ギルドマスター、トーラスの提案からの……
冒険者ギルド。ギフトネスト支部の支部長。トーラス。
こう言っては何だが、あまり権限が大きくはない男である。
『竜王の神殿・地下大迷宮』が近くに存在することで高ランク冒険者はそこそこ集まってくるこの街だが、その反面、最も大きな実績をたたき出す『シーロカ騎士団』が実権を握っているのが現状である。
そんな肩身の狭い思いをしている男に別室に連れられて、ソファに座った。
「さて、本題から入ろう。君たち。二人ともCランクにならないか?」
本当に本題から入ってきたな。と思うフェルノ。
「……まあ、ランクを上げたい理由はいろいろあるだろうけど、実力の判断基準は?」
「それは君もわかっているだろう。フェルノ君だったかな?」
「……さっきの冒険者だろ?調子に乗ってたけど、体の軸はブレてなかった。酒癖が悪いタイプだが、基本的に動きは悪くないだろ」
フェルノ自身、刀を振るう冒険者だ。
敵の体幹や軸、隙などはある程度わかる。
「ああ、酒が入らない場合、あそこまでものを言ったりはしない。冒険中は飲まないようにしてるらしいが……」
「今日は休みか」
なんともタイミングの悪い話だ。
「酒が入っていても、あいつは反応速度がそこまで落ちない。それでもとらえることができた君は、『人がどう転ぶのか』が正確にわかっているんだろう。魔力制御に淀みがなかった」
「……俺の判断基準はわかった」
加えて、ギルドマスターである以上、優秀な冒険者を遊ばせておくつもりはない。という部分はあるのだろう。
(王国の南西部にあるこの町からもっと南に行くと、そこから先は帝国になる。人口比が五倍ある大国だし、量で勝てないなら質で勝負するしかないわな)
冒険者ギルドは基本的に互助組織なので、有事の際はそれぞれの支部が連携する。
だが、平時は功績をめぐって交渉の日々だ。
優秀な冒険者を、量ではなく質で勝負して手に入れたいギルドマスターからすれば、この手の飛び級は必要なのだろう。
「それからシンシア君だが……王立学院で、『冒険者ならBランクは確実』と言われていたからね。まあ、君ならいろいろ隠していそうだが……その上でこの評価なら、君自身も飛び級を受けることに納得するだろう」
「ええ、それで構いません……が、少し、過小評価をしていませんか?」
シンシアの目が少し鋭くなる。
まあ、どうせ飛び級ランクが上がるのなら高いほうがいい。
受けられるクエストの幅もかなり違う。
……のだが、トーラスは苦虫を嚙み潰したような表情になるだけだ。
「シンシア。そう言ってやるな。トーラスさんは『Cランクギルドマスター』だから、飛び級であっても冒険者のランクを『C』までしか上げられないんだよ」
「……ギルドマスターにもランクがあったのですか?」
シンシアにとって初耳らしい。
「まあ、基本的に王都みたいな大きな町に高ランクのギルドマスターが配属されやすい。だから、町の規模とギルドマスターのランクはほぼ比例してる。王都育ちのシンシアはトーラスにそれだけ『権限』が備わっていると思ったんだろうが……」
「……この町は、『シーロカ騎士団』一強になっていてね。その反面、私自身の功績が大きくないのだ。今のシーロカ騎士団は貴族の巣窟。王宮の権謀術数レベルの言い争いなら彼らのほうが慣れていてね……」
大局は見れなくても、短期的に見れるものは存在する。
常に功績を得ようと足の引っ張り合いをする貴族家なら特に、その手の交渉は慣れているだろう。
(まあ、卑怯者が騒いでいるうちは、世の中が平和ってことだから、別にそういうのを見るのが嫌ってわけじゃないけどな)
フェルノは自分に対する不利益が発生しない限り、その手の足の引っ張り合いを見るのは嫌いではない。
「まあとにかく、トーラスさんは口喧嘩で負けまくってCランクになったギルドマスターだから、あんまり権限がないのさ」
「要点をまとめるとそうなるが、言われるといやなものがあるね……」
トーラスは頬をかいた。
「それで、受けてくれるかな?」
「ああ。俺はその話に乗るよ」
「おおっ!ありがたい」
この地域で活動している高ランク冒険者はいる。
だがCランクでは権限が足りず、高ランク冒険者にとって『トーラスに目をかけられてもうれしくない者』が多いため、彼らが活躍してもトーラスの実力とはいいがたいのだ。
だからこそ、自分の目で新人を発掘した『実績』が欲しいのだろう。
