんどを手動で行っていたが、今はほぼ全自動だ。一度に映し出すことができる星の数も百倍以上になっている。
投映機の操作をしながら、同時にナレーションをする必要もなくなった。人気アニメの声優さんが吹き込んだ音声が、自動で流れるようになっている。
最近では星空以外の内容も映すことができるので、ミニ映画館のようなことも可能になった。プラネタリウム専用の短編映画がいくつもつくられ、この国の各地で好評を得ている。
古い『星空投映機』が活躍できる時代は終わったのだ。
(でも、もう一度でいいから・・・・・・)
古い『星空投映機』は人知れず願う。
(星空を映したいな)
しかし、それが叶わないことだとわかっている。
なぜなら、もう自分の体はガタガタだ。多くの部品が傷んでいて、星空を映す力は残っていない。
しかも、操作方法を知っている人は数年前に定年退職してしまった。この科学館にはもう、自分を動かすことができる人はいない。
同世代の『星空投映機』たちの中には、大きな博物館に展示されているものもいるが、それは例外。仲間たちのほとんどが倉庫の奥で埃をかぶっている。
これも時代の流れだ。あとはスクラップにされるのを待つだけ。
そして、「その日」が訪れた。
倉庫の扉が大きく開き、運送会社の人たちが古い『星空投映機』を運び出していく。
トラックに乗せられて移動した。街中から田舎の方へ。
かなりの長時間走ったあとで、トラックが止まった。
着いた場所は山奥の村だ。屋外野球場の真ん中に、『星空投映機』は降ろされた。
「元気にしていたか?」
すぐに近寄ってきたのは、数年前に定年退職した男性だ。かつての相棒。
「お前の力を今夜、もう一度貸してくれ」
野球場の周囲では、いくつもの夜店が並んでいる。焼きそば、わたあめ、イカ焼き、かき氷、ハッカパイプ、焼き鳥、リンゴあめ、チョコバナナなど。
今夜は村の大きなお祭りだ。
都会に出ていった若者たちも今日は戻ってくる。
また、この村は星を見るのに良いと、観光客もやってくる。
古い『星空投映機』が外側をきれいにしてもらっていると、やがて夕方になり、夜になった。
古い『星空投映機』の真上には、満天の星が輝いている。
でも、これは自分の力ではない。星を映し出す力は、もう残っていないのだ。
けれども、すぐ横では相棒が、昔のようにナレーションを始める。
この野球場に集まったお客さんたちが、最高の星空を見上げていた。
参考文献:
プラネタリウムの疑問50 (みんなが知りたいシリーズ) 20
五藤光学研究所/編
成山堂書店
ご愛読ありがとうございました。




