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奴隷売買現場を発見する。

 『魔力相反構造説』と呼ばれる説がある。

 魔力が『何も持っていない物質』であると定義し、とある属性が与えられる場合、その項目に対して相反する性質を持つ属性に変わることができる。という説だ。

 例えば、『火』『風』『水』『土』といった『四元素』の関係だ。

 厳密には風の部分には『空気』が入るのだが、風のほうが並べたときに雰囲気がいいので王立学校の教科書でもこうなっているらしい。


 乾いているか、湿っているか。

 温度が高いか、低いか。

 これらの項目に関する状態を与えて、魔力は『属性』を持つとされている。

 その派生研究として、『光』属性の研究を行った結果、『闇』が発見されたというケースもある。

 


 これらの属性の練度を高めていくと、使う属性が変質する。この『変質』を、学者によっては『視点が変わる』と呼ぶ場合もある。

 火は『熱』、水は『氷』、風は『雷』、土は『岩』など。

 変質は一通りではない。

 フェルノのように、『土』から『地』に変わる場合がある。

 変質しない場合もあるのだが、追及していけば強くなることに変わりはない。

 通説として、一つ目に変質した属性は元に戻らないことと、二つ目に相反する要素の信号を与える才能を同時に持っているものは極稀であることが挙げられている。


(どういうことだ?冷えていて、乾いている『土属性』の派生である『地属性』が、熱を帯びることはないはずなんだが……)


 とりあえず竜人を倒し、魔石を獲得したフェルノ。


 その後、一階層をウロウロしていた。

 魔石は町で使用されるさまざまなマジックアイテムに使われる。

 これによって、光や水、火などを確保できるのだ。

 要するに『安定して需要がある』ため、価格が下がることはない。

 ダンジョンに潜ったときの主な『稼ぎ』はこれになる。


 そのフェルノの左手には、グツグツと煮えたぎるマグマの球体が浮かんでいる。

 今はフェルノが制御しているのでその状態でとどまっているが、制御を解けば地面に落ちていくだろう。


(俺の属性が『溶岩』に変質したわけじゃなさそうなんだよなぁ……)


 数メートル先の地面で、脆く作っている土の部分を突き破る『奇襲』を企てている生物を感知。

 地属性魔法で脆い地面を強固に作り変えて、奇襲を防ぐ。


(……俺の属性は地属性のまま。なのに、なんで溶岩なんてものが……俺、高い温度に対する魔法の才能はないはずなんだが……)


 足元から硬い地面に頭をぶつけたような悲鳴が聞こえてきたが、スルーしてサクサク進んでいくフェルノ。

 彼が言っているのは『二重属性所持者』のことだ。

 文字通り、二つ以上の属性の制御を同時に行使できる才能であり、相反する属性であっても同時に使えるのだ。


「うーん……よくわからんな。頭で考えてわかることじゃないし、ノルマをこなしたら図書館にでも行こう。はぁ、冒険者ランク上げたいなぁ。ランクを上げないとまともな報酬がないし、ダンジョンの深層に挑む権利もないからなぁ……」


 つぶやくフェルノ。

 今までは騎士団の雑用係として行動していたため深層にもぐっていたが、フェルノ個人としては冒険者としては最底辺である『Fランク冒険者』である。

 厳密にいえば、本来適していない難易度の階層に踏み込むことは禁止されていない。

 というより、ダンジョン内部は危険が多いので関所など作れない。

 だが、推奨されているわけではないので、事務員からいい顔をされないのだ。

 良い顔はされないが……繰り返しやっていくと飛び級で上げてくれる。


「……しかたない。中層の空を飛ぶドラゴンもこのマグマで倒せると思うけど、あまり深くまで潜ると帰るのに時間がかかるからな。今日は表層をダラダラ回って帰ろうか」


 宿に泊まれない可能性が出てくる。

 直近の月給額がマイナスだったフェルノは内職で貯めた金で払ったが、精鋭組の支援のために時間がかなり必要だったので貯金は多くない。

 職員が多く配置されている高級宿なら夜遅くからでもチェックインできるかもしれないが、そもそも金がないのである。


 追放された時間がそこそこ遅い時間だったし、表層で狩った分を換金して安宿に泊まるのが賢明である。


「普段通らない道でモンスターを見つけるか」


 地図を取り出して、現在地……下の階にすぐに向かう『近道』の一点を指出して自分の位置を確認した後、『回り道』……いや、そもそも下の階層につながる道がない『行き止まり』に目を向ける。


