王都特化部隊の慰安旅行に扮して
レギナはその後、レナード侯爵の方に引き取られたように見せかけて、守ることを主としている王都第二部隊の面々に一度預ける形となった。それで安全にレギナはサラ王女の所へ行けるはずだ。
こうなる前に、レギナが言っていた『近くに居る』の意味はリアムやティノがやっていた魔法をかけた王都特化部隊の連中がそこかしこに居て、何かないように配置され、その中にリアムも居り、皆でレギナを守っていたのだ。
そして、ノイデフィの電話が来るまで一日とかからず、その日のうちには宿から出て、荷物を持ち、俺達は日本に帰ろうとしていた。
「それでどうするのよ」
「何がだよ」
「私達が居れる場所、なくなっちゃったじゃない!!」
「東京行けば、帰る所あるだろ」
「ないわよ! 長期って言うからちょっと貸し出しちゃってるんだから! 私とティノちゃん!」
「何でそんなこと……」
「だって、住まないと傷むじゃないですか、家が」
「そうよ、長期間も空けてられないわよ! 前の時だってそう! 知らない人が勝手に住んじゃうより、ちょっとは知ってる人に住んでもらいたいじゃない。異世界人にしか貸せないのがあれなんだけど」
あー、やばい……。
この話は長くなると思った瞬間言っていた。
「俺、ちょっと用事思い出したわ。ちょっと行って来るから、先に行っててくれ」
「待ちなさいよ」
「うっと……」
腕を掴まれた。
でも、それはクレアじゃない。ティノでもない。
「リアム」
「やあ、ごめんね、待った? じゃあ、行こうか」
リアムの唐突な出現にクレアとティノは驚いていたが、何か言われる前にリアムのテレポートで俺はどこかの路地裏の小さい広場に立っていた。
セルカシュタット内だとは思うが。少しきょろきょろと周りを見ていると石畳から伝わる足音がした。
「待ってたわ」
凛と澄んだサラ王女の声。
そちらを見れば、日本でもその服なら平気そうな姫感のある服を着たサラ王女がこちらを向いて立っており、その隣には木椅子に座って静かにしているレギナと四十代くらいの筋骨隆々おじさんと冷静沈着そうな二十代くらいの男性に子供用のコートを一つ手に持っている三十代くらいの物柔らかそうな女性が立っていた。
「あなた、レナード侯爵に言ったそうね? レギナを連れて……何たらかんたらって。だから、私は考えたの。王都特化部隊の非番の者を集めたわ。彼らはこれから東京に慰安旅行に行ってもらうことになってるの。王都第一部隊リーダー、ウルス」
名前を呼ばれ、筋骨隆々おじさんが俺に向かって一礼した。
「王都第二部隊リーダー、フリューゲル」
冷静沈着そうな男性がウルスに倣って一礼する。
「王都第三部隊リーダー、エルヴァよ」
物柔らかそうな女性もそうしたからと俺に向け、一礼してくれた。
「えっと、その第二部隊は守備の『守り』だろ? 第一、第三部隊は?」
こそっと俺は隣のリアムに小声で耳打ちする。
「第一部隊は攻撃。ウルスさんは斬り込み隊長なんて呼ばれていてね。第三部隊は救護だね。怪我人の手当てをしてくれる。あとそんな怪我人の看病とか」
「そんな訳で、彼らと一緒に行ってもらうわ、レギナには」
「は?」
俺はもう待ってられない! と言った感じで話し出したサラ王女に理解不能と言ってしまった。
いつぞや言われた首はねられる! が思い出されてしまったが、サラ王女は気にすることなく言い続けた。
「ちゃんとした形で行ってもらいたいのは山々なんだけど、こればかりはどうしようもない。だって、あの穴から出て来た者か戻れなくなった者にしか異世界人の保護ってないんだもの! だから、レギナに戻る道を与えることは出来ないの」
「じゃあ、レギナは?」
「まあ、このままの姿で行くってわけじゃないよ。ちゃんとオレが責任を持って魔法をかける。オレの部隊にはね、見分けが本人達でしか出来ない双子がいるんだ。そのうちの一人がすでに東京で待機してる。だから、そのもう一人の方になってもらう」
「レギナの隠れ蓑ってわけですか、それは」
「ああ、そうでもしないと君がやられた時、どうなるか分からないからね。うろうろするだろう。向こうだって、自由のままじゃないよ。そんなに甘くはないんだ。こういうのはね」
知ってる……だけど、もう終わっているんじゃないのか。レギナの件は。
「安全第一。それが君の所とこことを繋いでいるやつの謳い文句でしょ?」
そう言って、レギナに向け、リアムは平然と魔法陣を出して、魔法をかける。
「我、知るメリソスの片割れとなって現せ。ブレウィス・イルシー」
何だか難しそうな魔法陣、それに短時間魔法……そんなに継続しないやつか……。
「事情の知らない者には分からない魔法も魔法陣に仕込みましたね」
「ああ、そうしなければフリューゲルが怒ると思って」
そうエルヴァに言ってから、リアムはフリューゲルの方を見る。
「上出来だ」
真っ先に褒めたのはウルスだった。
王都特化部隊の非番の方々もサラ王女のように日本で変な格好……とならないような服装をしている。でもレギナは。
「ふん、良いだろう」
「まあまあな魔法です。でも、そこら辺の日本人では分かりません。魔法に精通した者には不思議がられるでしょうが、そのくらいの魔法です」
どういうこと? という顔をしている俺とサラ王女にリアムは説明する。
