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【アグロSIDE】 本物なのは火力だけ1

「ギフトネストの冒険者ども。聞くがいい!」


 精鋭部隊唯一の平民であり、雑用係であったフェルノがいなくなった。

 次の日の昼頃。精鋭部隊をまとめる隊長であるアグロは、ギフトネストの大広場でステージを用意して演説していた。


「シーロカ騎士団の精鋭部隊は生まれ変わった!深層を飛び回るドラゴンどもを焼き払い、なぎ倒し、殲滅することができる最強の部隊となったのだ!」


 そういいながらアグロが指を鳴らすと、観客との距離が遠すぎて指パッチンの音は全然聞こえていないが、ステージにゾロゾロと精鋭部隊の隊員たちが出てくる。


 全員が騎士団の紋章と、自らの家紋が入った刺繍がつけられたマントを羽織り、自信に満ちた顔つきで、胸を張ってステージに並んだのである。


「見よ!これが、新しく生まれまわった『新生』精鋭部隊だ!さあ諸君!デモンストレーションの時間だぞ!」


 アグロが宣言。

 全員が杖を真上に向けて掲げる。

 その先に魔法陣が出現し、魔力が構築されていく。


「放て!」


 全員の魔法陣が完成するまで、五秒程度。

 その魔法陣が天空へ解放された。


 上空に打ち上げられる高威力の魔法たち。

 燃え上がり、水で押し流し、風を巻き上げ、土砂が吹き上がる。


 普段なら目にすることはないであろう『高火力の魔法の同時発動』の演出。

 シーロカ騎士団の新しい力を見せるという触れ込みで行われた今回の演説。

 その最もわかりやすい『力』に、現役の高ランク冒険者ですら驚いた。


「フハハハハハッ!これだ!これが、新たな精鋭部隊、アルマテリア王国の尊い血が流れる貴族の、長年の研鑽と血統により示される、圧倒的な『力』だ!」


 高らかに戦闘力を……それも、『貴族が』という部分を強調して宣言するアグロ。


「今ここで、オーバーン伯爵家次期当主である、このアグロ・オーバーンが宣言する!この圧倒的な戦闘力を持つ、尊き貴族たちが、地下大迷宮を深層を踏破し……最下層へ到達し、攻略する!」


 そういいつつ、杖を掲げる。

 他のメンバーよりも大きな魔法陣が出現し、そこから火属性魔法が発動。

 その火炎は、空を焼いた!


「……フフフッ。この火力、この戦闘力!心して待つがいい。このアグロ・オーバーンが、貴族の力を結集した、『新生精鋭部隊』が、地下大迷宮を攻略し、英雄になるところを!」


 大広場が沸き上がった。

 ギフトネストの実権を握っているのは、シーロカ騎士団。

 その上層部は貴族で構成されており、自分の派閥の商人が、何人もこの場に呼ばれている。


 その商人たちから貴族関係者へと熱意が伝わり、大広場は沸き上がった。


 ★


 演説を行ったアグロたち精鋭部隊は、そのまま馬車に乗り込んで、地下大迷宮に向かっていた。

 興奮が冷めないうちに英雄の称号を掲げることで、貴族としての絶対の力を示せると考えた結果である。


「素晴らしいスピーチでした。アグロ様」


 そんなアグロのそばでは、青い髪を切りそろえた少年が付き添っていた。

 アグロにかなり近づいており、『側近』であることがわかる。


「当然だよ。僕のカリスマがあれば、この程度のことは楽勝だ。ゼント。君にはマジックバッグを預けていたが、準備は整っているのか?」

「もちろんです。商会に連絡したところ、どうやら『挑戦する際の買い物リスト』が作成されていたようでして、なかなか質の高いものになっていたので、それを購入しました」

「そうか」


 アグロは内心で『まあ、あの無能もできていたんだし、物資をそろえることくらいはできるだろう』と考えていた。


「一新された騎士団の実力。今こそ示す時が来たのだ。失敗は許されないぞ。ゼント」

「はい。私も、レイドーラ子爵家の嫡男として、力を示す所存です」

「ああ。期待している」


 ★


 破竹の勢いで進む精鋭部隊。


 誰もが認める通り、彼らの『火力』は高いのだ。

 加えて、近道には確かに『狂気的』な部分がいろいろあるものの、さすがに表層ではそれも薄い。

 もともと、履いている靴が優秀な質を持っているということもあって、表層ではやや滑りやすい程度で滑ることもないのである。


「フンッ!普段はあの平民がいろいろやっていたが、何も問題はないではないか」

「そうですね。まあ、表層はあの平民でも倒せる竜人が相手ですからね」

「ああ。だが、このダンジョンに潜るからには、それではだめだ。中層、深層に飛び込み、空を舞うドラゴンを倒さなければならない」

「おっしゃる通りです」


 話している彼だが、現在、高級菓子店で購入したビスケットを食べながらである。よく話せるね……。

 ちなみに表層だとまだ余裕があるのか、先頭を歩くアグロから離れたところでは、会話する余裕がある。


「はぁ、貴族関係者で構成されていて、実力が抜群にそろってるのは理解してるけど、華がないのがなぁ……」

「実力があって、貴族出身で、美貌があるとなれば……シンシア様か?」


 シンシアの名前が出たことで、それに応じて話が広がった。


「シンシア様かぁ……今、どこで何をしてるんだろうな」

「それは知らねえけど、でも、どこかで休んでいるんだろうな。高等部一年、16歳の中では断トツの首席だって聞いたことあるし。どこか、俺たちが知らない場所で活躍してる可能性もあるけど」

「綺麗だったからもっと見ていたかったんだけどな~……」


 表層ということで、まだ彼らに危機感はない。

 『アステライトの金剛石』と称されるほどの美貌を持つシンシアのことは、数週間程度では忘れないのだ。一度話題にすれば、少なくとも言葉は出てくる。


「おいっ!何をごちゃごちゃ喋っているんだ!集中しろ!」

「えっ、はっ、はいっ!」

「シンシアはもう学校を去ったのだ。貴族でもない。過去にとらわれるな!我々は今、未来を掴むために行動しているのだ。集中しろ!」

「す、すみません!」


 怒鳴り散らすアグロ。

 怒られた方も、どこがアグロにとっての逆鱗だったのか、いまいちピンとこない。

 今までアグロの傍でシンシアのことを話した場合、彼は陽気に『彼女は僕の隣にふさわしい女性だ』と、どれだけシンシアが美しいのか。そしてそれを抱える自分がどれほど優れた器の持ち主なのかを語っていた。

 だが、今日に限ってそれがない。


「くそっ……どいつもこいつも……」


 悪態をつくアグロ。


「アグロ様。ここからは中層の近道になります」


 ゼントの報告を受けて頷くアグロ。


「フンッ!さっさと抜けるぞ。こんなところでグズグズしている暇はないからな!」


 宣言しつつ進むアグロ。ゼントをぐんぐん追い越して……






 彼は転んだ。


 しかも、彼は腰のベルトの後ろ側に魔法具をいくつか装着しているため重心が後ろに下がっており、それで足を踏み外したことで、背中、そして後頭部を強打するという、衝撃的……いや、『笑』撃的なことになったのである!

次回も追放者サイドになります!


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