89話 勝敗の行方
「それでは優勝戦!開始!」
舞台上で相対する俺達。お互い剣道で言う基本の構え、中段構えであった。
なんとなく日本にいた頃の剣道での試合を思い出す。
今は面を付けていないので視界的には全然違うのだが雰囲気は剣道そのもの。
この時代の流派であろうか?
足の運び方、間合いの取り方、呼吸、どれをとっても俺のよく知る剣道。まるで……。
少し誘ってみようか。
「日本を知っているか?」
「――っ!」
俺の誘いにあからさまに反応するムサシ。
やはりこいつは転生者だろう。
斬りかかってくるムサシの剣を受け止め鍔競りあいに持ち込む。
「あんたも召喚されたのか?」
ムサシがそう問いかけてきた。
さてどう答えようか……。ここで素直に認めると勇者の師匠である俺も転生者?召喚者?という事になってしまう。あくまで俺は勇者の師匠と言うだけの存在である。
「弟子から聞いた事があってな。俺は残念ながら違う」
「弟子? ああ、勇者を騙る偽物か」
「偽物? 何故そう言い切れる」
「俺が本物の勇者だからだ」
本物の勇者。確かに奴はそう言った。うわー鑑定しちゃおっかな。
「そうなのか。俺はあいつがそうであろうと違おうと弟子は弟子だ」
そう言って一旦離れる俺達。
上手く誤魔化せただろうか? しかし勇者か……。
――面白くなってきたな!
そんな風に考えてしまった俺は、エルさんにだいぶ染められてるかもしれないな。
ムサシが鞘に刀を納める。
へ?降参ってわけじゃないよな?これからだろ、おい。
いや、違ったようだ。居合の格好を取り始めたムサシ。
徐々に気が溢れるのが分かる。この世界に来て、気配察知スキルのおかげかそういった気やオーラのようなものが分かるようになった。
俺はそれを中段の構えで待ち受ける。
――来る!
「シッ!」
その剣筋は素早く俺の喉元へと迫る。ただ……。
――残念ながら早さが足りない。
剣で受け流しさらに追撃をかける。
がら空きになったムサシの背中をめがけて剣を振るうと、ムサシは必死になって避けてみせた。
立ち上がるのを待ってこっちから仕掛ける。
ムサシは居合という一撃必殺を避けられた時点で詰みだ。
優勝戦と言う舞台まで進んだ事に敬意を表し、居合の構えをとる。
目を見開き驚愕するムサシであったが、すぐに間合いを詰めてきた。
そのタイミングに合わせ居合斬を放つ。
残念ながら斬撃を飛ばすなどと言う技は出来ないのだが首は飛んだ。
喉元への攻撃と読んだのか刀で防御の姿勢は取っていたものの、刀ごと切断された格好になってしまった。
「勝者!ベイダー選手!! よって第1回ガナドール優勝はベイダー選手です!!」
大歓声が沸き起こる。
準決勝のエルさんとの試合がタフだったので優勝戦が呆気なく感じてしまうがムサシも強い相手だった。
エルさん以外でいい勝負が出来るとしたらブラッド、クラウスくらいではないだろうか?剣のみという縛りでやったなら勝てる奴がいるかどうか疑問だ。
3人いるというSランク探索者の最後の一人なのだろうか? 他の二人と比べても頭一つ抜けている気がするのだが……。
そんな事を考えていたら、舞台上ではそのまま閉会式の準備が始まっていた。
今日試合を行った4人だけの閉会式。表彰式も兼ねている。
エルさん、ガルドに続きムサシも舞台上へとやってきた。
「ようユ……ベイダー、やっぱり勝ちやがったな」
エルさんらしい祝いの言葉ととらえておこう。
「ああ、あんたに勝って優勝できなかったら何言われるかわからんからな」
「がははは、確かにそうだ。そしたらそのムサシと戦わせてもらうよう頼み込むつもりだったぜ」
「つくづく勝ってよかったと思ったよ。次まで待てよ」
「こんな楽しいの待てるわけねぇだろ」
本当に勝ってよかった。
優勝戦の後に「実はもう一試合あります」なんてアナウンスしないで済んだよ。それにムサシにも頼まなくてはいけなかったし。よく勝った俺。
舞台で成績順に並ばされて表彰を受ける。
「それでは栄えある優勝は、ベイダー選手!」
魔道具作成で作ったトロフィーをアイシャから授与される。
トロフィーを作るにあたりアキに頼むか、大工ドワーフのアキオに頼むか迷ったのだが、デザインなど詳細な部分までを伝えきれなかったので結局自分で作ったのだった。
その場合は魔道具にしないといけないのでトロフィー型トランシーバーにしておいた。範囲的にはそう広くしなかったので使われる事は今後ないだろうな。
そんなトロフィーと賞金を受け受賞者の列に戻る。
次にムサシが授与され列に戻ってきた時に声を掛けられた。
「完敗でした。最後の技は私の使った技と一緒ですか?」
「型としては一緒だったな。私も先生から習った技の一つだ」
今度はウソは言ってない。"転生前"に先生から教わった。それよりも――。
「今度剣について話がしたいのだが食事でもどうだ?」
「え?ええ。こちらこそ願ってもない」
「ではその時ゆっくりと話をしようじゃないか。俺はここのランク1位としてホテルの1室で暮らしている。受付という所で話をしてくれれば繋がるよう手配しておくのでいつでも訪ねてきてくれ」
「わかりました。では明日にでも訪ねさせていただきます」
「明日か。分かった、時間を開けておこう」
明日ね、楽しみだ。ついでに折ってしまった剣の代わりもプレゼントしてやろうかな。
剣についてと言いはしたが、他にも「勇者」「召喚」などなど聞きたいことは山ほどある。
それにこいつがダンジョンについての理解があれば(ダンジョン排斥派でなければ)マスターの事も話していいかもしれない。その場合はルーリになってもらうが。
「勇者」の目標が何なのか?ダンジョン討伐か。魔王討伐か。まずはそこを見極めないといけないな。
そうこうしているうちに表彰式は終わり、最後にアイシャが閉会の言葉を述べる。
「予選を含めて4日間にわたる熱戦を繰り広げてくれた参加者全員に感謝を述べます。
また運営に協力してくださった観客の皆様、最後までありがとうございました。
おかげ様でガナドールは最後まで無事開催できる事が出来ました。
また来年、この時期に第2回ガナドールを開催する事をお約束します。
皆様のご参加お待ちしておりますので、優勝できるよう鍛えてきてくださいませ。
それでは第1回ガナドールを閉幕いたします」
話す内容について俺からは「来年も開催する」の一点だけだ。他はアイシャに任せたのだが中々堂々と挨拶していた。アイシャも成長しているってことだ。
「ユウ、優勝おめでとう」
「ユウさん、おめでとう」
VIPルームでルーリとナティさんから祝福を受ける。
「ありがとう。エルさんに勝ったからには優勝しないとうるさいからな」
「「たしかにー」」
そう二人で声を合せて、笑い合う。
そのエルさんは屋上の露天風呂へと汗を流しに行った。
ちなみに屋上露天風呂に他の客と入ると、むしり取られた部分がバレるので俺達用に小さい(と言っても4~5人用)風呂を用意しておいた。
その日の夜は地下の家で祝賀会が開かれ主要幹部達とドンチャン騒ぎをするのであった。
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