Sランク昇格試験 フェルノVSアグロ
トーラスが頑張って書類を作った結果、フェルノのSランク昇格はほぼ確定となった。
だが、本部でもいろいろと派閥があるようで、Sランク昇格のためには実力を示す必要がある。
「闘技場で行うことになったのか。トーラスさん頑張ったなぁ」
そもそもの話をすれば、冒険者同士の戦いなど、娯楽以外の何物でもない。
モンスターを倒したわけではないので何かの資源を獲得できるわけではない。
そもそものリスクとして、仮に対人で事故が起きたら、優秀な冒険者を失うことになる。
冒険者同士で争う元気があるのなら、ダンジョンにでも行け、競いたいなら、換金額で勝負しろ。
それが理想ではある。
しかし、困難でもある。
まず、ダンジョンに入ってモンスターを倒し、その換金額で判断する場合、あらかじめ手に入れておいて『審査で盛る』ことに対し、完璧な対策が不可能だからだ。
ほかにもいろいろな『監視できない部分』があるのは間違いない。
冒険者ギルド本部からすれば、競うにしても冒険者としての『優秀さ』を示す方が良い。
だが、馬鹿な人ほど個としての『強さ』に軸を置きがちである。
しかし、総合的に見て、決闘の方がわかりやすいのは事実である。
「一体だれが相手なのでしょうか」
「わからないけど、Sランク昇格試験なんだから、強い人が出てくるはずよ」
「まあ、仮にフェルノが無能であることを示したい場合、ランクが低い冒険者を呼びつけて、フェルノに対しては何らかの制限を設けてくるだろうけど……その気配がない以上、やっぱり強い人が出てくるのかな?」
大金が手に入ったので、トーラスからは屋敷のカタログを貰った。
それを眺めつつ、四人で闘技場に向かっている。
馬車を使っての移動であり、この馬車と馬は購入品だ。御者はフェルノである。
「Sランク冒険者ねぇ……そういえば、アリアスも『実質』はSランクだよな。ランクを上げようとは思わないのか?」
フェルノはアリアスに問う。
アリアスは笑みを浮かべてそれに答えた。
「私はランクに興味ないわ。いろいろ示さなければならないものが多くて面倒だし、それなら、他のことに時間を使うわよ」
「他の事……」
「例えば、こんなふうにね」
そういいつつ、アリアスはエルフィナによりかかると、そのまま腕を回して両胸を揉み始める。
「んっ……アリアス。さっきからシンシアが凄く冷たい目をしているからやめてくれないか?二人きりの時はいくらでも付き合うが……うっ」
あまり周りの目を気にしないように見えるエルフィナだが、シンシアに関しては、『自分の研究の中で、水属性を研究する際に重要』なので、あまり心象を悪くはしたくない様子。
「気にしなくてもいいわよ。いずれシンシアも堕とすから♡」
そのあたりの事情は理解しているだろうが、全く悪びれないのがアリアスだ。
「おーい、そろそろ闘技場につくからやめとけ」
馬に乗ったままのフェルノが馬車の方に振り向いてそういった。
若干、呆れが混じっていたが、注意はしても治せとは言わない以上、どうやら諦めている部分もあるようだが。
「フフッ、まあいいわ。エルフィナ。後でね」
「ああ」
エルフィナは眼鏡のブリッジを上げつつ、カタログを見続けている。
……不穏だ。
★
闘技場の参加者の扉の前で三人と別れると、フェルノは冒険者カードを見せて扉を開けて入る。
長い廊下を歩いて、控室に入った。
中ではトーラスが待っている。
「フフフ。フェルノ君。待っていたよ」
「ええ、トーラスさん。ここからが作戦の集大成ですね」
ワクワクが止まらないといった様子の二人である。
「お相手の派閥だけど、かなり自信満々だったよ。おそらく、相当な実力者を用意しているはずだ」
「大丈夫ですよ。さすがに九十五層の中ボスよりは弱いでしょ」
「ハッハッハ!確かにね。君なら作戦を任せられる。観客席には団長の姿もあった。そうだね。あまり使わない表現だが……ギャフンと言わせてやれ」
