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【団長SIDE】 兄が到来!オルレイド、実家と騎士団から追放!そして……

「くそがああああああああ!あのガキ。この私を舐めおって、絶対に許さんぞ!」


 団長室に這う這うの体で戻ってきたオルレイドだったが、そのころにはすでに熱さを忘れており、怒り狂っていた。


「だ、だが、今の状況がまずいことは確かだ。あのクソガキを使えないとなると……」


 ソワソワし始めたときだった。

 ドアがノックされる。


「オルレイド様。至急、耳に入れたいことが」

「……入れ」


 側近の声を聴いてオルレイドは中に入れることにした。

 中に入ってきた男性は、恐る恐るといった様子でオルレイドに告げる。


「オルレイド様。一応、新しく攻略を行うチームを編成したのですが……実は、『攻略にかかわる予算』の問題がありまして……」

「予算?」

「は、はい。経理部長が、実は今までずっと懐に入れていたことがわかりました」

「何!?」


 叫ぶオルレイド。


「どういうことだ!勝手なことをしおって!」

「すでに証拠を確保しましたから、あとは解雇するだけです」

「ふむ、わかった……ん?ちょっと待て、今まで、騎士団はどうやって攻略していたんだ?しっかりとアイテムを使っていたのだろう?」

「経理担当は、『予算額がマイナスだから、経理部にその金額を支払ったうえで、予算を自分で用意しろ』と、あの平民に言っていたようで……」

「なんだと!?要するに、攻略に必要な資金をすべて横領した挙句、巻き上げていたというのか!?」

「はい。経理部長の独断だそうですが……」

「ぐ、ぬうう……自分だけ得をしおって……っ!」


 唸るオルレイドだが、別に彼は横領があったことそのものはどうでもいいと思っている。


 彼はただ、『横領した金が自分の懐に入っていない』ということに腹を立てているのだ。


 裏の金は自分の金。


 汚職慣れしているオルレイドにとって、それは当然のことなのである。


「こ、これからどうするべきなのでしょうか……」

「経理部長はクビだ!そうだ。あの小僧には給料を払ってやればいい。そうすれば戻ってくるだろう」


 彼がかかわっていなかったとはいえ、給料を払っておらず金を巻き上げていたのに『給料泥棒』扱いしたことなど、記憶にないのだろう。


「……そこまで貴様が、人の雇い方を知らないとは思わなかったぞ」

「!?……いったい誰、だ……あっ、兄上!?」


 ノックもなしに扉が開けられると、男が何人かの部下を連れて入ってきた。


 先頭に立つ男は覇気と闘気溢れる体格をしており、『戦場』を経験している風格がある。


「あ、兄上、一体、どうしてここに……」

「決まっているだろう?オルレイド。貴様はこの騎士団を動かすには無能すぎると判断された」

「なっ、わ、私が無能だと!?」

「当然だ。騎士団の要となるSランク冒険者を追放し、貴様自身の評判も最悪だ。現場の経験はないが、自分の利益には(さと)いから、俺が手をまわしてこの騎士団に貴様を送り込んだのだ。だが、今の騎士団に、かつての強さはない」

「な、なんだと……いや、兄上の出番ではない!地属性魔法使いも、ドラゴンを倒すための火力も、私の人脈を使って集めれば……」

「……」


 男は憐れむような目でオルレイドを見る。


「わからんならはっきり言ってやる。我々『第二王子派』は、貴様を不要だと判断した。これは第二王子、マドラ様からの言葉でもある」

「なっ……ば、馬鹿な……」

「父上も同じ意見だ」


 男はポケットから一枚の封筒を出すと、それをオルレイドに投げ渡す。

 オルレイドは慌てたように受け取ると、封を開けて中を見る。


 そこには……。


「わ、私を……グランザーム家から追放するだと……」


 実家からの追放。その内容が記載されていた。


 これは、オルレイドに残された唯一の手段である『貴族としての地位』がなくなることを意味する。


 大した実力も戦略眼もなく、ただ傲慢な男に残された唯一の武器が、今、消え去ったのだ。


「ば、馬鹿な。こんなことが通るはずがない!」

「何を言っているんだ。第二王子派において、お前は全員の下位互換でしかない。Sランク冒険者の追放に加えて、唯一、現場で指揮を執っていたオーバーン家の小僧を追放したのだ。これから先、お前がトップの騎士団に未来はないと判断した」

「あっ、ああ……」


 オルレイドの顔面が蒼白になる。


「ククク。騎士団は私が上手く使ってやろう。一応、火力だけはある貴族の子息共が揃っているからな。ここで分解するには惜しい。私が現場で指揮を執れば、地下大迷宮など楽に攻略できる」

「こ、この騎士団は私の物だ!私が団長だ!」


 叫ぶオルレイド。


 貴族ではない。これはもう覆ることがない。


 ならばもう、『シーロカ騎士団団長』という地位に縋るしかない。


 しかし、男はフンッと鼻を鳴らした。


「もう、貴様に『期待する価値』はない。これからは、この俺、カイロス・グランザームがこの騎士団の団長を務める。おい。こいつを連れ出せ!」

「「はっ!」」


 カイロスの後ろで待機していた男たちがオルレイドに迫ると、彼の脇を抱えて連れ出し始める。


「お、おい!貴様ら放せ!私はオルレイド・グランザームだぞ!放さんか!この無礼者があああああ!」


 叫ぶオルレイド。

 だが、彼の声が届くことはない。


 彼には『地位』しかない。

 そして、その『地位』は消え去った。


 『貴族』というのは、常に、守られている。

 権力を維持するために、血筋を絶やさないために。

 守られている。保証してくれる。


 しかし、実家から追放された彼を守る者はいないし、保証する者もいない。


 ただ、それだけのことなのである。


「ククク……」


 オルレイドが叫びながら消えていくのを見て、カイロスは笑みを浮かべる。


「カイロス様。これからどうしますか?」

「ん?交渉に決まってるだろう。あのSランク冒険者……フェルノだったか?アイツを軸とする周回作戦があるらしい。その枠を取りに行くぞ。今更、あの小僧がこの騎士団に戻ってくるとは思えん。だが、奴自身が作った作戦の枠の交渉ならば、席に座らざるを得ん」

