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団長が来た!最高にセッティングされた応接室でおもてなししてやるぜ!

 オルレイドは油断した。


 彼だっていろいろ皮算用をするわけだが、まさか、ここまで早く『大勢で潜る作戦を立てて、それを実行する』ということなど考えなかったのだ。


 Sランク昇格後、二日目にして行われた周回作戦。

 秘密裏に勧められていた計画を察知することができず、フェルノへの接触が遅れたのだ。


 ちなみに、一刻も早く行くべきだろ。という突っ込みが入りそうで、そして大変その通りなのだが、シーロカ騎士団団長であり、侯爵家の人間であるオルレイドは、いろいろなものが届くのだ。


 中には食材もあり、鮮度を保つのが困難なものや、賞味期限が切れるのが早いスイーツなど様々であり、それらを食べるのに時間を使っていたのである。

 加えて、貴族関係の紹介から『娼婦』が送られてきたりして、そちらを味わっていたり……言い換えれば『目先の快楽』にとらわれていたのである。


「フンッ!まあいい。平民どもでここまでの利益を出せることがわかったのだ。これからはあの小僧を軸に作戦を立てて、一生こき使ってやればいい」


 冒険者ギルドに訪れるオルレイド。


 その急な登場に中にいた冒険者が驚いているが、それよりも前に、オルレイドはクエストボードのそばで確認していたトーラスをみつけた。


 嗜虐的な笑みを浮かべて、オルレイドはトーラスのほうに向かって歩いていく。


「おい!あの小僧はどこだ!」

「あの小僧、とは?」

「地属性使いで刀を持ったあの小僧だ!あいつはどこにいる!」


 一方的な『声の圧』だが、本質的にはまだ特定の誰かの場所を聞いているだけだ。


 まあ、それにしたってものを聞く態度ではない。


 しかし、トーラスは『話が早く済みそうだ』と好意的にとらえて、案内することにした。


「Sランク冒険者ですからね。ギルドマスターの中では私が担当することになりまして、奥の応接室に待たせてるんですよ」

「なら案内しろ!アイツは私の物だ!」


 唾を飛ばして叫び散らすオルレイド。


 イライラするが、ここはまだ耐える。


 ざまぁのために!プギャーのために!


「案内しますよ。こちらにどうぞ」


 そういって、トーラスは先導する。

 オルレイドは笑みを深くしてついていった。


 奥の部屋……『防音応接室』と書かれている扉をノックを三回する。


「トーラスさんだな。鍵は開いてるよ」


 中からフェルノが返事をした。

 三回ノックは『連れてきた』の合図。

 中でフェルノも楽しそうな笑みを浮かべていることだろう。


 ドアを開けて、上座に座るフェルノを確認。


「おおっ!やっと見つけたぞ!」


 オルレイドが興奮した様子でソファに座る。

 それを見て、トーラスはフェルノの隣に座った。

 だが、興奮しているオルレイドには、トーラスは眼中にないようだ。


「フェルノ。貴様をシーロカ騎士団に復帰させてやろうではないか。もちろん、貴様の仲間三人も一緒に入ることを許可しよう。Sランク冒険者になったのだ。パーティーなどという小さい単位ではなく、私が団長を務める騎士団でその力を発揮するべき!さあ、私とともにこい!」