「はい!」
トーラスの声援を受けて、フェルノは控室から出る。
そして、闘技場の会場の扉の前に立った。
「お待ちしておりました。フェルノ様。時間丁度ですね。どうぞ。お入りください」
「はい」
扉の前ではスーツを着た男が待っていたので、軽く挨拶をして会場に入る。
扉を潜ると、とても広い円形の空間と、青空が広がった。
「ほー……思ったよりいい眺めだな。観客もそれ相応に多いし、派手にやればやる分だけいい感じになりそうだ」
良い笑みを浮かべつつ、指定位置に立った。
すると、拡声のマジックアイテムを使った司会の男性の声が響いた。
『指定時間になりました。Cランク冒険者、フェルノの、Sランク昇格試験を始めます。それでは、試験の相手にも入っていただきましょう』
反対側の扉が開いた。
「……おっ」
フェルノは少し驚いたが、楽しそうな笑みを浮かべる。
反対側の扉から入ってきたのは、精鋭部隊隊長のアグロだった。
「まさかお前と戦うことになるとはなぁ……どういう風の吹き回しだ?」
「まず、Sランク冒険者は、来てというだけで来るような連中ではない。だからこそ、暫定として誰が呼ばれるのかがある程度決まっている」
「なるほど、で、その『暫定』がアグロってことね」
フェルノの言い分にアグロは黙った。
『オーバーン伯爵家嫡男、アグロ・オーバーンです。二年前の大戦で活躍した英雄の一人。Sランク冒険者を測るには、この上ない相手となるでしょう』
司会の言葉に高揚感はない。
だが、闘技場全体で、ふつふつと、何かが沸き上がっていく。
『どちらかが降参するか。戦闘続行不能と宣言するまでになります。両者、構えてください』
司会の声を聞いて、フェルノは刀を抜いて、アグロは杖を構える。
「始め!」
次の瞬間、アグロの頭上に、百を超えるほどの小さな魔法陣が出現した。
「あれ、お前ってそういう感じだったっけ?」
フェルノに焦りはない。
だが、その顔には疑問が浮かんでいる。
圧倒的な火力を持つ固定砲台。それがフェルノから見たアグロの評価であり、『一撃』に集中するのが彼のやり方である。
そのため、大きな火球か何かが飛んでくると思っていたのだ。
「まあ、別に、対応できないわけじゃないぞ」
「なら、やってみろ!」
アグロが杖を振る。
魔法陣から小さな火の槍が出現し、次々とフェルノに迫る。
それに対して、フェルノは妖刀を振って、魔力を斬撃の形にして飛ばした。
そして突撃。
それだけで、フェルノに着弾する槍は全てなくなり、フェルノの突撃を遮るものはなくなった。
「上手いな……だが、これならどうだ!」
アグロは杖を振って、三つの大きな魔法陣を出現させる。
タイミングをずらしつつ、高速で放ってきた。
フェルノは地属性魔法で踏み台を作ると跳び乗り、そのまま高くジャンプする。
『発動時の場所を狙った火球』はフェルノと素通りして、そのまま後ろの壁まで飛んでいって爆発した。
「うおっ、射程と火力はなかなかだな」
「ちょこまかと……」
「動けるに決まってるだろ。普段四十キロ背負ってたんだぞ」
「ごちゃごちゃうるさい!」
「事実です!」
アグロが空から百を超える火の弾丸が出現。
魔法陣の角度が一々変わっているので、しっかり照準を合わせているのだろう。
火球が降り注ぐが、フェルノは妖刀を振って切り落とす!
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!
「ハッハッハッハッハ!楽しいねぇ!」
実力がある魔法使いからの弾幕パーティー。
なかなか楽しいもので、次々と火の弾丸を破壊していく。
「ぐっ……それならこれだ!」
アグロは上空に巨大な魔法陣を出現させる。
「『フレイム・ストリーム』!」
圧倒的な直径と威力がありそうなレーザーが出現した。
だが……密度は甘い!
「あまいぜアグロ!」
フェルノは左手を前に出した。
その手から、マグマが漏れ始める!
