油断も隙もないなこの変態
「おいこら!この草案作ったのお前だろ!」
フェルノの屋敷。
新しくギフトネストとオーバーンの間の治水をすることに決めて、アグロからの返事を待っているところなのだが、その段階であっても、いろいろと決められることはある。
間の地域の名前は『アクアス』というのだが、このアクアスの治水は常に断念されているが、言い換えれば『断念するに値する正確な資料』が存在するということでもある。
地図や治水に関する情報はそろっており、後はフェルノが土地を改造して、町の基盤を作っていけばいい。
フェルノもアグロも伯爵関係者であり、予算は十分で、技術的にはフェルノで大体賄えるのだから、治水を始める時にかかる初期費用の大幅なコストカットが可能だ。
そのため、ある程度町の構造がどうなるのかが決まっており、『都市設計』の資料を作っておいても問題ない。
問題ないのだが……。
「そうだけど、何か悪かったかしら?」
「人の移動の中継地点だぞ!区画のほとんどを『娼館街』にするとかどうなってんだお前の頭は!」
フェルノはギャーギャー言っていた。
一応言っておけば、彼は冒険者に必要な施設や設備に関しては理解が深いものの、それ以外の職についたことがなく、それ以外の職を持つ一般人として生きたことがない。
そのため、『領地を運営する』という点で視点が狭いことは事実である。
ただ、元アステライト伯爵家の長女として教育を受けていたシンシアと、数多くの知識に触れるために王国内のあちこちを転々としていて論理的思考を持つエルフィナがいれば、『草案』の段階では十分まとまる部分もある。
で、あぶれたアリアスが何をしているかと言えば、とんでもないことを計画していたのである。
「あら、娼館に対して差別はよくないわよ?」
「してねえよ!俺だって必要だとは思ってるけど、町全体の八割を娼館で埋めるとか何考えてんの!?」
娯楽は少なくはないが、限られていることは事実だ。
当然、フェルノだってそういう区画を作ることは考えている。
が、町全体の八割を娼館で埋めるとか、正気の沙汰ではない。
「決まっているでしょう?ギフトネストとオーバーンの間として、とても重要な位置になるわ。当然、優秀で金を持っている冒険者や商人だって集まるでしょう。それを狙って、魅力的な美女、美少女が集まるはずよ」
「……」
「目的は、私がその美少女たちを全員食べるためよ」
「だろうと思ったわ!」
性欲無限のバイセクシャルだからな!
「とにかく、娼館を立てる区画を決めるのはいいけど、ここまではやらんぞ」
「あら、区画の決定権の一部を私に委任したのはあなたじゃない」
「最終の決定権は俺にあるんですううう!」
面倒だと思っていることを隠しもしないフェルノ。
……ちなみに、お互いに『ああ言えばこう言う』タイプだが、この手の戦いは黙った方が負けだ。
で、この戦いは負けてしまうととても問題になるので、フェルノだって譲りません。
「とにかく!もうちょっといろいろ考えてくれ。歓楽街はいいけど娼館街はマズイ!」
「大丈夫よ。ちょっとフェルノの性癖が疑われるだけだから」
いや、アリアスがフェルノのチームメンバーであることは周知の事実なので、犯人は一発でわかると思うけどね。
「……あまりごちゃごちゃ言ってると担当するエリア激減させるからな」
「フフフッ。わかってるわよ。ちゃんと考えるから」
「絶対だぞ。絶対だからな!」
★
さて、アリアスは量が確保できない場合は質を高めればいいという価値観で動くタイプである。
「フフフ、ポプラちゃん。とっても可愛いカラダしてるわね」
夜。
ベッドで寝間着になっているアリアスは、同じく寝間着を着ているポプラと抱きしめあってイチャイチャしていた。
「えへへ、お姉さま~♪」
冒険者ギルドから送られてきたSランク担当官……から昇格し、『SSランク冒険者担当官』兼『深層周回運営委員会最高責任者補佐』という、異例の肩書をその小さな体で持っている少女。ポプラ。
体は小っちゃくて起伏が乏しく、髪をショートヘアにしており、ぱっちりした目とややオドオドした雰囲気が特徴。
まあロリコンにはたまらない外見と言って差し支えないが、アリアスの毒牙にかかっていた。
(フフッ、フェルノも脇が甘いわねぇ)
フェルノは指揮能力、育成能力がともに高い。
ただ、それは言い換えるなら『将来のビジョン』や『未来の仲間』に対するイメージを確固としているということになるが、その反面、『今』に対して視野が狭い。
異例の昇格をすることになって不安が増しているポプラは、確かに現場でやることはフェルノから教えてもらっているものの、『自分でいいのだろうか』という緊張を抱え続けていることに変わりはない。
アリアスは、そんなポプラの不安を突いて、自分に心酔する『信者』にしてしまったのである。
「ポプラちゃん。きっと、新しい街にも冒険者ギルドの支部ができるはずよ。そこで、ポプラちゃんのほうからいろいろと『推薦』して、街に行く受付嬢を決めてほしいのよ」
「む~。わかりました~♡」
アリアスの大きな胸に顔を埋めていたポプラだが、アリアスから言われて甘い声を出してうなずく。
(フフフ。これで、新しい街の冒険者ギルドは私が牛耳ったも同然ね)
フェルノのチームメンバ-である三人の少女は、それぞれ『ファン』が多い。
エルフィナはクールビューティーと評される外見と雰囲気に加えて、彼女の研究を使うことで強くなったという魔法使いが世界には多々存在する。
異端学者と呼ばれる彼女の研究を使っていると大々的に言えない事情があるが、要するに『隠れているファン』が多いのだ。
シンシアは『アステライトの金剛石』と呼ばれるほどの美貌の持ち主であり、『アルマテリア王国で最も美しい』とされる。なかなか写真が出回らないが、王立学院から発行される新聞や雑誌などに載った時にはバカ売れしたほどだ。
そしてアリアスだが、他二人と比べると、その信者の数は『圧倒的』である。
まず、普段から露出度の高いドレスを身に包んでおり、色気や大人っぽさという意味では一般人とは格が違う。
それでいて、自分がどう見られているのか、『何を期待されているのか』を完璧に把握しており、風属性魔法でドレスを揺らして『演出』をすることもあり、それだけで、男女問わず視線を向けざるを得ない。
バイセクシャルだがレズ寄りなのだろう。この雰囲気と性格で処女であり、行動範囲も広く、娼館があればほぼ確実に入っていく。
ファンであることを隠さざるを得ないエルフィナ関連、そもそも行動範囲がかなり限られているシンシア関連と比べて、『圧倒的に目にする回数が多い』のだ。
長い冒険者生活の中で、ギフトネスト、オーバーンともに活動経験があるため、その中でであった受付嬢の多くが彼女の毒牙にかかっている。
(フフフ。このギフトネストを管轄するトーラスはそれ相応の『やり手』だったからあまり手出ししてないけど、新しい街なら話は別よ。美少女の冒険者が集まりやすいようにコントロールしましょうか)
内心で艶やかな笑みを浮かべるアリアス。
……彼女の最も性質が悪い部分を上げれば、こうして『毒牙』にかけた女性たちは、日常生活を送るうえでは普段と全く変わらない行動をとる。ということだろう。
アリアスは女性相手を研究し尽くしており、一緒のベッドに寝れば相手はほぼ確実に快楽に溺れるほどだが、毒牙にかけた相手の『日常的な雰囲気』は全く変わらない。
その『痕跡を残さない調教』とでもいうのだろうか。
これが一番、性質が悪い。
今のところ、この調教に対する抵抗手段を持っているのは、エルフィナのみである。




