81話 2回戦
闘技場内は相変わらずの熱気に包まれている。
そんな中2回戦第1試合が行われようとしていた。
「それでは2回戦第1試合を行います! ニューベガスにおいて全戦無敗絶対王者・天狗仮面選手ー!」
2回戦から選手紹介も入るようだ。しかし天狗のキャッチコピー? 凄いな。全戦無敗絶対王者って。かっこいいじゃねーか!
「対しましてグランエントにおいて3人しかいないSランク探索者・ハインツ選手ー!」
おお。こっちはSランクか! しかしよく参加してくれたな。エルさんとSランク楽しみな戦いじゃないか。
「それでは!! 試合開始ー!!」
ルーリ:ユウ、今どこにいるの?
試合開始直後、ルーリから念話が届いた。
ユウ:どこってVIPルームで観戦してるぞ。
そう、俺は控室でモニターを見てたわけじゃない。転移でVIPルームまで来て観戦していたのだった。
すぐさまルーリが転移してくる。
「ユウ、ずるいじゃない。一人だけいい席で観戦なんて!声かけてよね!」
「なんだよ。ずいぶんさっきまでと雰囲気違うじゃないか」
「さっきのはキャラよ、キャラ。あの格好ならクールの方が画になるのよ」
「へぇ。喋らなきゃ美人ってことか」
「誰もそんなこと言ってないでしょ!!」
そう言うと隣に座るルーリ。
「SランクとNo1ダンマス。面白そうな戦いね」
「ああ、だが1vs1じゃあ結果は見えてる。ほらな」
このハインツもどうやら体術メインの探索者らしく剣は短剣を腰に差してるだけであった。
エルさんもSランクと聞いてはしゃいじゃったのだろう。お互い開幕ダッシュで近づくとパンチのラッシュ。
あっという間にハインツを殴り倒してしまった。天狗が自分の拳を眺めているが「あ、あれ?もう終わったのか?」的な感じなんだろう。
審判がカウントをとり10カウント=気絶と判断し天狗勝利を宣言する。
「勝者!!天狗仮面選手ー!!」
大歓声が響き渡る。この試合Sランクと王者の試合とあって賭け率が拮抗していたのだ。なので高配当に喜ぶ客、あっけない幕切れに嘆く客様々なのだろう。
それでいい。これでいいのだ。俺に、ダンジョンに流れ込む感情がとても美味しい。
控室に戻ってきたエルさんをそのままVIPに転移で連れてくる。
「お疲れー。今日はもう試合ないからここでゆっくり見てなよ」
「疲れてねぇよ。なんだよSランクって言うから楽しみだったのによ……」
「呆気にとられてたもんな」
「だってよ、あれで終わっちゃうと思わないだろ?もっとこう血湧き肉躍るっていうかよ?」
「はいはい、そんな相手ゴロゴロいる訳ないだろ。いたら逆に怖いわ」
ルーリが会話に入ってくる。
「しかしエルさんってNo.1ダンマスは知ってたけど強さも半端じゃないのね」
「レベルのおかげだろうな。俺は元々武術なんてやってなかったからな」
「そうなの?でも格闘だって動きが洗練されてるし。まるでゴリラのように舞い、ゴリラのように刺す?」
「それただのゴリラだからな? なんだよ、ゴリラは舞わないし刺さねぇよ!」
思わずツっ込んでしまった。モハメド・アリの代名詞くらい覚えておけよ……。
「わははは。ゴリラって。まるで俺がゴリラみたいじゃねぇかよ」
「エルさんゴリラ知ってるの?」
この世界の住人にはゴリラ通じなかったんだよな。
「あれだろ、森の中に住む優しい動物だろ。俺はそんなに優しくないぞ?」
あ、知ってるんだね。でもルーリが言ってるのは見た目的な話だから……いや、長くなりそうだからこの話は終わりにしておこう。
「そうそう。エルさんとは正反対。ゴリラに謝れ」
「わははは。楽しみは次まで我慢するか。この勝者が次俺とやるんだよな?」
「そうだな。ブラッドがくると思うんだが、さてどうなるか」
2回戦第2試合ブラッドvsラスタ。
「それでは第2試合を始めます。その佇まいにファン急増中。ブラッド選手ー!!」
「対しますは、その姿はまさに獰猛・ラスタ選手ー!!」
「それでは両者準備はいいですか??――では開始!!」
両者とも槍を構え一歩も動かず相手の出方を探る。
その緊張感が徐々に客席にも伝わっていき静まり返る闘技場内。
「いい雰囲気だねぇ」
エルさんがそう呟く。
「ああ。なかなか拮抗している。あのラスタって奴もやるな」
その直後、両者が動き出し舞台中央で槍の柄同士で競り合う。槍でも鍔迫り合いというのだろうか?
一旦離れ、また構えなおす。観客が呼吸を忘れていたかのように息を漏らす。
また接近しスキルを発動させて攻防を交わし続ける。これ俺たちには見えてるけど観客には見えるスピードなのだろうか?
