76話 末路
ニューベガスや王都が二週間後に迫る『ガナドール』の話題で持ちきりになっている頃。
俺達の前には土下座をする二人の姿があった。
「お願いしますっ!どうか!どうかお助けを!」
「何を何から助ければいいのか、さっぱりわかりませんが?」
「そんなこと言わずに!お願いします!」
「だ・か・ら、ちゃんと説明してもらわないとわからないと言ってるのです」
アイシャがそう言うとゴルド商会のハンとその妻・アンの二人は顔をあげる。
「私たちの店を助けて下さい!このままでは、このままでは私たちの店は………」
そう言って再び頭を下げるハン。
その二人に向かってアイシャが俺の念話の内容を自分流に噛み砕いて伝える。
「そうは言いましても私どもが何をしたらいいのでしょうか?ただ普通にお店を開いて"適正な価格"で商品を売っているだけなのですが」
「私どもの店にも商品を卸してはいただけませんでしょうか?」
お前の店に卸したところで今の状況が良くなると思わないけどな。そんな内容を伝えさせる。
「ではあなた方のお店に商品を卸したとしましょう。それであなた方のお店は助かりますか?ベガス商会で同じ値段で売ってる商品ですよ?」
「ベガス商会より安く売れば私の店に客が来るはずです」
何を言ってるんだろうか?本気でそう考えてしまった。
「あ、なるほど。頭いい!」ってなると思ってるんだろうか?ベガス商会はうちの商会だぞ?そんなことするわけがないだろうが。よくそんな頭で店を続けてこれたもんだな。
「それでうちの町に利益はあると思いますか?」
そうアイシャに尋ねさせた。
「はい!私共がたくさん売ればそれだけこの町も儲かるに間違いありません」
「それならお聞きしますが、安く売るということはあなたたちの儲け幅は少なくなります。ですが安い分忙しくなるでしょう。売るための従業員も確保しなければいけません。人件費などはどうお考えでしょうか?」
「はい!それならみな安い給料で一生懸命に働けば大丈夫です」
大丈夫じゃねぇよ。なに勝ち誇った顔してんだか。
「全く話になりませんね。そんなのは商売とは言えません。適正な価格で物を売り、働く人やその家族が暮らしていけるだけの十分な給金をもらったうえで、儲けを出してこそ商売です。あなたのやってる事は商売とは言えません」
「なっ!………ではどうしろと?」
それこそ知らんわ。自分で考えろ。
ユウ:ガーシュ、こいつらダメだ。
ガーシュ:まったくです。私とやっていたときはもっとしっかりしていたのですが。欲に眩んでしまいましたかね。
ユウ:で、どうする?ギルドに不正で突きだすか、あとでうちの地下で家畜にするか。お前が直接憂さ晴らししてもいいんだぞ?
ガーシュ:前にも申しましたがこんな奴らどうでもいいのです。ジョシュの店で民が困らず買い物ができるようになってきましたし。
ユウ:いいんだな?
ガーシュ:では、最後に話をさせてください。
ガーシュが仮面を外して二人に顔をさらす。
妻のアンは大きく目を見開き驚いている。
「久しぶりだな、アン。私は今とても楽しく仕事をさせてもらっている。まぁそんな話はどうでもいい。お前達が今までやってきた罪を正直に国に申し出るなら助けてやることも考える」
そう二人に手を差し伸べたのだが、
「何を言ってるのよ!あなたが、悪いんじゃないの!私たちは何も悪くないわ!」
やはり救いようがないか。
いや、国に申し出た時点で犯罪者として捕まる為にどちらにしろ詰んでいるので、救う気がないという方が当たっている。
さてどうしようか。Lvも低いためLv上げからやらせなければいけない。今のうちの稼ぐDPは一日で一億以上なので、そんな面倒な事をしなくても間に合っているのだ。
「さてガーシュさんの助けも要らないようですので、私達との話もこれでおしまいです」
「そ、そんな!おねがいします!」
「私たちは何も悪くありません!なにとぞお助けください」
自分の過ちも認められない、そんな奴らを救うつもりはない。
「あなたたちには二つの選択肢があります」
そうアイシャが話すと二人は顔をあげた。
「奴隷としてこの先の人生を生きていくか。罪を認め犯罪者として裁きを受けるか。この二つです」
「え?助けてくれるのでは?」
今までの話を聞いていたのだろうか?どこに助けるという会話があっただろうか?
