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【新団長SIDE】 英雄とは蛮勇の結果である。しかし、蛮勇のほぼ全ての結果はやはり蛮勇である。

「くそ、俺をバカにしやがって、絶対に許さんからな。フェルノ」


 唸るように、怨念を燃やすように馬を走らせるカイロス。


 馬に乗る彼は鎧で身を包み、剣を背中に装備している。


 剣は業物で、鎧はきらびやかだが年季を感じさせるものであり、怨念を燃やしているように見えるが、視点を変えれば堂々としている彼は、『歴戦の戦士』を彷彿させるものだ。


 彼の後ろからは、五十人を超える男……少年といえる年齢から、カイロス以上の年齢まで様々だが、馬に乗ってついてきている。


 貴族の基本的な技術として馬術を求められるので、急に命令されてもついていけるのだ。


「団長。落ち着いてください。SSランクモンスターであろうと、我々の火力があれば勝てるでしょう。しかし、それでも強力なモンスターであることに変わりはありません」

「わかっている。だが、あそこまで虚仮(コケ)にされて黙っていられるほど、貴族は安くない。一刻も早くそのモンスターを討伐し、ギフトネストの平民共が、全員、文句を言えないようにしてやる」


 強力なモンスターが待っているということは分かっている。


 だが……大陸に脅威を与えるレベルというものが、どういうものなのかを、彼らは理解していない。


「あの森の奥にいるんだったな」

「はい。巨人のようなモンスターとのことです。寝転がっているところを発見されたそうです」

「森を一気に突き抜けるぞ。道中のモンスターは無視しろ。どうせ、強力なモンスターが現れているのなら、森にいるようなモンスターは逃げ出しているはずだ」


 彼の推測は当たっている。


 そもそも動物というのは『危機感知』だけで生き延びている。これが弱肉強食である森の原則だ。


 しかし……彼が森を突っ切る必要はなかった。


「!」


 誰かが声を漏らした。


 しかし、それは言葉にならなかった。


 見た物を信じられなかったのだろう。


「森の上に……顔?」


 まるで鉄製の(かぶと)に覆われているような、顔だ。


 それが、『森の上』に見えているのである。


「な、なんだあれは……」

「ま、まさか……木よりも高い身長を持つってことじゃ……」

「そ、そんな馬鹿なことがあるか!木に登っているからそう見えるだけにすぎん!臆するな!偶然の張りぼてにビビるんじゃない!」


 カイロスは叫び、馬を走らせる。


 よほどの調教が行われていたのだろう。馬は止まることなく走っている。


「……ヒッ!い、今、こっちを見たぞ。あの巨人!」


 誰かと巨人の目線があった。


 次の瞬間、巨人はその大きな腕を振り上げる。


 そして、その腕をゆっくりと……『ジャンプする準備』をするかのようにおろしていく。

 それと同時に頭も下がっていった。


 ギリギリ……森に隠れて見えなくなる。


「な、なにをするつも……な、ああっ!」


 カイロスは言葉を失った。



 巨人が、森を飛び越えるほど、飛びあがったのだ。



 それも、助走して飛び越えるのではなく、立ち幅跳びのような形で。

 文字通り『森を飛び越えている』ため、巨人の全貌が目に焼き付けられる。


「な、なんだあの化け物は!」


 叫ぶカイロス。


 ★


 ……さて、この巨人が地面に着弾するまで、ほんの少しだけ時間がある。


 その間に、わかりやすく【絶望】してもらおう。


 木を超えるほどの身長、とあるが、事前の研究で、この森の木の高さは『二十五メートルはあっても三十メートルはない』と判明している。

 目算だが、大体、巨人は身長三十メートルということでいいだろう。


 そして巨人の体格は、胸板が熱く、腕も足も太く、遠くから見ても分かるほど凶悪な体格をしている。普通の人間換算で、身長百七十センチ、体重百キロの『筋肉の塊』といって差し支えない。



 百七十センチと三十メートルの差は、大体『17.65倍』といったところだろう。


 ここで問題だ。


【身長百七十センチ、体重百キロを、『身長三十メートル』に置き換えた場合、その『重さ』はどれくらいになるでしょう】


 思考する時間は無駄だ。答えを出そう。



 大体、【550トン】である。



 なお、純粋に人間と同じ材質で人間の形を保てるわけがないので、これは【最低値】である。


 もう一つだけ問題だ。

 そんな化け物が、『高く飛びあがって』『地面に着地したら』……一体どうなると思う?


 ★




 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!



 世界がひっくり返ったかのような衝撃と共に、巨人は着地する。


「うわあああああああああああああああ!」

「ぎゃあああああああああああああああ!」


 ただ飛びあがって地面に着地する。


 それだけで、カイロス率いる騎士団は甚大な被害となった。

 馬が揺れる大地の中で体勢を維持できず、いままでやったこともないような『転び方』をしたのである。


 頑丈だが、それでも重い鎧を身に着けていた騎士団が地面にひっくり返り、そのまま後ろから転んできた他の騎士団員がひっくり返ってきて衝突しあう。


 それだけで打ちどころが悪く、大けがをしたものがいるくらいである。


「ば、馬鹿な。こんな化け物が……」


 まさに、絶望。


「GUHUHU……OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」


 叫ぶ巨人。


 それだけで、大気が震え、ビリビリと空間が震える。


「ぐっ、はぅ、ああああ……」


 カイロスは顔面蒼白になり、股間が濡れる。


 それを見た副官は、顔を青くしながらも叫ぶ。


「武器は通じないかもしれんが、魔法なら効くかもしれん!魔法で焼いてしまえ!」


 指示を飛ばす。


 それを聞いて、慌てたように……魔法が通じることに縋るかのように、騎士団の面々は杖を構える。


 命の危機に対して、手が……いや、全身が震えてうまく構築できないものもいたが、中には命の危機だからこそ魔法を発動出来た者もいる。


 魔法陣が出現し、巨大な水属性の砲弾が巨人に向かって飛んでいく。


 巨人の顔に向かって飛ぶ魔法。


「頼む……頼むから……」


 祈るように、神に縋る様に呟く。


 それに対して巨人は、ニイィと笑うと、大きく息を吸い込み……吹き出す!