まぁ、早いってことだけ分かればいいのか?一応勝敗の瞬間はスロー再生でモニターに映し出されるからそこで確認してもらえばいいだろう。
そんな事を考えていたらブラッドが槍で武器を巻き取り斬首で試合が終了した。
「勝者!ブラッド選手ー!!」
これで次の対戦は天狗vsブラッドに決まった。
続く第3試合アグリルvsベイダー。あ、ここで見てる場合じゃねぇ!!
急いで控室に戻り衣装に着替える。着替えは一瞬なので時間はかからない。
「ベイダー選手、出番です」
係員(配下)が呼びに来てくれたのでそのまま舞台へ向かう。
「それでは第3試合、何を聞いても答えは頷くだけ寡黙な戦士・アグリル選手!!」
「かたや天狗選手が現れるまでの王者、王座奪還を狙うベイダー選手ー!!」
俺の心をくすぐるキャッチコピーは生まれなかったようだ……残念。
「両者準備はよろしいですか?――では開始!!」
いきなり動くことはせず相手の様子を窺う。エルさんとは違うのだよ、エルさんとは。
アグリル、何も話さず不思議な雰囲気を持つ人族だ。背は180cm位、スリムな体に鍛え上げられた筋肉。緑の短髪に無表情な顔。表情から考えは読みにくい。
武器は片手剣とラウンドシールドを装備している。
時間にしたら20~30秒たっただろうか。俺の方から仕掛けてみた。
普通に下段からの切り上げである。相手はそれを寸前でかわし横薙ぎに剣を振る。ジャンプで相手の背後に降り立ち首を狙う。
その狙いを分かっていたのかダッキングして躱す。背後からの攻撃だってのにいい動きじゃないか。
振り向きざまに剣を振ってきたのでこちらも剣で防ぐ。すかさず下段回し蹴りで相手の足を刈り取る。
実は剣道にも足払いがある。ただし警察剣道に限っての話ではあるが。一時期警察を目指したこともあるのでその辺も練習済みであった。
足を刈り取られた相手は受け身をとって体勢を立て直す。
「さすがエルウィン様の認めた相手。本気で行かせていただきます」
喋った?しかもまたエルウィン様??
「エルさんの関係者かな?」
「いかにも。大きな声では言えませぬが軍を任せれておりまする」
軍事?任されている?? え?配下ってこと??
「もしかしてキングダムの??」
「いかにも!それでは参る!!」
えるうぃぃぃん!!知ってるなら話しておけよぉぉ!!
くっそ思考が乱された。が捌けないほどじゃない。徐々に平静を取り戻し攻撃をいなす。
攻撃に夢中になりすぎると隙は出来やすい。というか目立つ。
一撃で倒せるほどの隙ではないものの、徐々に相手の体力を削りとっていく。
不利になればなるほど攻撃は単調かつ大振りになりやすい。そうなれば更にこっちのものだ。相手の攻撃に合わせ反撃をする。いかに体力のあるダンジョン関係者であろうと回復以上にダメージをもらえばいずれ死ぬ。
「勝者!ベイダー選手ー!!」
試合が終わるまで大した時間はかからなかった。エルさんは、あれは別として。
VIPにもどりエルさんを問い詰める
「おい天狗さん。アグリルって配下だったのか??」
「ああ、バレちまっったみたいだな」
悪戯がばれた時のような悪い笑顔でこっちを見る。
「ああ、途中でそう言ってきたからな」
「みたいだな。あいつが自ら話しかけるとはな」
「軍を任されてるって言ってたわ」
「ああ、あいつは元マスターで俺が配下にして働いてもらってるんだ」
「元マスター? ルーリみたいな感じ??」
「ああそうだな。人間に攻略されて死にそうなところをたまたま助けたんだ。それから配下に加わってる」
へーそんな過去がね。助けた恩義に働いて返すってか。義理堅いねぇ。
「でもさ、たまたま助けたってダンジョンの奥までどうやってたまたまいたのさ?」
そこが引っ掛かったのだ、攻略されそうってことはコア近くだろう。そんなところにたまたま配下かエルさんがいるなんてあり得るだろうか?
「ああ、それなら簡単だ。俺もアグリルのダンジョン侵略に行ってたからだな」
「ん? 侵略は禁止じゃ?」
「ああ、そのルールができる前の話だ。もう百数十年も前な」
「新人いじめが流行ってた頃のお話だったのね。よく侵略されてたのにアグリルさんは配下に収まってるね」
「結果的に命を救ってもらったからって言ってたが、心の中までは分からんな」
そうだろうな。エルさんに攻められなかったら人間に奥まで侵入されなかったかもしれないし。そこはもうIFの世界なので分かりようもない。
ただ少しだけ話した感じではエルさんを尊敬まではいかないけど慕っている感じではあったんだよな。
そんな話をしている間に第4試合は終了してた。
クラウスが勝ち残ったそうだ。これで俺と次の対戦が決まった。
ちなみに対戦相手はレオンというSランク探索者だったらしいが魔法で瞬殺されたらしい。
3人しかいないSランクが1日で2人も負けちゃったけど大丈夫だよな??残りの一人がめっちゃ強いんだよな?
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