「確かにそうですね」

「枠は全て、俺が指揮する騎士団が貰う。その収益は、全て王都の第二王子派の拠点に移す。これによって、俺の発言力はさらに増すだろう」

「その通りですね」


 笑うカイロスと側近らしい男。


 彼は、オルレイドと違って『実力はある』のだろう。


 だが、その分『自分の力で手に入れられるもの』が大きい。


 オルレイド以上に傲慢であり、オルレイド以上に、野心がある。






 そしてオルレイド以上に、上には上がある。ということをわかっていない。


 ★


「クソッ!くそおおおおお!私を追放だと!私を騎士団から追い出すだと!ふざけているのか!絶対に許さんぞ!」


 薄暗い路地裏。


 オルレイドは放り出された先で悪態をつきまくっていた。


「追い出されたのによくもまあそんな元気だよなぁ」

「っ!……貴様か」


 オルレイドは振り向いた先にいるイマジナリーを見て、苦虫を嚙み潰したような顔になった。


「で、これからどうするんだ?」

「決まっているだろう。あの小僧を使い潰すのだ!」

「フェルノのことか?この前怒鳴られてビビッて小便漏らしたばっかりだろ」

「ビビってなどいないし、漏らしてなどいない!」


 イマジナリーは『全部聞こえてたんだけどな……』とつぶやいたが、とりあえず話を続けることにした。


「まあ、いいや。で、どうやっていうことを聞かせるんだ?」

「そ、それは……」


 オルレイドは言葉が詰まる。


 これまでは、騎士団の団長であることと、侯爵家の人間であることを材料に詰めかかっていたのだ。


 だが、もうこれからはそれがない。彼はもう、『平民』なのだ。


「わ、私は元とはいえ、侯爵家の人間だ!尊い血が流れている!この国に住む平民なら、私に従う義務があるのだ!」

「……」

「そう、そうだ!優秀な平民である奴には、私に従う義務がある!奴は多額の金貨を稼いでいるはずだ。元騎士団のメンバーであるアイツの稼ぎはすべて私の物!アイツが稼いだ金貨をすべて私の物にすればいい!」

「……はぁ」


 溜息をつくイマジナリー。


 正直、また机を叩き壊されて逃げ出すか、呆れられて話にならずに睨まれてビビり散らかす未来しか見えないのである。


(そんな茶番を何度も見てられるほど俺も暇じゃないんだよねぇ……)


 根拠のない闇雲な自信で突っ走るということは、人間なら誰しもあることだ。


 しかし、何も持たないタダの馬鹿が、傲慢な態度で他人に隷属を強要するなど、見ていても楽しさ以上に『イライラ』か『呆れ』が先に出てくる。


「な、なんだその溜息は!この完璧な作戦をバカにするのか!」


 叫ぶオルレイド。


(しゃーない。決めてた『最後の使い道』を実行しよう)


 イマジナリーはオルレイドをまっすぐ見据える。


「ヒァッ!」


 その目は、見るものをゾッとさせるような、『冷酷』という言葉をそのまま形にしたような、そんな目だった。


「……な、なんだその目は!」


 震えながらも叫ぶオルレイド。


「さっき、お前言ってたよな。お前の体には、貴族として生まれた尊い血が流れてるって」

「あ、ああ。そうだ!その通りだ!」

「確かに、俺もそう思ってるんだよ。アルマテリア王国の一部の貴族は、優秀なもの達の血を絶やさず取り込んでいて、とある『材料』としてとっても優れてるんだわ」

「……な、なにを言っているんだ?」


 顔が青くなるオルレイド。


 きっと……言葉の節々から見えてくる自分の未来に恐怖しているのだろう。


「つまり……文字通りの意味で、お前の体は使い道があるってことだよ。しかも、何も鍛えていないし、何も努力していない……言い換えれば、何にも染まっていない『素体そのもの』だ。まあ……」


 ハハッとイマジナリーは笑う。


「二年前のあの日からそうなるように仕向けてたのは、まぎれもない俺なんだけどな」


 イマジナリーは被っているフードの裏から、鋭いナイフを取り出す。


「ヒッ!……な、なにをするつもりだ!私を殺すつもりか!」

「その通り」

「なっ……」


 即答される『自分の死』に言葉を失うオルレイド。


 まるで『最初からそうするつもりであった』かのように、イマジナリーは淡々と語る。


「散々大笑いさせてもらったあの『報告書』……あれを読んだ時から、近々こうなるだろうなって思ってたんだが、まあ、アレだな……『自分の家の良さ』を恨んでくれ」

「や、やめっ!」


 懇願するオルレイド。


 そんなオルレイドの言葉を無視し、きらめくナイフ。


 たったそれだけの事。


 たったそれだけだが……人の命を奪うには十分。


 驚愕した表情のまま、心臓をナイフで貫かれて、絶命する。

 そんな彼を見下ろすと、イマジナリーはあくびをした。


「さてと、さっさと運んで、誰にも見つからないようにしないとな」


 呟くイマジナリーは、とても、淡々としていた。

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