「行ってみますか」


 ★


 『竜王の神殿・地下大迷宮』の道は、表層・中層・深層問わず、三種類。

 環境がきついが下の階層にすぐに行ける『近道』。奇襲は少なからずあるが罠がほぼない『回り道』。モンスターとの戦闘すらほぼないが下にたどり着けない『行き止まり』である。


 基本的に冒険者は『回り道』を使っている……というより、近道の鬼畜さが高いから消去法でそうしているだけだ。

 まあ、それは今回は置いておく。


 『行き止まり』だが、たまに宝箱が置かれているときがある。

 一定の周期で中身が復活するタイプで、それに関する利権調節のため、『宝箱会議』のようなものすら存在するほどだ。


 しかし、そんな宝箱すらない行き止まりもダンジョンの中には存在する。


「うわー……人の気配が皆無だな」


 フェルノはつぶやきながら進んでいく。

 宝箱も何かを採取できるスポットもない。

 正直、そんなところを利用するものなどほとんどいないだろう。

 それはわかっていたが、本当に誰もいないとは……。


「まあいいや。同業者がいないほうが出てくるモンスターは多いし。ただ、中層に行ける連中にとって、表層の行き止まりなんて小遣い稼ぎにもならないっていうのが……愚痴っても仕方ないか」


 実力があっても時間がなければどうにもならない。

 今日はダンジョンに潜る時間そのものが遅かったのだし、明日からどうにかすればいいだけのことだ。


「……ん?部屋から明かりが……」


 ダンジョンは基本的に通路のようになっているが、時々『部屋』が存在する。

 モンスターが潜んでいたり、宝箱があったりと様々だ。

 ただし、今フェルノが進んでいる道は宝箱が発見されていない。

 誰かがモンスターと戦っているのだろうか。


「……いったい誰が……っ!」


 中を覗き込もうとしたフェルノだったが、跳ねるように一瞬で退いて壁に背をあてる。


 部屋の中の物を見て、『やばいところだ』と理解したのだ。


 明らかに持ち込んだものであろうテーブルと椅子。

 黒装束と顔を隠した男と、手枷と足枷がはめられた虚ろな瞳の少女。

 その男の反対側には、小太りのあくどい笑みを浮かべた男性が一人いて、その男の後ろにも、『暗部』と言えそうな男が二人いた。

 男が触れるたびにジャラジャラと音がするので、おそらく貨幣が入っているのだろう。


「グフフッ。さすが、『(ぎん)揺籃(ようらん)』。人攫いの仕事も完璧ですね」

「っ!」


 その名前を聞いて、フェルノは驚いた。

 『銀の揺籃』

 アルマテリア王国の裏で犯罪を積み重ねている秘密結社である。

 『捕まればもう二度と希望はない』とまで称されるほどの犯罪の実力を持っており、王宮では、この組織に対抗する専門の部署が存在するほど。

 言い換えれば『国が力を入れて対応に取り組む』ほどの、『個人ではどうにもならない相手』ということになる。

 

「……これくらいは当然だ。それより、金貨八百枚。きっちり用意してきたんだろうな」

「ええ、用意してきましたよ」


 小太りの男は自分のそばに置いていた袋を黒装束の男に渡す。

 男は懐から虫眼鏡のようなものを取り出して、袋を見る。


「……確かに、金貨八百枚だな」

「では、そちらの少女をもらいますよ?」

「ああ。好きにするといい……んっ?……おいっ!そこにいるのは誰だ!!」


 外から中の様子を聞いていたフェルノだったが、部屋から廊下に『手で投げれる程度の丸い物体』が出て生きたのを見て驚く。


「やべっ!」


 一瞬で地属性魔法を構築すると、壁を作る。

 次の瞬間、丸い物体が爆発した!


