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【団長SIDE】 真実とは、決して頭から離れない悪魔の名である。

 フェルノのSランク昇格試験。


 ……いや、厳密に言えば『実力を見せる』ということが重要なわけだが、体裁としてそういう事にしておいて問題はないので『試験』というが、それが終わった後、騎士団は『大変なこと』になっていた。


 圧倒的な『威力』や『火力』というものは、人々を魅了する。

 精鋭部隊が『新生』になった時、アグロが指揮したスピーチとパフォーマンスは、特に現場の人間である冒険者にとって刺激的なものになった。


 それと同じで、闘技場におけるフェルノが示した『威力』や『火力』もまた、人々を魅了した。


 たとえズルしたものであろうと、卑怯なものであるとどうでもいい。


 そもそも、アルマテリア王国の貴族が『火力』以外の才能を持ち合わせていないのだから、どれだけの出力を叩き出したのかという『結果』を、否定することはできないである。


 フェルノが試験で『結果』を示してしまった以上、それを覆すことはできないのだ。


 確かに、フェルノが持つ刀は高ランクであり、威力だけを見れば誰もが求めるものだ。

 それだけなら、刀が強かったから、と言い張ることもできただろう。


 しかし、あれから審査員が連れてきた鑑定スキル持ちに調べさせた結果、『妖刀』であることが判明し、屈服させることができなければ、『岩でできた桜の木』になってしまうということが露見したため、それを求めるものはいなくなった。


 屈服させているのがフェルノだけである以上、取り上げたところでどうしようもない。


 その刀を持つフェルノ自身が圧倒的な実力者であり、しかも、そのパーティーメンバーにシンシア、エルフィナ、アリアスという三人の美少女がいると広まったことで、話題は沸騰している。


「ぐっ、くそがああああっ、どうしてこんなことに……」


 オルレイドは団長室で唸り声を出していた。


 フェルノの圧倒的な実力を見て、刀の鑑定を終えたフェルノに接触しようとしたオルレイドだったが、その時にはすでに闘技場を後にしていたため、会うことは叶わなかった。


 そしてその足で騎士団の団長室に戻ってくることになったが、当然のように、彼には『悲惨な現状』が待っていたのである。


「私が人を見る目のないクズだと?ふざけるな!私の何が悪いというのだ!」


 持っている報告書を机にたたきつけるオルレイド。


 そこには、『無能団長オルレイド』という見出しで酷評されていた。


 なお、記事にはフェルノ本人から聞いたコメントとして『マグマ属性は騎士団を出てから使えるようになったんですよねー』と載せられている。

 まあそれが真実であろうとなかろうと、オルレイドが酷評されることに変わりはない。


 フェルノが見せた新しい属性であるマグマ属性に興味を示す者が多いのは事実である。


 しかし、闘技場そのものがギフトネストに存在したことで、一般客にはギフトネストの冒険者が多かった。


 そして、ギフトネストの冒険者……それも、地下大迷宮に挑むような冒険者からすれば、優秀な地属性魔法は需要があるが供給が足りていない、『喉から手が出るほど欲しい人材』である。


 マグマ属性で様々なものを焼き尽くしたところはもちろん派手な印象を与えた。

 だがそれ以上に、レーザー型のアグロの魔法を、一瞬で地属性魔法でジャンプ台を作って避けたことを『地属性魔法使い』達は驚いたのだ。


 地属性魔法を使うもの達の驚きは、ともに地下大迷宮に挑む仲間に伝わり、話題沸騰中のフェルノの話は酒場で広がった結果、フェルノという少年の『地属性魔法使いとしての優秀さ』が広まったのである。


 フェルノに教えを()いたいと願う地属性魔法使いが増え、『フェルノの地属性魔法を軸にして、大規模な地下大迷宮の周回作戦ができるんじゃないか』という話も持ち上がっている。


 フェルノという冒険者の価値が右肩上がりになっているのだ。


「中には、大規模作戦の(かなめ)として、一日、金貨五百枚で契約したいという声もあるだと……クソがああああ!ふざけるな!あんな平民にそんな実力が……ぐううっ」


 平民だから!


 平民だから!!


 平民だから!!!