(騎士団での事後処理の書類をさんざん作ってたからな。冒険者ギルドのルールや環境は大体わかってる。ソロやコンビみたいな規模なら、冒険者ギルドとはいい付き合い方をしておいて損はないしな)
フェルノの経験則として、この話は受けておいて損はないのだ。
ランクを手っ取り早く上げる場合、当然だが『飛び級』が一番楽に決まっている。
「……あ、シンシア君はいいかな?」
「フェルノ様が受けるのなら、私も反対意見はありません」
「そうか……追及は避けよう。感謝する」
一体どういう関係なの?と聞こうとしたようだったが、シンシアの眼光で黙らされたトーラスさんである。
「ふう、君たちの活躍を期待しているよ。ここで君たちが活躍すれば、シーロカ騎士団に一泡吹かせられるからね」
「どういうことです?」
シンシアが首を傾げる。
というわけで、ここからはトーラスの愚痴タイムである。
「シーロカ騎士団は貴族の巣窟だ。そして、貴族至上主義の連中ばかり集まっていてね。一応騎士団も冒険者チームの一つではあるんだが、Cランクギルドマスターである私では彼らを制御できない。しかも、ただでさえ貴族の関係者が多いチームなんて誰も関わりたくないから、異動も転職もできやしないんだ」
権限の低さを技術で補っているような状態なのだろう。だからそんなことになるのだ。
「高ランク冒険者チームであり、貴族関係者が大量にいるシーロカ騎士団を立てないといけない場面は多い。ただ、あいつらって、話してるだけでムカつくんだよ」
本音が漏れてきている。
「こっちがCランク冒険者であるというだけでさんざん馬鹿にしてくるんだ。私より年下の若造のくせに……」
額に青筋が浮かび、持っているコップから悲鳴が……そろそろ断末魔になりかねない。
「日々、事後処理に必要な書類だけは、まあ、クソ汚い字だが提出されていたから何とかなっていたが……」
「やかましいわ」
「……えっ?」
愚痴が止まった。
「……俺は昨日まで、あの騎士団の精鋭部隊の雑用係をやっていた。精鋭部隊に関する書類を作っていたのは、全部俺だよ」
「……そうか」
雑用係という担当名。
地下大迷宮の『近道』に関する一般常識と、先ほど冒険者との決闘で見せた、地属性魔法の才能。
カウンターで新しいチームを作っていたことから、『追放』という言葉が透けて見えた!
トーラスは理解する。
そして彼は、フェルノに対して、右手をスッと出した。
「!」
トーラスの本心を理解したフェルノは、自分も右手を出して、トーラスの右手をしっかりと握る。
「……わかってくれるか。フェルノ君」
「ええ、本当に、本当にわかりますよ。トーラスさん」
固い、固い握手を交わす二人。
二人は、お互いに、どんな苦労をこれまで積み重ねてきたのかをある程度理解していても、もちろん全貌は分からない。
ただ、その過程はどうでもいいのだ。
二人は、お互いに『マジであの騎士団許さん!目にもの見せてやるぜヒャッハーッ!』と考えているのだと理解したのだ。
その気持ちの大きさに優劣はない。そう考えているということが重要。『同志である』ということこそが重要なのである!
……そこからは、シーロカ騎士団に対する罵詈雑言の嵐であり、表現するにはあまりにも『汚すぎる表現』が多数確認されたため、ここで語るのは控えさせてもらおう。
ただ、結論を言えば、
『お前らが馬鹿にしたCランクギルドマスターが推薦した冒険者が、功績をたたき出して高ランク冒険者になったぞ!しかもお前たちが追放した騎士団員じゃん!追放したお前らの目は飾りなんじゃねえのプギャー!大作戦!』
という、頭の悪い上に酒を飲みまくったような(というか飲んだ。アルマテリア王国では16歳でお酒が飲める)あまりにも見るに堪えない作戦が行われることが決まった。
なお、表記すると百文字と大変長いので公式略称を設定。その名も『プギャー大作戦』である。
とりあえずその日は、フェルノとシンシアの新しい装備を手に入れるため、ギルドマスターの伝手で商人に連絡を取ることが決まり、フェルノの料理まで発揮されたギルドマスターとフェルノの大宴会はお開きとなった。
酒癖の悪い冒険者にごちゃごちゃ言っておいて、自分たちはこれである。
ちなみに、装備云々の話も二人で決めてしまったので、シンシアはずっと空気だった。
次の日、フェルノとトーラスが二日酔いに悩んだのは言うまでもない。
次回は追放者サイドになります!
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