 至近距離から鼓膜を突き破るような轟音が響いて、地属性の壁を破壊したが、それ以上の被害はフェルノにはない。

 爆発が収まると同時に、フェルノは臨戦態勢に入る。

 腰から刀を引き抜くと、黒装束の男が来てナイフをフェルノの首筋を狙っていた。

 フェルノはナイフを刀ではじいて、そのまま構える。


「ほう、今のを防ぐか……爆弾の対応といい、なかなかの反射神経だな」

「そりゃどうも。騎士団仕込みでね」

「騎士団?……まあいいや。『遭遇確率が最も低い』と上が判断したこの場所に来たのが運の尽き。死んでもらうぞ」

「!」


 男が突撃してくる。

 フェルノは次の瞬間、地面から槍のようなものを出して男に攻撃する。

 男はそれを難なく回避して、ナイフを突き立ててくる。

 フェルノはそれを回避して刀を振った。


 男をとらえたと思ったら、すぐに消える。


(残像!?)


 左右と後ろに地属性で壁を作る。

 次の瞬間、後ろからわずかな足音が聞こえた。

 ……と同時に、自分の真上に『あの爆弾』が飛んできた。


「うわっ!」


 地属性魔法で地面を高速で押し上げて、ついでに地面の摩擦力を上げて、その場を離れる。

 次の瞬間に爆発したが、勢いに逆らわず飛ばされたうえで、受け身をとってすぐに起き上がる。


 そして起き上がってきたフェルノの胸にナイフを突き立ててきたので、それを刀で弾いた。


「俺のナイフを何度も止めるか……反射神経もそうだが、思ったより頭が回る」

「全部後手になってるな……頭がイッているか執念深いにも程があるぞ……」


 汗が流れるフェルノ。

 男の技術力……というより、『防がれても次に攻撃する技術』が高すぎる。

 絶対に一撃では終わらないうえに、『相手の防御の特性』を見極めるのも早い。


「しかし、このままでは埒が明かんな」

「!」


 次の瞬間、男の気配が極端に薄くなった。

 気配を消すスキルか魔法。だが、正面にいても薄れていくほどの魔法など、聞いたことが……。


「チッ……」


 だが、フェルノは落ち着く。

 ここで自棄になったらその瞬間急所をブスリだ。


「……」


 神経を張り巡らせる。


 そして……。


「……そこだっ!」


 適当に刀を振る。

 当然のように空を切る刀だが、それは囮。

 これが本命とでもいうかのように、左手を伸ばす。


 フェルノの左手は、男の胸倉をつかんだ。


「なっ!?」


 驚いている男の隙。

 それを使って、フェルノはさらに踏み込む。

 男の体が一瞬浮いたのを感じつつ、地面にたたきつけた。


「がっ!」


 男の背中全体に走る激痛。

 しかし、男はそれに耐えながらも、右手のナイフで急所を狙……おうとして、動かないことに気が付いた。

 地面から伸びた岩のベルトのようなものが、手首を封じていたのである。

 そして、『この右手をどうにかしなければ』と一瞬考えた男の思考の間を縫うように、ベルトをいくつも使って男を地面に縫い付ける。


「ぐっ、しまっ……」

「気配を消せても、動けないなら意味ねえだろ……あっ」


 男を放置して走り出すフェルノ。

 そこでは、小太りの男がのんきに紅茶を飲んでいた。

 どうやら先ほどの男に任せておけば問題ないと考えたらしい。


「っ!……お、お前、あの男はどうした!」

「そこで寝てるよ」

「ぐっ……お、お前たち、やってしまえ!」


 男が暗部の男二人に命じた。

 すると、男たちは腰から剣を抜いてフェルノに突撃する。

 だが、先ほどの男ほどの練度はなく、剣を回避しつつ、首筋に峰打ちを叩き込む。