「これで事情の知らない、ある程度の魔法が使える人でも、その双子の片割れに見え続けるということだよ。魔法が切れるまではね」
安心して……という事か。
「じゃあ、さっさと行きましょ。皆、私が出す魔法陣の中に入って。あ、リアムとその……」
「江東良吉ですが、俺」
「そ、その……ヨシキチが名前なの?」
「はい」
「そう、じゃあ、ヨシキチ、あなたはリアムとここに残って、お見送りをしてから、正規の方法で来なさい」
「ええ、そうさせていただきます」
リアムの言葉に俺は我慢が出来なくなった。
「ちょっと?!! 定員オーバーってことか?」
「違うわよ!! レギナの保護の為には、あなたは東京に戻るまでレギナのことを知らないという風にしてほしいのよ! もちろん、くっ付いて来ちゃってる、そこの二人にもね!」
「ギクギク!!」
知ったような声が聞こえた。だが、今は気にしない! っていうか、あいつら!!! 見えないようにしてるからって、分かり過ぎだろ!! 俺には分からなかったが。
「あー、分かっちゃってました? サラ王女にも……エトウ、もう少し考えて行動しよう、これからは」
何故、俺がそう言われなきゃならない。
「これは王族関係者にしか出来ないやつだから、悪く思わないでよ」
そう言って、サラ王女は何かしらの言葉を言って、非番の方々とレギナを連れ、行ってしまった。
「たぶん、着いたかな……。じゃ、エトウ、俺達もそろそろ行こう。テレポートに時間はないんだ。早く行って、落ち合おう」
そう言って、リアムのテレポートで今度はパーティメンバー二人が待っているはずの場所に着いた。
「お前ら、何で来ちゃったんだよ!」
「だって……、気になっちゃって……」
「咄嗟の魔法はダメですね。やっぱ」
おいおい……そんな俺達は一人一人行く日本のやり方とは違い、大勢で一度に行く東京行きのこの魔法陣の中でその時が来るのを待っていた。
お土産を買う時間もなく、着いたら絶対寒いはずだから……と荷物の中からコートを出して準備している人もいる。
そういえば……と、俺は暇そうにしているリアムに言う。
「なあ、何でレギナはずっと会った時から変わらない服を着てるんだ? エルヴァさんが持っていた紫色のコート、あれはレギナの物だろう? サラ王女では着れない」
ふいにシッ! とリアムにやられ、驚いたが、ああ……となった。
秘密裏にやるんだっけか……これ。だから、リアムもサラ王女のように変でない格好になっているし、ティノだってそうだ。クレアは……いつもと同じ。俺も私服のままだが、東京に着いたらスーツに着替えるつもりだ。
「レギナの服装ね……、あれは保護されやすくする為だよ。日本で通用するような服を着ていては保護されにくくなってしまうからね」
そうか……、俺は納得した。
このまま俺達も東京に戻り、迷子になってしまったという頃合いにリアムの魔法をかけられたままのレギナを見つけ、魔法が解けた瞬間、すぐにその然るべき場所に俺が連れて行くことになっている。まあ、俺がレギナに再会するまでの間、あの非番の方々が見え隠れしながら付いてくれているし、リアムが俺の方に居る。安全だ。焦らなくても良いのだが、早く事を終わらせた方が皆すっきりとするだろう。
ついでに、このパーティメンバー二人もその然るべき場所に連れて行かなくては。
俺のせいでそうなってしまったんだし……グチグチ言われるのは嫌だ! と考え出した矢先にアナウンスが流れた。
東京行きのテレポートが始まった。本当にたくさんの人が一度にテレポートされる。
その中には貴重品を盗まれた! なんていうのも時々、あるだが……。
今回はそういった騒動もなく、すぐに出られた。
少し待ってもらい、俺はトイレでスーツになり、落ち合うはずの場所に向かった。
確か、この辺……然るべき場所の近く……。
探している感は出さないように俺は静かな昼間を見渡す。
「いた!」
そう言ったのはもう冬の日本満喫しました~! というような顔をしているサラ王女だった。
「リアム~!」
駆けて来る! かなり元気な様子。
その後ろからぞろぞろと、レギナの魔法は解けたようであの蛇の髪を隠すためか、スカーフを頭に巻いている。
コートを着させてもらったようで、良かった。
「でだ、日本人だろ? キミ」
ん? 何か、始まってしまった? この寸劇に付き合うの? 俺……。
「ウルス、何言ってんの?」
「姫さん、この男に任せよう」
「え?」
「そうですね、姫。それが一番だと、僕も思いますよ」
「そうね~、今、わたし達は慰安旅行中だし! サラ様、どうでしょう」
「異世界人では、この迷子の子をどうにもできませんからね。日本人を連れて来たオレを見て、喜んでしまったんでしょう」
「リアムまでー?!」
ホント、そう思う俺も。
そんな置いてけぼりのサラ王女にクレアは任せなさい! と言うように言った。
「そう! 私達もちょうど、この日本人の男に連れられて然るべき場所へ再び行こうとしてるのよ!! ね、ティノちゃん!」
「え、そ、そうですね……この日本人の男に……いえ、父さんみたいな人に!!」
「え、こんな所で!! それ言う?!! アリなの!! これ!!!」
なんて茶番劇をやり終えて、俺は然るべき場所に連れてく為にレギナを王都特化部隊の方々から引き取った。




