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派遣社員で異世界の仕事してます!  作者: 縁乃ゆえ
日本の事を異世界の住人に教えよう! 高時給! 異世界にて長期のお仕事、パーティ付いてます!
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彼女の家で

 柊月が住んでいるマンションは外からの異世界の何かしらの力の気配を察知しただけでも警備会社へと通報し、激しい音を近隣に響き渡せる。そのくらい異世界嫌いの人や異世界を警戒する人、面倒事に巻き込まれたくない人が多く暮らしている。異世界が来る前の平和な暮らし……というのを実現する為に開発された異世界探知機能が付いたもので、俺のように異世界に行っている人や柊月のように異世界に接する事の多い人はどうか……と言えば、その魔法やら冒険者としての何かしらをしなければ良いことになっている。

 地球上で生まれた人には優しい感じだ。

 二人して買い物袋を持って、エレベーターに乗り、柊月の部屋の前に行き、柊月が鍵を開けてくれた所で、俺は躊躇わずにズカズカとその中に入る。

 こうやって、緊張せずに入れる家は実家とここと浅岡の家くらいだろう。

 お邪魔しま~す! と言うのも忘れそうになるくらいだ。

「うう!! さむっっっ!! 家の中もマジで寒いな! 日本!!」

「まあ、そうでしょうね、向こうは四月の季節……でしたっけ?」

「ああ、でも桜咲かないんだよな……、そもそもその木がないから」

「そうですね……、江東さん、冷蔵庫に買って来たやつ入れといてください。私、先に着替えて来ます」

「おい、ちゃっかり俺に寒い担当させるなよ!」

「良いじゃないですか、それくらいしてくれたって」

 柊月はさっさと自分の部屋に行ってしまう。

「まったく……」

 俺は何故か柊月の手伝いをさせられている……。

 そして、ごま味噌豆乳鍋が出来た。

 いや、俺は待っていただけで、柊月が作った目の前にあるそれは柊月が食べたい物であり、俺の分はおまけみたいなもので、江東さんの分は自分のお金で買ってください! と言うものだから、俺、今回、給料もらえないことになってるんだ……と言うと、バカ言ってないで、それくらい買えるでしょ?! と怒られた。

 柊月は知らない。レナード侯爵との事を。

 それをちゃんと話すことは出来ないが、それとなく言ってみようか……。

「あ、ちょっと待ってください! 江東さんの分は私のが終わってからです」

 そう言って、俺が持っていた箸を奪い取る。

 私服姿になった柊月を見るのは久しぶりだ。

「何ですか?」

「いや、ここに来るまでの間にな、見られてたみたいなんだ……」

「何に?」

「サキュバス……みたいな? そんなのにな、見られてる感じがしていた」

「それでどうしたんですか?」

 柊月は鍋の具を取るのを止めて、こちらを向いていた。

「ちょっと、向こうで知り合った異世界人と一緒になってな、守ってもらってた」

「女ですか?」

「男だよ!!」

「そうですか」

 良かったですね……とでも言うように具を取り始めてしまった。

 う! それ、俺が狙ってた肉!!!

「何ですか? 随分、視線感じちゃうんですが」

「だって、その肉、良い肉!」

「ああ、これですか……全然気付きませんでした。言われてみればそうですね……パク」

「おい! お前、柊月、何で一口?!!」

「良いじゃないですか、一口だとしても何回も噛むんで良い感じに味が……」

 ああ……、美味しそうに食べる……、本当にこの子は。

 それが嫌だと感じる時さえあるくらいだ。

 ここは一つ……。

「やっぱりさ、獣耳けもみみが良いんだよ」

「何ですか? 急に、待てないって言いたいんですか?」

「いや、待てと言われれば待つけども……」

 ごにょごにょとなってしまった、またしても良い感じの肉が!!

 柊月がこちらを見た。美味しそうに食べ終わった顔がそれかよ!

 くそう!! もっと美味しそうに食べれないものか!! そのこれ、異世界の肉? というような顔は何だ?