 自分に酔った様子で宣言するオルレイド。


 それに対して、フェルノはにんまりと楽しそうな笑みを浮かべる。


「嫌ですね!」

「えっ……なっ……なんだと?」


 断られるという可能性を『本当に』考えていなかった様子のオルレイド。


 フェルノからの返答で、頭の中の妄想がポーン!とはじけた。


「な、なにを言っているんだ!栄光ある騎士団だぞ!なぜ!?」

「決まってんじゃん。俺がお前のことが嫌いだからだよ」

「!?」


 簡単なことだ。

 報酬も栄誉も、地位も環境も関係ない。


 ただ、こいつの下につくのが嫌だから。


 シンプルで、『人の頼みを断るのには十分な理由』である。

 本当に有事の際で、フェルノ側に妥協しなければならない材料があるのなら話は別だ。


 そんな時に癇癪を起こして嫌だ嫌だと叫べるほど、羞恥心は欠如していない。


 しかし、今回は違う。

 あくまでも、オルレイドが団長となる騎士団が、今以上の稼ぎを出すためにフェルノを雇おうとしている。


 完全にオルレイドの主観であり、オルレイドの栄誉の話であり、フェルノにメリットはないのだ。

 それに今更、騎士団を大きくする理由もないのである。


 二年前の『大戦』で騎士団は変わった。

 変わったが、組織というものは人間が一人変われば、それだけで全く別物になる。

 組織の中で大した地位についていなかったとしても、何らかの目に見えない役割を担っているからだ。


 貴族の巣窟となり、もう騎士団は変わった。

 フェルノが高評価している初代団長は、『仲間』は大事にするが、『箱』など気にしないということもある。


 だからこそ、初代団長との『約束』で残っていたのだ。

 もう『義理がない』のである。


「ふ、ふざけるなあああああああ!」


 怒声を響かせるオルレイド。

 そして、拳を握りしめると、それを机にたたきつける。

 ドンッ!!と激しい音がするが、少し表情を変えるトーラスに対して、フェルノは特に表情を変えない。


「私の言うことが聞けないというのか!ふざけるなよクソガキ!」


 アグロが不良品になった今、オルレイドに火力を用意することはできない。

 そして、オルレイドは鍛えておらず、『騎士団の団長になったから』地位を保っているが、彼本人が『火力』をたたき出すことはないのだ。


 しかし、それを上回るほどの『火力』と『機動力』がフェルノにはある。

 フェルノさえいれば、また騎士団は栄光の道をつき進める。


 もう、彼にはフェルノしか残っていないのだ。

 ……まだ、『実家』を頼れば戦力があることは確かだ。

 しかし、オルレイドが掌握する『管轄』は、騎士団以外何もない。


 同じ派閥で、『競争相手』に頼ることになるのだ。


 それだけはできない。


「私は、私は侯爵家の人間だぞ!そしてシーロカ騎士団の団長だ!私についてくればいい。お前は黙って、私の指示を聞いていればいいんだ!」


 叫ぶオルレイド。


 しかし、フェルノの表情は変わらない。


 彼はいくつか勘違いしているが、その中でも大きなものが二つある。


(ぜーんぜん怖くないんだよなぁ。今日の朝に聞いたけど、Sランク冒険者って、この国では王族レベルの影響力があるから、侯爵がどれだけ騒ごうが問題ないし)


 フェルノが内心で呟いているように、一つは、『冒険者ギルドが判定する数値基準では、Sランク冒険者の影響力はアルマテリア王国内において【王族】に匹敵するレベルである』ということ。


 侯爵家は確かに地位としては高い。が、その貴族の権威を『保証する側』である王族レベルがSランク冒険者なのだ。

 Aランクなら、言い方はアレだがまだいい。

 しかし、国家から侯爵という高い地位を与えられること以上に、Sランクには特別なものが宿る。


 要するに、フェルノはオルレイドのことが怖くない。


(まあでもよくよく考えれば、治安維持を求められる兵士と、日々モンスターを相手にする冒険者じゃぁ、役割だって大きく違うからなぁ……いざって時に兵士で勝てず、Sランク冒険者に頼れなかったら悲惨なことになるし、当然かね?)


 まあ、いろいろと事情があるということだ。

 実力はあるが公僕(国家に関わる仕事)には就きたくないという人間は一定数いるのだが、そういった人間が冒険者になっているということは多々あるのだ。


 そしてもう一つ重要な点がある。


 それは、『そんなSランクを相手にする場合の、机に拳を振り下ろす威嚇の威力について』である。


 ちらっとフェルノはトーラスを見る。

 トーラスはコクコクとうなずく。

 何らかの合図なのだろう。フェルノはうなずいた。





「ふざけたこと抜かすんじゃねえぞゴラアアア!!」





 鉄製のテーブルをたたき割りながら叫ぶフェルノ。

 バキバキバキバキッ!!!!という断末魔が響き、テーブルは使い物にならなくなる。


「ヒッ、ヒイイイィィィッ!」


 悲鳴が漏れるオルレイド。


 あれほど興奮して真っ赤になっていた顔が真っ青になり、『怒り』が『恐怖』で塗りつぶされている。


((あああああキモチイイイイイイイ!これが見たかったあああああ!))