俺の頭が理解不能な会話によって思考停止になりかけた時、応接室のドアが開かれる。
「報告いただきありがとうございます。ここからは我ら国王軍が身柄を預からせていただきます」
入ってきたのはスペードという部隊長と部下数人。それにドミニクも一緒だった。
「なっ!貴様だましたな!!」
そうハンが叫ぶが何も騙すようなことはしていない。俺達は犯罪を報告しただけで呼び出したわけでもないし、助けるということも言ってない。
「何も騙しておりません。ですよね、スペードさん?」
「ええ。私共はこちらのドミニクさんから報告を受けあなたたちを探していたところ、こちらに居ると連絡があったのです」
「な、なぜ私たちを探していたのだ?」
「何故って、まずは帳簿の改ざんによる不正、それに伴う脱税、それと王都における恐喝その他諸々です」
「そんな証拠がどこにあるんだ!」
すると部下から2冊のノート?紙束が手渡される。
「そ、それは!」
「そうです、あなたの屋敷から押収させてもらいました。まぎれもない不正の証拠ですよ」
がっくりと肩を落とすハン。
今までだったら歯向かう者や文句を言う者も貴族の力を使って潰し、その罪すら揉み消せたのだがその貴族はもういない。正確には地下にいるんだが。
そのまま二人は国王軍の兵士によって連行されていった。
ハンは敵を作りすぎたのだ。ライバルは大切だが敵は少ない方がいい。
「今回はご協力ありがとうございました」とスペード。
ここでアイシャではなくルーリに話をさせる。
「いえ、私共が望むのは共存共栄です。ともに助けあいともに栄える。ぜひグランエントともそういった関係を望んでいるのです」
「素晴らしい考えだと思います。帰って上官にそう伝えます」
「そうして頂けると有難い。先日はあなた達の同僚をこちらが攻め込まれたとはいえ全滅にしてしまったので納得して頂けないかもしれませんが」
先日の返り討ちの話をするとスペードは一瞬顔をしかめたが、
「あの遠征は間違っておりました。何より国王様が発した命令ではなく子爵様が直訴したからだと聞きました。この地は人の手では到底成し得ない町です。それを奪うなど神をも恐れぬ所業です」
「そう言っていただけるとこちらも気が楽になる。貴方のような人がいるなら安心です」
そうやって会話を終えるとスペードは退室していった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
部屋に残った俺達5人。
「ユウ様、一つ聞いてもいいですか?」
最初に聞いてきたのはアイシャだ。
「ん?どうした?」
「さっきの二人のことですが、最初から助けるつもりはなかったと考えていいですか?」
「助ける価値がないだろう。兵に突き出すか、地下でDPを生んでもらうか。その二択しかない」
「それなら地下で少しでも足しにしたらいいのでは?」
やはりアイシャもそう考えたか。
「それには問題が2つほど出てくるんだ」
「問題、ですか?」
「ああ、まずあいつらは仮にも商会の会長夫妻だ。その二人がこの町に来てるのは従業員やほかの客達も知っていることだろう。兵士達のように武力で攻めてきたわけでもないのに、二人がこの町から帰ってこないとなったら疑われるのはこの町であり代表であるお前だ」
あ!という顔で気がつくアイシャ。
まぁ一旦帰して転移で攫ってくればそこは解決するんだがな。そこまで言わなくていいだろう。汚れ仕事は裏の俺たちの仕事だ。
「それにガーシュがそれを望んでいない」
みんなからの注目を浴び、コクリと頷くガーシュ。
常日頃ガーシュは『復讐などよりもこの町の未来』と言っていた。好きの反対は嫌いではなく無関心と言う。ガーシュにとって本当にどうでもいいことなのだろう。
「もう一つは何ですか?」
「それは――」「ゴルドをしっかり潰すことですよね?」
ガーシュが珍しく会話に入り込んできた。
「その通りだ」
「しっかり潰すことが問題なのですか?」
「逆だ。しっかり潰しておかないと問題になると思ったんだ」
「はぁ」
「いいか、アイシャ。王都にはゴルドの息のかかった奴らがまだまだたくさんいる。そこで頭を潰しただけでは誰かがまた頭になり変わるだけだ。ここでしっかり潰しておかないと結局今と変わらないんだ。だから兵士たちに突き出し、徹底的に潰してもらう」
「なるほど。汚物は消毒ですね!」
誰だ!アイシャにそんなこと教えたのは!ルーリに視線を向けるとサッと逸らされた。
「そ、そうだな。しっかりきれいにしておかないといつの間にかまた増えてしまうからな」
「この町ではそんなことが起きないようみんなで力を合わせてやっていきましょう!ね、ガーシュさん!」
「はい、勿論です。共存共栄、とてもいい言葉です」
ここにいないがジョシュに王都の商売を纏めてもらって力の無いものが泣かなくて済む。そんな理想を目指そうじゃないか。
地下で力無いものが泣いてるって?敵対する者まで助けるつもりはないですよ?
それにあいつらサキュバス・インキュバスと結構楽しんでるし、泣いていないから安心してくださいな。
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