父さんっ子と兄さんっ娘に教わりつつ
白い白い中……。
はあ、はあ、はあ……。
「ろ、ロディ、ア……もう……だめだ、おれ」
「頑張って! エトにぃ、あともうちょっと! あともうちょっとで楽になるから!! そこで踏ん張って!!」
「そうですよ、江東さん。ただ集中するだけです!! そうすればちゃんと最後まで行けますから!!」
はあ、はあ、はあ……大声で言って来る彼女達。
だが、ここまでだ。
どんなに励まされようと、もう完全に底の方からガクガクして来た……体中がもう無理だと言っている!! もう、これはもう……。
「完全にもう無理!!! 限界!!! 超えたわ!!! これ!! 寒過ぎだろ!!! 何なんだよ!! これ!! お前らがロディアの出したカタラータでやれば、少しはできるようになるかも……って言うから、この数日頑張って来たけどさっ!!! この滝行に意味ってあるの!!?」
「ある!!」
「ありますよ……」
何だよ、二人の反応の差。
クレアはどこかに消えたし、リアムも最近見かけない……。俺が服を着たまま滝行をしている訳はロディアが出したこのカタラータは攻撃用だから日本の滝行よろしくパンツ一枚とかで入ったらすぐにあの世行きだ! と言われたからで!!
「おい」
「はい」
返事をしたのはティノだった。
「お前、もう俺が出来ないんじゃないかって思ってるだろ?」
「はい、あ! いえ! 違いますよ!! あともうちょっとでフレイムの時のような小さな希望が出て来るんじゃないかと思ってはいます!!」
「何だよ、それ。その薄い希望はお前のそのぺったんこだけで良いんだよ!」
「何ですか!! それ!! あたしの体のことですか!!? あ! 八つ当たりですか? 八つ当たりですね?! 良いでしょう、教えてあげますよ!! まだ何も出てない江東さん、クレアさんが言っていました。ロディアさんが出したモノということはかなりの魔法力があるはず! それを取り込みつつ、江東さんの出せるものを出す!! という作戦です!」
「作戦って」
「カタラータができたら大体の水の魔法が使えるということ! それにプラスして、この広大な河の勢いを作りあげている滝の高さ!! それはつまり、少しの岩やらも支配できる土関係の魔法もやれてしまうということなのです!! かなりお手頃な手っ取り早い方法なんですよ!! どうですか? この作戦!!」
「ダメだ、全然良くない。メチャクチャだ。あの女神、どこ行った? 文句が言えんだろ!!」
俺はそう言って、もうビジョビジョとなってしまった服のまま、ロディアの魔法で出来てしまった滝から少し離れ、静かな森の方を見る。
何となく、こちらの方から温泉の匂いが……。
「何よ、うっさいんですけどー」
そう思ったのも束の間、かなり余裕の表情でティノとロディアの間からひょっこり出て来たいつもの浴衣姿の白髪温泉女神。
きっとロディアがアンデッドではないからだ。くそう……。
「それで、できたの?」
「いや、言いたいことがあってだな」
「ハアァ?」
いきなりどこかに消えた! と思うと、俺の目の前にテレポートしていてびっくりさせてくれる。
「うぉ! 何だよ?!」
「何って言ってんのはこっちなんですけど!! こんな森の中に突然できた滝に来て、結構経ってると思うんだけど、できてないってどういうことよ!! あんた、サボってんの?!」
「あ、いや」
「それにあんた、あれやったんでしょ? あの属性調べるやつ」
「ああ」
「それで出たので一番多かったのが水なんでしょ?」
「ああ」
「だから、できるって思ったの! じゃあ、そういう訳だからやってちょうだい」
「ちょっと待て!」
「何よ、目潰しされたいって言うの? ゴタゴタ言って、ナシにしようって? そうはさせないんだから! そうなるくらいなら、あんたにまた目潰ししてやるわ!!」
「止めて!! それだけは止めて!! 勘弁してください!!」
俺はその時の痛さをまた思い出してしまった。くそう、忘れてたわけじゃないのか……。