 フェルノはそのままダウンさせて地属性のベルトで縫い付けると、そのまま小太りの男に接近し、額に切っ先をあてる。


「ま、待てっ!か、金ならやる、貴様を用心棒として、一か月金貨三十枚で雇ってやろう。そ、それで手を打たないか?」

「金で小悪党に魂売るほど、世の中に絶望してねえよ」


 椅子ごと男を蹴飛ばすフェルノ。

 そのまま、地面に土属性で縫い付けた。


「ふう……っ!」


 刀を振り上げる。

 そこに、先ほど地面に縫い付けたはずの黒装束の男が剣を振り下ろしてきていた。

 刀で受け止めたが……フェルノの刀の刃が粉々になる。


(腕力エグイっ!剣も相当な業物だな……本命の武器はこっちか!)


 驚くフェルノ。

 しかし、目にはまだ冷静さが保っている。


「その目、まだ何か手札があるな。しゃーねえ。ここは撤退するか」

「おっ!おいっ!何を言っている!こいつを殺せ!」

「んな面倒なこと誰がするかよ。ほれ、プレゼントだ!」


 男がフードの裏から爆弾……しかも、先ほどよりも大きいものを宙に放り投げる。


「マズッ!……」


 フェルノは手枷と足枷がはめられた少女のそばに飛び込むと、爆弾がある方向に、『マグマの壁』を一瞬で生み出す。


 次の瞬間、爆弾は爆発。

 鼓膜が吹っ飛ぶかのような轟音とともに、壁で防いでいなかった領域が木っ端みじんに破壊される。


「ギャアアアアアアアア!」


 小太りの男の断末魔が聞こえてきたが、フェルノはもうそんなことを気にする余裕はなかった。


 ★


「痛っ……はぁ、はぁ……あー。こりゃひでぇ……」


 部屋の中は散々なことになっていた。

 持ってきていたであろう机と椅子は塵となったのかと思うほど欠片も見えなくなっており、小太りの男と暗部の二人の男はそもそも死体すら残っていない。

 見事に、フェルノが防いだ場所以外が完全に爆破されていた。


「……この破壊力だと、地面で壁を作って守ってたら今頃俺も死体すら残ってないな」


 とっさの判断でマグマを出したが、正解だったようだ。


「もしもマグマをいつでも出せるくらい訓練してたら、きっと戦意喪失くらいまで追い込めただろうけど……まあ、ないものねだりしても仕方ないか」


 男が言っていた通り、反射神経はかなりのものだ。

 それは地属性魔法も同様。

 しかし、手に入れたばかりの『マグマ』属性は練度が足りない。


「えーと……主人が決まってない奴隷の首輪だな。これなら……」


 少女の所に行って、首輪に触れる。

 もしもすでに、この首輪と連動する契約書に名前が書かれていたら、外すのは困難だっただろう。


(契約書にサインを入れてから首輪をつけることも可能だが、どうやら交渉の都合上でそうはならなかったらしい。不幸中の幸いってところか)


 フェルノは首輪を外す。

 すると、虚ろだった少女の瞳に光が戻った。


「あ……ありがとうございます」

「ああ。どういたしまして」


 目に涙を浮かべて礼を言う少女に、戦闘直後でアドレナリン出まくりのフェルノは冷静に返しつつ、手枷と足枷を外していった。

作品を読んで、『面白い』『続きが気になる』と思った方は、評価・ブックマークをお願いします!モチベーションがめっちゃ上がります!


また、タイトルに関して『氷獄って何?』『竜王の要素ねえじゃん』と思った方。これから主人公はまだまだ強くなっていきますので、その道中に判明します!期待できると思った方はぜひ、最高評価をお願いします!

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