 まるで暴風のようなその圧力は、水属性の砲弾を、跡形もなく吹き消した。


「あ、ああ……」


 絶望する少年。


 どうやら、彼にとって、今までで一番の魔法だったのだろう。

 それが、ただ息を吹き出しただけで、消し飛んでしまった。



 もう、彼にできることは何もない。


「て……撤退だああああああ!一刻も早く逃げろ!アイツには、絶対に勝てん!」


 カイロスの副官が叫ぶ。


 それを聞いて、全員が巨人に対して背を向けて走り出した。

 転んでも、まだ起こせば走れる馬を選別し、我先にと逃げていく。


「ま、待て!俺を一番最初に逃がせ!これは命令だ!命令だああああ!」


 カイロスは叫ぶ。


 だが、そんな彼の言葉を聞けるほど、彼らに余裕などない。


「その馬をよこせえええ!」


 選別された最後になるであろう馬に乗った中年の男性を蹴り飛ばして、カイロスは馬にまたがる。


 そして腹を蹴ると、馬を走らせた。

 馬もまた命の危機に全速力で走り出す。


「一刻も早く離れろ。もっと速く走れ!俺は、俺はこんなところで終わる人間じゃないんだ!」


 カイロスが叫ぶ。


 だが、彼が叫ばずとも、馬はすでに全速力で走っている。





 ……そして、その裏で、『取り残されたもの達』がいることも事実。


 ただ、彼らにとって一つ幸せなことが一つある。


 それは、あまりにも強い『死』に匹敵するストレスによって、既に意識を失っているということだ。


「……GUHU」


 巨人はそんな、白目で寝転がる者たちを見ると、手に持った金棒を振り上げる。


 巨人が、本来は不必要とするかのような『武器』

 その頑丈さはとんでもないものだろう。


 それを、容赦なく、彼らに向かって振り下ろした。





 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!




 再び発生する地響き。


 ギリギリ……本当にギリギリで、逃げているもの達の馬は転ぶことはなかった。


 いや、『広範囲にわたって、地面が揺れないように大規模な魔法の効果を受けている』ような雰囲気もあるのだが、それを感じ取れる余裕がある者はいない。


「ヒイイイイイイ!んなっ、ああああ……」


 後ろを向いたカイロス。


 その視線の先では、巨人が金棒を持ちあげていた。


 振り下ろされた場所だが……大きな穴になっているが、その先には『何もない』


 人の肉切れも、馬の残骸も、何もない。


 『存在していたことすら許さないような一撃』で、彼らはもう、この世からその存在の痕跡を消したのだ。


「うわあああああああああ!ああああああああああああああ!!」


 カイロスは叫ぶ。


 馬を全速力で走らせて、もう後ろを振り返ることなく、ただただ逃げる。


 巨人が一歩、踏み出した。

 また一歩、また一歩と踏み出していく。


 それだけで、ズンッ!ズンッ!と地面が揺れる。


「し、死にたくない。死にたくない!」


 カイロスは叫ぶ。


 そして、その後ろで、『巨人が棍棒を振り上げたこと』を感じ取ってしまった。


「ヒイッ!」


 声にならない声が漏れるカイロス。




















「……ここまで来て、生きることをあきらめなかった。評価を大幅に上げる必要があるな」


 カイロスの耳に、そんな声が届いた。


「……えっ」


 カイロスは声を漏らし……空中から温度を感じて、空を見上げる。


 そこにいたのは、『翼を生やした竜刀』を構えたフェルノと、巨大な五つの魔法陣から出現する、『五つの火山の噴火口』だった。


「『ファイブ・ボルケーノ・イラプション・バースト』!」


 空高く掲げていた左手を振り下ろすフェルノ。


 次の瞬間、五つの噴火口からマグマがあふれ出して、巨人に向かって放たれる!


 それに対して、巨人は楽しそうに微笑んだ。

 金棒を盾にして、マグマを受け止める。


 だが、フェルノのマグマは相当な圧力と粘性を持つ。

 しかも、長時間続く噴火に、巨人の足が、一歩、後ろに下がった。


「なっ……馬鹿な……」


 一歩だけ後ろに下がった巨人を見て驚愕するカイロス。


 ただただ蹂躙され、自分の命が矮小なものなのだということを理解させられた、巨人。

 その巨人の歩みを止め、そして押し戻すほどの少年を見て……








 ……その少年に、自分が何を要求したのかを、理解したのだ。


「あ……ああ……」


 カイロスの精神は限界だ。


 この場に、『彼が、自分の精神を保つために、認められる真実が存在しない』のだから。


 確かにフェルノは、カイロスから見ても、『無能ではない』と判断できる立ち姿である。

 それは最初から感じていた。


 だが、まさに化け物としか、怪物としか言いようのない巨人を前に、『戦う』ことができるほどの男だと、どう判断しろというのだろうか。

 無能と判断した弟に従っていた程度の男だと思っていたのに、どうやってそんなものを見破れというのだろうか。


 それに比べれば、どんな与太話だって信じられるだろう。


 ……とはいえ、この場で彼の頭の中で起こる様々な思考の渦を解説したところで意味はない。



 唯一、言えることがあるとすれば。

 権力や財力、暴力や人脈といった、様々な『力』の中で……







 『絶対的なものが地位である』という『神話』が崩れた。といったところだろう。

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