「じゃあ、やれるわよね? 少しでも強くなって、レベル上げて行きましょうよ!! 少しはそういう努力を見せて、他のエルフさん達に認めてもらいなさい!!」
ああ、女神らしく言って来るこいつが憎い。
「わーったよ! やってやる!! 出来る所まではな!!」
「そうよ! そういう心意気が必要なのよ! あんたには」
「ハアーー! カタラータ!!!」
あーーーーー、やっぱり何も起こらない。
父さんっ子と兄さんっ娘の教えの通りの魔法陣は出ているし、カタラータ! と言えば良いだけのやつだから……とやっているのに……。
ガックシ……としていると、ぴょん! とロディアがやって来た。
「エトにぃ、休憩の時間。ちゃんと休む。これ大事!」
「ああ、そうだな」
一昨日からロディアが用意してくれるようになった樽風呂に入り、俺はふう……と疲れを癒す。
ちらちらとその樽風呂はどんな感じなの? と気にしているクレアが鬱陶しいが気にしない。
それより何より、いや~、良い。温い温度のこういうの最高だ……。
それにカタラータはしばらく消えないと聞いたし……。
少しウトウトし始めた頃になってようやくロディアが少し離れた所に座って、じーっとこちらを見ているのに気付いた。
「お、悪いな。えっと、確か昨日の話の続きか?」
「そう! エトにぃに聞きたい!! 都会の話よりもエトにぃのお母さんの田舎の暮らしに興味が出た!! 畑やら農業の話を聞きたい!! そうすれば、日本の自然にちょっと近付く!!」
「うーん……その辺の話な……」
困った、これ以上できないかもしれない。
当初は風呂に入りながらの話は仕事として認められるのか問題だったが、ちらっと異世界用パスポートを見れば、日本の事を教えていると見なしてくれたらしく、時給が発生していたから、こりゃあ、今回の仕事は楽勝かもな……なんて思っていたのだが。エルフであるが故にロディアはやたらと自然について聞きたがる。都会の話はもう前に聞いたと言い、新しくなった事だけ教えて! じゃあ、田舎は? となったのだ。
「農業やら畑はな、いろいろ手間をかけて大変なんだ。美味しいのを作るのにいろいろ研究したりしてな。ロディアが思うような超自然がないんだよ。今の時代の日本じゃ、虫に食われないようにする為に薬使ったりするから」
「知ってる、農薬って言うんでしょ?」
「何で知ってんの?」
「勉強した」
「へー、本でも読んだのか?」
「うん! 前に来た人達が」
そこで会話が途切れた。何だ? ピン! ってロディアの耳が立ったように感じられた。
「あのさ、質問して良いかな?」
「だめ! 何か居る」
うっそーん!! 怖いんですけど、今、本当にタオル一枚で何にも着てないんですけど!! ここは!!
「カタラータ!!!」
なんて、やってみた。
「ふ、ふふふ……何それ、君、それ……ふふふ、水鉄砲? にしては勢いがない。弱々しいね」
微笑しながらガサガサやって来たのはリアムだった。
「おっ前!! 何してるんだよ、何の用があってその森から出て来たんだよ!?」
「いやね、いろいろ探っていたんだよ。本当にここは特別なテレポートでしか来れない所か? とか、オレだって好きで美人エルフとどこかに行ってたわけじゃないんだ。そうだね、キミ、少しは使えるようになったんだ。こちらのエルフさん以外のエルフさんにも気に入られるだろうね、そんな魔法なんだよ、カタラータってのは。普通の人間の日本人じゃ、一滴も出ない魔法だ。それが何で今、出ているか? それはね、きっとそちらのエルフさんのおかげだよ」
「え?」
「だって、キミ、あの滝の中にずっと居たんだろ? それから魔法が出やすくなる薬草入りの風呂なんかに入って……、無自覚かい? まあ、良いだろう。あの侯爵が聞いたら、それを高く売れ!! って言って来るやつなんだよ」
「は?」
「そういう話さ、それでキミのパーティメンバー達はどこかな? 大事な話があるんだ」
何か嫌な予感がする。カタラータが少しできたことよりもそっちの方が気になってしまって、全然喜べない。




