シンシア
少女が落ち着くまでに少々の時間が必要だった。
とりあえず、フェルノは地属性魔法を使って部屋の床そのものを作り替えて元に戻す。
すると、呼吸を整えて、落ち着いてきた少女が口を開いた。
「……私はシンシアといいます。本当にありがとうございます。助けていただいて」
「俺はフェルノ。まあ、通りかかったのは完全に偶然なんだが、助けることができてよかったよ」
そういいつつ、フェルノは地面をトントンと指でたたいた。
すると、地面から別の種類の岩でできたかのような箱が出てくる。
シンシアが驚いた。
「そ、それは……」
「さっきの戦い、奴隷の首輪で動くことを禁止されていても目で見えていたと思うが、俺は『地属性魔法』が得意なんだ。で、これはその応用。俺は『地中倉庫』って呼んでる」
「そんな魔法が……」
感心半分驚愕半分のシンシア。
(まあ、騎士団で必要な荷物が多すぎて、リュックとカバンだけだと足りなかったから隠れて開発した魔法だけどな)
嫌な思い出が重なって溜息をつくフェルノ。
(一番腹が立つのは、あのマジックバッグだな。リュックとバッグ、普通に運用できる容量の地中倉庫を全部足しても、あのマジックバッグには及ばないってところかね……まあ、だから団長は俺を不必要だって言い放ったんだろうけどな)
これでマジックバッグの容量が小さくてポンコツだったら後で留飲も下がるが、さすが、地下大迷宮の深層の宝箱から手に入れたアイテム。
容量は多いのである。フザケンナ。
「まあ、普段は運用上の都合で地面に引っ込めてるし、すぐにものを取り出すとなると使いにくいから、ポーチやカバンは必須だけどな」
「そ、そうですか……」
感心しているシンシアに対して、実際にこれを長い間使っているからこそ欠点も見えているフェルノは、この魔法が低級だとは思っていないが、それでもまだ追及し甲斐があると思っている。
若干熱意に差があるが、それはそれとしよう。
「あー……」
フェルノはシンシアを見る。
ルックスもスタイルも良い美少女……なのだが、長髪は薄汚れており、肌も荒れている。
着ている服は肌をまだ隠せる白のワンピースだが、ワンピースそのものの汚れがすごい。
「……着替えるか?男用のものしか持ってきてねえけど」
というか女物があったほうがおかしいだろう。女装の趣味はないし。
「あ……すみません。お借りします」
倉庫から畳まれた服と濡れタオルを出した。
ちなみに、濡れタオルはマジックアイテムであり、これで拭くだけで汚れを簡単に落とすことが可能である。頭髪も対応している。
『清潔』と『付与』の魔法を使える魔法具店があってそこで購入した。あると結構便利なので。
地属性魔法を使って簡易的な更衣室を作ると、シンシアはその中に入っていく。
(さーて。あれほどの実力者がさらってきたんだ。相当な案件だろうな。年齢不相応に背筋がしっかりしてるし、相当躾けられてる。高位の貴族や大商人のお嬢様ってところかね……)
違法な奴隷売買は値段が極端に上がったり下がったりするが、交渉の末の金貨八百枚は『かなりの大金』である。
(……本人がこれからどうするかによるけど。姿勢を見る限り、剣士としても魔法使いとしても質は高そうなんだけどな……)
ただ、さっきの黒装束の男。
いきなり気配を消してきたが、あれを不意打ちでやられて、そのうえであの男が持つ『対応された場合に次の行動に移る技術』のコンボをきめられたら、おそらく対応できるものはそういないだろう。
とはいえ、とりあえず待つことにした。
その間に、倉庫に入れておいた調理器具と仕込みを済ませた食材を使って、汁物をパッパと作っていく。
短時間で大量に作ることを想定した料理なので、料理手順をいくつか省ける特殊な薬草も使って仕込んだ食材を使っていることもある。
高速で出来上がった。
鍋から器に盛ったとき……。
「あの、フェルノ様。着替え終わりました」
「んっ?ああ……おおっ!」
シンシアの姿を見たフェルノは驚いた。
安い言葉を使えば、美しい。という言葉に集約される。
腰まで伸びる銀髪はとてもきれいで、ダイヤモンドのように不思議な光沢を放っている。
芯の通った優しさを感じさせる翡翠色の瞳に、通った鼻筋と形のいい唇。
それだけで美しさと頼もしさを感じさせるが、体つきもすごい。
胸は大きいが、逆に大きすぎるということもなく、体格にあった『黄金比』といえる大きさ。
その反面、腰は細く、お尻は大きく、とてもスタイルがいい。
男物の服装でも、なんだか……『これはこれでアリ!』といえるものだ。
「ブフフッ……」
まああえて言えば……シャツの胸にプリントされている『わんぱくタイガー君』という二頭身の虎型のマスコットキャラクターが、左右に『ぐいいいい~~~っ!』と引っ張られて大変なことになっていることだろうか。
「ハッハッハッハッハッハ!」
わんぱくタイガー君を見たフェルノは爆笑。
自分で選んだ服を着せたくせにこの反応である。
「ひ、ひどいですよ。フェルノ様が選んだ服なのに……」
「ああ、ごめんごめん。なんかインパクトがすごくってな。とりあえずこの上着、着ておいて」
さすがにこのシャツでダンジョンを出るのはいろいろ問題がある。
上着を渡すフェルノ。
「……ってか、様付け?」
今更なフェルノである。
「はい。『捕まったら二度と希望はない』と言われる『銀の揺籃』から助けていただいたのです。感謝するのは当然ですよ」
「……まあ、なんでもいいや。うん」
好意の視線を向けられることそのものは、素直にうれしいと感じるフェルノ。
良い笑顔である。
「ほれ、作ったから食べなよ。どうせまともなもの食べてないんだろ?」
「あ……いただきます」
器とスプーンを受け取って食べ始めるシンシア。
「……お、おいしいです」
「だろ?」
普段から貴族相手に作ってるからな!
こんなスープばっかりならいいんだが、時に『フルコースか!』って突っ込みたくなるような『いろいろな品目』を求めてくることもあるのだ。コック連れてこい。俺は冒険者だ。
「……ごちそうさまです」
「食べるの早……まあいっか」
食器を片付けるフェルノ。
「さてと、そろそろダンジョンを出ますか……」
「私も戦いますよ。水属性魔法なら使えますから」
「ああ。俺も地属性で頑張らないとな。刀、折れちゃったし」
「す、すみません。私を助けるために……」
「いいって、悪いのは『銀の揺籃』のおっさんだから」
フェルノはそう言いつつ、『お疲れ様』と言いながら、倉庫に刀を入れた。
「帰りますか」
「はいっ!」
休憩は終わり。といった雰囲気で、二人は部屋から出て行った。
最後にフェルノは廊下に出たときに、黒装束の男を拘束していた地属性のベルトを見る。
すると、ベルトはそのままの状態だった。
壊された形跡はなく、その時の姿勢からして自力で抜け出せるようなものではないはずだが、忽然と人だけが消えている。
(……いったいどうやって抜け出したんだ。アイツは)
警戒心を挙げつつ、フェルノはシンシアを連れてダンジョンから出て行った。
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