 そう何度も考えて、フェルノ追放を正当化してきたオルレイド。


 だが、もうその逃げ道は存在しない。

 彼の目に焼き付いているのだ。

 アグロが放った太陽を、一突きで食い破ったあの一撃を!


「わ、私が悪いのではない。しっかりと主張しなかったアイツが悪いのだ!あの詐欺師め!」


 叫ぶオルレイド。


 確かに、オルレイド個人の主観で話をするならば、何も主張せずに出ていったフェルノは詐欺師だろう。

 だが……別にこの世界はオルレイドを中心にして回っているわけではない。


 侯爵家の人間であるオルレイドを考慮する人間はいるだろう。しかし、彼が悪いと思ったから、全ての人間も悪いと思うわけがない。


 もっとも、そんなことをオルレイドが理解しているかどうかを、この場で議論することに意味はないが。


「このままではマズい。派閥の中で大きな失態になってしまう……」


 オルレイドは唸る。


 彼は侯爵家の人間ではあるが、当然、貴族である以上派閥があり、彼自身は派閥の頂点ではない。


 派閥の中では『さらに上』がいるのだ。


 今までは、『火力だけ』は本物だった騎士団が、フェルノという鬼才の地属性魔法使いを連れていたことで何とか稼ぎを叩き出していたが、それは減衰傾向にある。


 シーロカ騎士団は、二年前の『大戦』で大きく変貌し、そこからは貴族の巣窟になった。


 その団長を任されたオルレイドは、侯爵家の人間であることが考慮されてそこそこ高いポストを与えられたが、『平民を追い出して稼ぎが減りました!』となってしまえば、派閥の中で『降格』も考えられる。