 肉は確か、豚だったはずだ!! それ食べて育って来ただろう!! というやつだ。

 またしても肉を!!? と思っていると柊月は野菜を選び出した。良かった……良い肉を見つけよう……。

「前々からそう言ってますけど、何で?」

「は?」

獣耳けものみみ

「あー、それはやっぱ、真似てやった柊月が可愛かったからじゃないの?」

「え! 江東さん……お酒まだ一滴も飲んでないのによく素面しらふで言えますね。何か、聞いてるこっちが恥ずかしくなって来るんですけど」

「自分の事じゃん。もうやんないの? あれ」

「猫耳カチューシャは向こうの方がご用意されたので、私は別に……したくてしたんじゃなくて、その場のノリというか、何というか……、そりゃ、ハッちゃけて付けてしまったりもしましたが……今となっては大変な黒歴史の一つです」

 しょぼん……と痛い過去を赤面しながら言うのはとても辛そうだが、こちらとしてはとても楽しい。

「獣耳さん達に感謝だな! もう見れないお宝映像だよ!!」

「江東さん、全然こりてないでしょ? 何で一時帰国の措置が取られてるか、分かってます?」

「分かってるよ、だから酒飲みたい所を我慢してるんじゃないか!!」

「本当ですか?」

 怪しまれてしまった。清楚系美女に。閑話休題。

「大人の話をしようか、柊月」

「そうですね、それが聞きたくて来たんでしょ?」

「そうです」

 真面目に話す為か、食べていた物をこたつテーブルの上に柊月は置いた。

 しばらく、美味しそうな鍋はお預けか。

 柊月は俺の方を見ずに話し出した。

「今日の今日で聞き込みして得られたのは、魔法が使えない者と使える者の差を調べる為に何かしてるんじゃないか……という、これだけです。サキュバスが一人でないことは江東さんもよくご存知のはずですが」

 やっとこちらを向いた。

「ああ、この前、野乃村ののむらに会った時もそう言ってた。サキュバスの姉ちゃん達がとっても良くしてくれるんだって、魔法使えない奴で良かったぁ!! って」

「あの男、まだ生きてたんですか」

「ひどい言いぐさだな、それ、野乃村聞いたら泣くぞ。その野乃村がランダム治験者第一号だ。あいつは金がもらえて、良い思いも出来て一石二鳥! とか言ってたけど」

「間違えば、人間と異世界人達の血が流れる子が出来ますね。それはまだこの日本では許されてなかったはずです。結婚は許されてますけどね。許されてない理由は江東さん、分かりますよね? あっちとこっちじゃかかる病気が違うし、どのくらい耐性があるかとか、ちゃんと救える命として扱えるのか……とか、そういう医療的な問題が大部分を占めてます。現実的に考えて、愛し合って生まれた子は皆幸せになるっていう法則は現状、どこにもありません」

「知ってるさ。そんな事。それだったら、結婚しないで一人で楽しくやってた方が気が楽だ。出来てしまった子供を産まないにしても、異世界人やその中にいる魔法使いなんかは良いかもしれないが、モンスターの赤ちゃんが人間の体内でどうやって成長し、生まれて来るのか分かったもんじゃない。だから、そういうのだって、あの大学ではやってるだろ。いや、院の方か? それは」

「分かってるなら良いんですけどね、無法地帯の異世界じゃ、ぽんぽん、ぽんぽん……困ってるって話です。夢がないと言われれば、それで終わりなんですが。子供を産む側としてはそういう問題は一刻も早く解決してもらって、自由恋愛自由結婚、子供の方だって自由にさせてもらいたいと思いますよ。これは今や、国際結婚以上の問題です。もし、生まれてしまった場合、戸籍はどうするのか、給付金は出るのか、そういった普通の子供が受けれるものをその子も受けれるのか。政府としてはそこん所も考えあぐねているようで、なかなか進まないんですよ」

「難しい問題ってことは国民だって重々承知だし、それでも……っていう声が大多数だよ。何気に愛人なら良いんですか! って言ってさ、愛人問題取り上げられてた芸能人がいたよな、昔」

