初詣
正月に神社へ初詣に出かけた。
この神社の近所には、プロ野球球団の本拠地球場がある。その球団のファンにとっては、なじみの神社だ。
神社に着くと、さすが正月。参拝客が結構いる。
しばらくして賽銭箱の前に立った。
賽銭箱に五円玉を入れる。
やはり、ここは地元球団のリーグ優勝を祈願しておくか。
すると、謎の声が聞こえてくる。
――それでいいのか?
女の子の声だ。何だか、おごそかな感じのする声。
すぐさま自分の周囲へと、視線を走らせてみる。
が、今の声の主と思われる人物は見当たらない。
なのに、謎の声が耳元で囁いてきた。
――昨年は最下位だったのに、たった五円で優勝できると、本気で思っているのか?
言われてみれば、たしかに。五円玉一枚でする願い事ではないのかも。
プロ野球の各球団は良い選手を獲得するために、時には億単位のお金を使っているわけで・・・・・・。
とはいえ、こっちは一介のファンにすぎないのだ。この声が誰だか知らないが、あまり期待されても困る。
とりあえず、賽銭箱に百円玉を入れてみた。
すると、謎の声が、
――さっき他球団のファンが来て、五百円を入れていったぞ。優勝を願っていった。
余計な情報を教えてくれる。
周囲に視線を走らせるが、やはり声の主は見当たらない。
(これは本当に神さまかも)
そう考えた瞬間だった。
――うん。神さまだ。
この神さまは普段から、「たくさんの人たちの色々な願いを叶えてあげたい」と思っているらしい。
けれども、「A球団を優勝させたい」という願いと、「B球団を優勝させたい」という願いのように、両立できないことも多いとか。
――なので、心苦しくはあるものの、「お賽銭の金額」で決めるようにしている。許せ、人間。
要するに、金額が多い方の球団にご利益を与えるのだという。
(お金に汚い神さまだな)
そう心の中でつぶやくと、
――無礼者め。おまえが応援している球団を、怪我人続出で最下位にしてやろうか。あと百年は優勝できなくしてやってもいいのだぞ。
謎の悪寒がした。これ、相手は本物の神さまっぽい。怒らせてはまずいと、自分の本能が告げている。
黙って千円札を入れてみた。
――良い心がけだ。信じるって大事だぞ。今後も期待している。
実はこの神社、昨年の大型台風によって、あちこちがかなり傷んでいた。その修繕費は結構な金額にふくれ上がっている。
なので、神主自らが年末の早朝にこっそりと、賽銭箱に一万円札を入れて、「どうか助けてください」とお願いしていたのだ。
神さまとしても、この神社が財政破綻するのは好ましくない。来年には空き地になっていました、では非常に困るのだ。空き地に賽銭箱だけ置いてあっても、誰もお金を入れてくれないだろうし。
そういうわけで、心苦しくはあるものの、これはと思う参拝客に対して、お賽銭を奮発するように語りかけているのだった。神さま、営業活動中。
そのかいあってか、今年の正月のお賽銭は、過去最高額を達成した。
どうにか修繕費を捻出できるとあって、神さまも神主も胸をなで下ろしている。
なお、正月に神さまが語りかけた内の一人が、今も頻繁にやって来ていた。
まずは贔屓のプロ野球球団が好調なのを報告。
そのあとに毎回、千円札を賽銭箱に入れると、
「恋人が欲しいです。希望の条件は――」
とお願いしてくる。
それに対して、
――努力はしてみる。だが、あまり期待するな。神さまも忙しいのだ。
と返してはいるものの、そのファンは今日も千円札を握りしめてお参りにくる。
さすがに、これで何もしないのは心苦しいかも・・・・・・。
縁結びを専門にしている神さまたちと、今度カラオケに行く約束をしているので、
――そこで相談してみようかな。
そんなことを考える神さまだった。
次回は「お年玉」のお話です。




