91話 会食
エルさんとの稽古を終えてから、雑務をこなしていた。
雑務と言ってもガナドールを終えた翌日であるので体を休めるのも兼ねた仕事である。
そこへルーリがやってきた。
「ねぇ、ユウ。今夜ムサシって本物の勇者と会うんでしょ?私はどうしたらいい?」
「そうだなぁ。俺はベイダーとして会うんだけどルーリは留守ってことにしてあるから会わなくていいよ」
なんといっても相手は本物の勇者で召喚者でもある。どんな経緯で召喚されてどんな神様に会ったのかすら分からない。間違ってもダン神様ってことはないだろうし。
「よかったぁ。来いって言われたらどうしようってドキドキしちゃったよ」
「そんな場所にルーリを連れて行っても、しどろもどろになるのが目に見えて分かるからな」
「今回ばかりは言い返せないわ」
「まあ、俺も飯食って少し話するだけだからな」
「ね、ねぇユウ。仮面しながらご飯食べるの?」
はっ!そうだった!ベイダーの時は仮面を付けているんだった!
しかも丁寧に鼻と口を隠すデザイン、顔の下半分が隠れている。このままでは食事はおろか、ようやく飲み物を飲めるだけだろう。
以前リベルの町に入る際に使った眼と鼻を隠す仮面を用意した。変化を使ってもいいが相手は勇者だ。もし見破られでもしたら面倒なことになる。
仮面舞踏会のような仮面ではあるが認識阻害などを付与してあるので素顔まではバレる事はないだろう。
あぶないあぶない。事前に気が付いてよかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お邪魔します」
ムサシがホテルの従業員に連れられて部屋にやってきた。
「やあ、ようこそ。そちらの席へどうぞ」
そう促され席に着くムサシ。
「飲み物は何にしますか?」
「それでは日本酒を」
給仕のエルフに日本酒を持ってきてもらう。早速グラスに注ぎ、そのまま「乾杯」と掲げる。
「今日は仮面が違うのですね?」
「ええ、あのままだと食事ができませんからね」
「そう言えばそうですね」
ベイダーの名付けやこの町の事など、他愛のない話をしながら食事を済ます。
ムサシも程よくお酒を飲んで、ホロ酔い気分で口が滑らかになってきた。
「しかしベイダーさんの剣術は私が元いた世界のモノによく似ています」
それはそうだろうな。俺の剣も地球で習ったものだしさ。
「そうですか。私は師匠に教わったものを自分流に昇華させたものなんです」
「なるほど。素晴らしいことです。ぜひご教示願いたいものです」
お互い上辺の話ばかりでは仕方ないので切り込んでみる。
「ところで対戦中に言っていた"勇者"についてお聞きしても?」
「ええ。構いませんよ」
酒を飲んでるとは言え簡単に頷いたな。
「私の弟子は"神様に召喚された"と言っておりましたがムサシさんも同じように?」
「ええ。私も元の世界で死んだ直後に神様と思わしき人に召喚され、この世界に来ました」
「やはり神は存在するのですね。どのようなお姿でしたか?」
「後光のような光が強くてお顔は見えませんでしたが女性の声でした」
女性!
これでダン神様とは別の神という事がはっきりした。
「女性でしたか。女神様という事か……」
俺の独り言にコクリと頷くムサシ。日本酒をグイッと呑んだ。
「それで女神様はムサシさんにこの世界で何かをしろとか言われたのですか?」
「弟子の人はなんて言ってましたか?」
「あいつは"何も言われなかった"と言っているが、本当かどうかは俺も分からない」
俺が目的をムサシに聞いたら「偽勇者」と疑っている弟子の事も聞かれるだろうと用意していた回答を答える。
俺の答えを聞き、少しムサシが考え込む。
「私は"好きに生きろ"と言われました。それでこの10年、剣の修業をしていました」
「この世界に来て10年という事ですか?」
「ええ。自分では極めたつもりでこの1年程は剣をサボってしまいましたが、貴方にはまだまだ及びませんでした」
なるほど。女神から目標らしきものは与えられていないと。それで剣に生きてきたが強くなったおかげで目指すものがなくなってしまったんだな。
その点俺達は「一兆DP」という果てしない目標を与えられてしまって日々試行錯誤している。やはり目標ってのは大事だ。
「あなたはまだ強くなれるでしょう?」
「そうでしょうか?Lvが120を越えたあたりからどうも伸び悩んでおりまして……」
なんだって……? Lv120?
「今Lv120と言いましたか?」
「?? はい、Lv120です」
「この世界のLv上限は100のはず。現にステータスにも100とある。それなのにあなたは何故120なのでしょうか?」
そう、俺のステータスにも74/100となっている。何かスキルでもあるのだろうか?
「えっと……。4年ほど前にLv上限の100になった時に女神様が現れ『世界樹の木の実を食べればLv上限が10伸びる』と言われたのです。それでエルフの国へ行きその木の実を4つほど分けてもらいました」
「エルフの国というと『マキナ』ですね? その木の実は全員に効果があるのですか?」
「はい、そのマキナです。効果は残念ながら召喚者のみと言われました」
召喚者のみか! 一応俺もエルさんも召喚者に入るよな?
これは早くエルさんに知らせてやらないとな!
「召喚者のみですか……。残念ですなぁ」
内心は残念などと思っていないが、一応残念そうな顔とセリフをしておいた。
「しかしLv120とは驚きです。一体どのような方法でそこまで上げたのですか?」
「えっとダンジョンがメインですね」
「ではやはり探索者として活動をしていたのですか?」
Lv120なら3人のSランクの最後の一人はムサシだろうと聞いてみた。
「一応登録はしていますが、ランクに興味がなかったので身分証明のためだけにCランクで止まっています」
違った! 絶対ムサシだと思ったのだが、もしそうなら紹介アナウンスで披露されているか……。
「私と同じですね。私の場合はGランクですが、ははは」
登録したきりで依頼の一つもこなしていない。よって最初のGのままであった。
「貴方ならすぐにSランクでしょうね」
「いやいや、私は対人戦に特化した剣ですので」
実際に1対多数の試合だって異世界に来てから本格的に始めたようなもんである。ステータスの恩恵も大きい。
「ではムサシさんはダンジョン攻略もいくつかしてるんですね?」
「ええ、ちょうど私が召喚された頃にダンジョンが多く発生しましたので、Lv上げのついでに6~8個ほど潰しました」
あ……。10年前、俺達の1世代前のダンマスは全滅。ムサシLv上げを頑張った。話が繋がった瞬間であった。
「そうですか。で、現在もダンジョン攻略を?」
「いや、ここのところサボっていたので生活費稼ぎに『キングダム』へ行くくらいでした。あそこはドラゴン素材が高く売れるので」
えるうぃぃぃぃん!
知らないとか言ってたけどあんた報告受けてないだけじゃねぇか!!
その後は対戦中に折ってしまった剣の代わりに俺が叩いた剣をプレゼントした。
そんなに価値が高すぎないようミスリルの剣だ。
ムサシは恐縮していたが無理やり受け取ってもらってその日は別れたのだった。
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