「『イラプション・バースト』!」
火山の噴火がフェルノの左手から放出される。
密度が薄い火柱と、密度と粘性が抜群のマグマの噴火!
比べるまでもない。
火柱を焼き尽くして、魔法陣ごと焼き尽くす!
「な……あれほどの魔法を魔法陣なしで……というか、一体あれはなんだ!?」
「俺の新たな属性、『マグマ属性』だ!小さな火なんざ、全く通じないから覚悟しやがれ!」
妖刀にマグマを流し込むフェルノ。
溝に流れて、刃がグツグツと煮えたぎっていく。
「行くぜアグロ!」
「チッ……」
ばらまくように、魔法陣が何十個と出現する。
しかも、一個一個が大型の魔法陣だ。
……だが、もうすでに、それでどうにかなる段階は超えている!
「もっと火力上げろや!」
フェルノはさらにマグマを妖刀に流し込む。
そして、妖刀の刀身を超える『マグマの刃』を生み出した。
迫りくる火属性魔法を全て、延長されたマグマの刃で焼き尽くしていく!
「チイッ!クソがああああっ!」
空に杖を掲げるアグロ。
すると、多数の大型の魔法陣がいくつも出現し、そしてそれらが集まっていく!
やがて、一つの巨大な魔法陣になった。
「これが、僕の今の最強の魔法だ。『ライジング・ストライク』!」
そこから、メラメラと輝くような球体が『落ちてくる』!
急激に周囲の気温が上昇して、フェルノの体からも汗が流れてきた。
「面白いことしてくれるねぇ。なら、俺もそれに乗ろうか!」
フェルノは楽しそうに笑うと、懐からとある『アクセサリー』を取り出した。
竜の鱗のようなものに紐が括り付けられており、それをためらいなく、妖刀の鍔に巻き付ける。
「な、なんだそれは……」
「こいつは『竜王の鍔飾』……九十五層の中ボスを討伐して手に入れた強化アイテムだ」
一気に魔力を流し込むフェルノ。
すると、鍔飾が光り輝き、竜の頭のようなものに変わった。
まるで口を開けた竜から刃が延びているかのような、そんな印象を与える刀になる。
「妖刀改め……『竜刀・岩桜刃』ってところか。行くぜ!」
フェルノは竜刀を引き絞る様に構える。
「竜刀術・我竜・岩礁顎!」
天に向かって放たれた突き。
そこから、マグマで出来た竜の頭が出現し、火属性魔法……いや、太陽に向かって飛んでいく。
大きく口を開けて太陽をかじると、そのまま、口に当たっていた部分を食いちぎった。
「何!?」
次の瞬間、太陽の形が崩れる。
顎はまるで吸い込むように直進!
太陽の全てを飲み込み、そのまま天に消えて……
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!
天で大爆発を起こして、そのまま消えていった。
「ふう、良い花火だ……で、まだやるか?」
ニヤニヤといい笑みを浮かべるフェルノ。
アグロは信じられないものを見るかのような目で空を見上げていたが、数秒後、フェルノを正面から見る。
「……あの太陽の攻略は、竜刀である必要はあったのか?」
「ん?……フフッ、どっちだと思う?」
アグロからの問いに対してはぐらかすフェルノ。
だが、もうそれは、答えを言っているようなものだろう。
演出だよ。
そう、言葉の外で言われているようだ。
それを聞いたアグロは、一度、杖の先端を光らせる。
すると、小さな魔法陣が出てきたが、すぐに、ピキピキとひび割れて、砂のように消えていった。
それを確認すると、アグロは目を閉じて背を向ける。
「……降参しよう。もうこれ以上、惨めな思いはこりごりだ」
「そうかい」
どうやら……彼の『自己正当性』は、フェルノが期待するほど高くなかったようだ。
あるいは、ここでフェルノに負けたからと言って、喚き散らさないだけの羞恥心は持っているのか……。
(まあいっか!アグロが降参したんだから、Sランクにはなれるだろ。それに……メインディッシュが残ってるからな!今のうちにいい酒を買っておかないと!)
ウッキウキのフェルノであった。