 そして禁断症状が出ているフェルノとトーラス。


「あのねぇ。自分の立場分かってる?騎士団にいた時は地属性魔法を使いまくってたんだよ!一方的に追放しておいて今更ごちゃごちゃいいやがって。もう遅いんだよ!因果応報って言葉知らねえのかア゛ァ!」

「ヒャアアアアア!……あっ……ぐっ、くそっ!お、覚えていろ!侯爵家で、騎士団の団長である私に歯向かったことを、後悔させてやるからな!」


 そういうと、顔面真っ青のままで逃げていった。


 股間を濡らし、腰が抜けるのを必死に耐えているようなわけのわからん体勢で、這う這うの体といった雰囲気を振りまきながら去っていく。


 部屋を出ていったので、二人でひょこっと顔を出して確認。


 オルレイドはそのまま慌てたように冒険者ギルドを出ていった。


 それを見たフェルノとトーラスは、満面の笑みを浮かべてハイタッチ!


「よっしゃー!ハッハッハ!あれがやりたかったんだよおおおおおお」

「ああああきもいいいいい。これは癖になりそうだよ。あんな、傲慢と自己中心が服を着たような男が、顔面蒼白で漏らしながら逃げていくとはね!」


 廊下で散々喜ぶ二人。

 このままではマズイと思ったようで、とりあえず防音室に戻った。


「いやー。見事に『これはヤバいで!』って感じで来てくれたな。一応こっちも『余地』を残しておいたのに」

「確かに。フェルノ君の引き抜きじゃなくて、『周回作戦の枠を得るための交渉』であればこちらも乗らざるを得なかったんだが、あそこまで調子に乗っているとは!」


 二人が言う通り、今回、オルレイドには余地があった。

 オルレイドからの勧誘など、彼のことが嫌いなフェルノは当然乗るつもりなどない。

 だが、『周回作戦の枠の交渉』であれば、フェルノたちは『乗らざるを得ない』のだ。


 何故なら、シーロカ騎士団は貴族の巣窟になっているが、もともと地下大迷宮から手に入れた高品質の魔石を消費しきることができる……言い換えれば『需要がある』のはこのギフトネストだけなのだ。


 王国の外に出れば話は別だが、輸送費を考えればギフトネストに流す方が『ちゃんと儲けられる』ことに変わりはない。


 初代団長が作り上げた経済基盤でもある。

 そのため、現在は貴族の巣窟であるシーロカ騎士団だが、実は彼らが手に入れたアイテムはこのギフトネストにいきわたっていて、しっかりこの町の利益になる。


 そして、周回作戦のスローガンは、『ギフトネストの冒険者、ひいてはその関係者に対して利益のあるシステムを実行すること』である。


 言い換えれば、『騎士団の中でも高火力パーティーを編成するので、新しい枠を設けるか、既にある枠に対して交渉したい』というのであれば、火力だけは本物である騎士団が入る余地はあるのだ。


 周回で使われるのは回り道であり、近道のような鬼畜さはない。敵は正面からしか来ないし、フェルノの援護は必要ない。


 以上の状況から、『枠の交渉』であれば『乗らざるを得ない』のだ。火力だけは本物である騎士団の効果力パーティーを編成してそれを入れたいという主張を拒否することは、周回作戦のスローガンに反するのである。


「しっかし、まだ懲りてる様子はなかったな」

「特権意識というか、貴族であることを利用すれば何とかなると考えているようだね」

「まあ、喉元過ぎれば熱さを忘れるっていうし、一応『保険』はかけておくか」

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