「愛人……、まあ、異世界じゃ普通ですよね、愛人受け入れられてますから。まあ、正妻としてはおもしろくなくていじわるして、子供産めないパターンが多いですけど。統計を見ても」

「お前はそうやって、いつも女性的視点で物を言って来るな、もっと心を豊かにしてみたらどうだ? 自由な恋愛の末に迎えた大きな可能性! とでも言うのだろうか、楽しい事毎日出来てハッピーだろ!」

「いや~、それはないですよ。もしもを考えたら、やっぱりないですよ。デートとか見つけちゃった日にはもう!!」

 そんな事を言い合って、俺達の夜は終わった……って違う! こんな話をしに来たんじゃない!!

「柊月、キョウコウ社のレナード侯爵。その情報をくれ」

「何でですか? 嫌な事されたから? 腹いせ?」

「違うよ、他にもっと悪い事してないか、注意したいんだよ。ほら、俺、普通の一般人だからさ、命狙われたら嫌じゃん。普通に生活できるようになりたいんだよ」

「じゃあ、最初からバカな事しないでほしいんですけど」

 そう言って、また鍋の具を選び出してしまった。

 はあ、柊月は一筋縄ではいかない。それだけはいつも思い当たる事だ。それでも俺は頼んでみる。

「お願いします!! 柊月さん!!」

「うーん、そこまで言われると困っちゃうんですけど、私、そのレナード侯爵さんの居た頃、施設で働いてないし。もっと詳しい人、探してくださいよ」

「ケチ!! あ、じゃあ、良いよ。知ってそうな奴、思い出したから。そいつに聞く」

「最初からそうすれば良いのに……」

 それから三十分。話して食べてを繰り返していた柊月の動きが止まった。

「ふー、いっぱい食べたし、残ったのだったら食べても良いですよ」

「おい、お前、俺の買った肉も食べただろ?!」

「食べてませんよ、江東さんの買った肉はまだ冷蔵庫の中にちゃんとあります。というか、そこまで私、いじわるしません。江東さん、食事が終わったら、ちょっと良いですか?」

「何だよ」

「後片付け、お願いしたいんです」

「はいはい」

 その間にお風呂入っちゃいますから……と、柊月はまた自分の部屋に行って、出て来た。

「どうした?」

「あの、早くご飯終わらせてもらえません? お風呂前にしておきたいことがあったんです」

「何?」

「今は言いません。さっさと食べちゃってくださいよ。そのくらいならペロッでしょ?」

 ぺろっと食べた。食べてしまった。いや、食べれてしまった。ご飯をお代わりしたい。

「後片付け……食器、水につけとくだけで良いですから」

「何だよ、それくらいで良いの?」

「はい、それよりもしたいことがあって……」

 柊月にしては、はっきりと言わない。

 何だよ……と食器を流しまで運び、言われた通りにして戻って来ると柊月が正座で待っていた。

「何をする気なんだ?」

「久しぶりに肩揉んであげましょうか?」

 座って! と柊月は俺の背後に回り込み。

「何だ? ストレスが溜まってんの?」

「ええ。江東さんのせいでたくさん、山ほど。江東さんの凝り固まった痛みを感じる苦悶の表情が今の心にはちょうど良い気がして」

「やさぐれてるな、その心」

「毎日、毎日、少ない人数で見てますからね、そりゃ、江東さんみたいに良心があって、やってるのが大前提なんですが!」

「いっ!」

「かなり凝ってらっしゃる。もみほぐし甲斐がありそう……」

 俺はかなり悲痛に叫びたかった。

「あの、あのさ! あの! パーティメンバーの二人は」

「ああ、平気ですよ。レギナちゃん、一人にしないように、日本に居る間はここに居ますって言ってくれました」

「そうか、よかっ! 痛いんですが……」

「だから、そんだけ凝ってるんですよ」

「違うな、わざとそうしてるんだ。前はもっと気持ち良く出来てた! 人の肩揉んでるとプチプチ潰すよりイライラしないとか言っていたよな……痛い!」

 ぐっとやりやがって!!

「江東さんの肩って、本当やりがいがあります!」

 素人の肩もみほど怖いものはない。

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