「チッ……」


 舌打ちした時、ドアがノックされた。


「ん?入れ」


 オルレイドが言うと、扉を開けてアグロが入ってきた。


「何か用ですか?団長」

「何か用ですか?ではないわ!無様に平民に負けおって。このままでは私の経歴に傷がつくではないか!」


 拳を机に振り下ろすオルレイド。


「このままでは平民共が鼻を高くする一方だ。この現状を打破するためには、今度こそ騎士団が百層を攻略し、貴族が平民とは格が違うことを示さなければならない!」

「……」

「一刻も速く精鋭部隊を呼び出して、攻略に向かえ!わかったか!」


 有無を言わさない。といった様子で叫ぶオルレイド。


 それに対して、アグロは首を振った。


「不可能だ」

「えっ……な、なんだと?」


 アグロ自身、相当な自信家である。

 アグロとオルレイドは派閥が違うため、オルレイドが何か言ったときでも、アグロはそれに反抗してきた。


 だが、これまでアグロは『何かが可能』ということを軸にして論を展開してきたのに、今回は『不可能』と言ったことで、オルレイドは驚いた。


「あの試験で、僕の頭の、『魔法陣を構築する回路』が焼き切れた」


 右の手のひらを上に向けて、小さな魔法陣を出現させるアグロ。

 だが、すぐに魔法陣はひび割れていき、砂のように消えていく。


「ば……馬鹿な……」


 文字通り、開いた口が塞がらないオルレイド。


 あのフェルノの試験で、アグロの火力が『本物』であることも示された。

 だからこそ、それをポスト維持のために利用しようと考えていたのだろう。


 だが、もうその手は使えない。


 厳密に言えば、火属性魔法の才能そのものが消えたわけではない。


 フェルノが魔法陣なしで高度な魔法を使いまくっているのは、純粋に彼の練度や魔法に関する理解度が高いからだ。


 魔法陣は、魔法を発動する場合に重要なプロセスのほとんどを『半技術的に自動化』するための物だ。


 そもそも魔法とは、『適量の魔力』に『特定の要素を与える』ことで発動されるものであるというのが通説である。


 昔は『口に上手く魔力を貯めて、言霊(ことだま)という形で魔法の発動プロセスを自動化する』という手段、いわゆる『詠唱』が使われていた。


 特殊な『魔力的な呼吸』が重要視されていた時代だが、詠唱というのは時間がかかるため、さらに効率的にできないかと多くの学者が協議した。


 その結果開発されたのが、体内に存在する魔力構築状態を図式化し、実際に『描く』ことで発動プロセスのほとんどを自動化する『魔法陣』という技術である。


「ま、魔法陣が使えないだと……」


 脳内でどのように魔法陣を描いているのかは、ほぼイメージである。

 しかし、大部分は『無意識』の領域で補っており、魔法陣を構成するための脳の構造がどうなているのかは解明されていない。


 だが、結果として構築した魔法陣が砂のように消えていくのは、『焼き切れた』証拠である。

 前例もいくつかあり、オルレイドもその知識は持っているのだ。


「回路の自動回復は数年かかる。そして僕は……いや、オーバーン家出身の魔法使いは、魔法陣がないと魔法の制御ができない。低い威力なら暴発の可能性は低いが……」


 半ばあきらめた顔つきで、アグロは言う。


「少なくとも、以前のような『実用的な火力』はもう出ない」


 今のアグロの状態をわかりやすく言えば、通常の数倍の勢いで水が出てくる蛇口を使うようなモノ。

 ただただ使いづらいだけだ。


 今までは水道に装置(魔法陣)を取り付けて制御していたが、その装置がなくなれば、制御不可の蛇口になる。


「ぐっ、な、なぜそんなことになるような魔法を使ったのだ!この利用価値のない不良品め!」


 罵倒するオルレイド。

 火力がなければ、当然だが地下大迷宮のドラゴンは倒せない。

 これでは、フェルノ以上の功績を叩き出すという『上書き作戦』を取れない。


「貴様をこの騎士団から追放する。火力のなくなった不良品など、貴族ではないわ!」


 宣言するオルレイド。


 アグロはそれに対して、間を置かず頷いた。


「ああ。僕は出て行くとしよう」


 言われたアグロは、それ以上は何も言わずに背を向けた。


 制御ができれば問題ないわけなので、『詠唱』を使うという手段は残されている。


 しかし、アグロのような高い火力を誇る魔法を使う場合、その詠唱も長いものになる。

 今までのアグロの戦い方が全くできないということだ。


 誰だって、『今まで使ったことのない技術』でこれまでと同じように戦うことなど不可能。

 それをわかっているからこそ、アグロは、『不良品』という言葉に反論しない。


 アグロが部屋から出ていくと、オルレイドは再び唸る。


「グッ……く、クソッ。一体どうすれば……このままでは平民共が、この小僧を軸にして大規模な周回作戦を実行してしまう」


 オルレイドは一つ、理解していることがある。


 記事に書かれている『フェルノを軸とした周回作戦』

 これが、『今まで騎士団がやってきたこと』であることを。


「今まで『貴族で独占していた方法』を利用されてしまえば、私は確実に降格だ!いや、見限られて破滅もあり得る!」


 オルレイドは頭を抱える。


 常識を心の奥底では理解し、そしてフェルノの実力を心の奥底で理解した今では、その未来が見えてしまう。


「一刻も速く、功績を叩き出すか、あの小僧を始末するしかない。だが、あの不良品は使い物にならないし、私が用意できる暗殺者では、この小僧を始末できなかった。ど、どうしてこんなことに……」


 顔面が蒼白になるオルレイド。


 認めないだけで、理解している。


 だからこそ、汗が止まらない。破滅する未来しか見えない。


「……ぐううっ。仕方がない。仕方がないが……今なら、栄光のあるシーロカ騎士団に戻す権利をやろうではないか。奴にとっては長年いた場所だ。ちょっと報酬をちらつかせてやれば、ホイホイ乗ってくるだろう」


 天啓に導かれたかのような顔つきになるオルレイド。


「他の三人も全員取り込んでしまえばいい。団長命令であの三人を私の物にすれば……そうだ!シンシアはもともと私の物だ!他の二人も、侯爵家である私の物になることを許せば食らいつく!フフフ……グフフフ……」


 涎をたらして嗜虐的(しぎゃくてき)な笑みを浮かべる。


「私は天才だ!フハハハハハ!私が自ら出向けば、奴らも本気にするだろう。ちょっと報酬をちらつかせばいいのだ。平民はそれだけで私の物になる!」


 高笑いして、輝かしい未来を確信する。














 ……その様子を窓の外から聞いていたイマジナリーは、『論理的整合性』というフレーズに尊さを感じ始めるのだった。

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