53話 去りゆく影
町への嫌がらせがエスカレートしてきているらしい。
ディーラーへの難癖にはじまり、従業員へのセクハラ、他の宿泊客やカジノの客を威嚇したり、大浴場や露天風呂で酒盛りをして騒ぐ等々………
隠密達の情報によると探索者のふりして町の評判を落としてやろうという作戦らしい。
地味だ。地味だし、それが成功して何になるというのだろう?
ベガスはダメだからやっぱり王都だ。なんてなるだろうか?
王都に同じ様なコンテンツでもあれば話は別だろうが、王都には何もない。何も無いわけではないが、一度この町の魅力に触れてしまったらなかなか離れられないだろう。
だが、だからと言って放っておくわけにもいかない。実際に苦情は出てきているのだ。
「セバス、ルーリ。この工作員全員捕まえて新しく牢屋部屋でも作って飼うか?」
「いいね!ユウ。またDPが増えるし私の小遣いも増える!」
ルーリの軽い考えに羨ましさを覚える。
「ユウ、それをやるとこの町で人攫いだなんだと騒ぎ出すのが目に見えております」
「そういうのが狙いだよなー。こっちを怒らせて何かアクションをしてきたら大袈裟に騒ぐ。こんなところだろうな」
「う、嘘!巧妙な罠だわ!なんて卑怯な手口を!」
はいはい、罠にかからなくてよかったねー。
現在のそういった対応には注意とお願いに留めている。
だが調子に乗ってきているのは一目瞭然である。
ユウ:サクラ、聞こえるか?
サクラ:はいこちら隠密部隊サクラでございます。
ユウ:文句を言ってくる奴らがもし暴力を振るおうとしたら攻撃を許可する。但し殺すなよ。麻痺させるだけでいい。
サクラ:承知しました。ユウ様。
「さてあとはこっちだな」
目の前のモニターにはダイヤとハートが映っている。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「なあハート。もう少し派手にやってもいいんじゃねぇか?」
「だからあなたは脳筋って言われるのよ。まだ早いわよ。もう少し人数を増やしてから全員でチョコチョコと削っていくのよ」
「脳筋じゃねーわ!!誰がそんなこと言ってんだ!」
「ほら、そんなところよ。いい、ダイヤ。今騒いだところで結局少数意見だわ。ただの負けた奴が文句言ってるだけ。だけどその数も多ければ多いほど真実味を増していくの。嘘も言い続ければ真実になるってね」
「おお、悪い顔してるな」
「何とでも言いなさい。これはヘノン様を侮辱した罰だわ。王国軍を敵に回した事を後悔させてやるわ」
「ヘノン子爵だけじゃなくゴルド商会も噛んでるってのは本当なのか?」
「ええ、本当らしいわ。犯罪者がどうのと言ってたらしいけどそんな小物どうでもいいわ。狙いはこの町の略取よ」
「ああ、この町を手に入れたら王国も潤うし、俺達も出世できて金が舞い込んでくると」
「ええ。だけど私はお金なんて興味がないわ。この作戦で手柄を立てて貴族様に見染めてもらうのよ」
「いずれは貴族夫人かぁ。そうなったら俺を騎士として取り上げてくれよな」
「ふふふ、冗談言ってないで、そろそろ午後の闘技場が始まるわ。行きましょ」
「いや、冗談じゃないんだけど・・・」
そう言って部屋を出る二人。探索者のふりをしているためお付きの部下はいない。
モニタールームに入るとすでにいる客達がこちらを気付きじっと見ている。
「なんだ?様子がおかしくないか?」
「ええ、そうね。何かあったのかしら…」
すると二人に近づく3~4人の男達
「おい、お前達。王国軍の人間なのか?」
驚く二人。その顔でもう自白したも同然であった。
「やっぱりそうなのか!さっき流れていた映像も本当の事だったんだな!」
映像?どんな映像なんだ?まさかさっきの会話……?
「お前達がワザとこの町で騒動を起こしてるとさっき言っていただろうが!」
「お前は貴族夫人になりたいとか言ってたな」
「ヘノン子爵とゴルド商会が絡んでるとも言ってたぞ」
「王国軍はこんな所で遊んでないでもっと仕事しろ!税金泥棒が!」
これはまずいことになった。私達の目論みだけでなく子爵様の事もばれてしまった。
こうなっては言い訳した所で火が消えるはずがない。
「ダイヤ、一旦王都に帰るわよ」
「ああ、その方が賢明だ。スペードとクローバーはどうする?」
「あいつ等は放っておいていいわ。どうせ乗り気ではなかったし」
「わかった」
客席からはかーえーれとコールが始まり、いてもたっても居られなくなった二人は逃げだすようにその場を後にする。
逃げ帰る途中でも2人を見かけた人から指を指されヒソヒソと何かを囁かれる。
くそ、なぜこうなった!誰かが告げ口をしたのか?
まさかスペードが?いや仮にも王国軍の部隊を率いる部隊長になっている男だ。そんな事はするまい。
あの客達はモニターで見た、と言っていた。でもどうやって私達の事がばれたのだ?分からん!この町はどうなっているのだ。
顔のバレている二人は早急に逃げ出し、2人の部隊の兵たちもこそこそと逃げ出して行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ここはアイシャやガーシュ達が一緒に住んでいる家の一室。
「さてあなた達の目論みはニューべガスにいる人たちに露見してしまいましたが、この後どういたしますか?」
俺は一緒にモニターを見ていたスペード・クローバーにそう問いかける。
ダイヤ達が話しているところをモニターで町中に流し、会話を聞かせることであいつらの目的を潰した。
その一部始終を今回乗り気でなかった部隊長にも見せたのだ。
最初は話があると呼び出し、部屋に来たところでモニターを見せると喰い入るように見つめていた。
「これは、どういうことでしょうか?」と苦々しい顔でスペードが尋ねる。
ここからの会話はアイシャに任せる。一応事前に言うべき事は伝えてあるが、念話で指示を出すつもりでもある。
「あまりにも嫌がらせのようなものが多かったのでこちらで調べさせていただきました」
「調べたって………じゃあ俺達の事も知ってて?」
「はい。王国軍の部隊長であるスペード様とクローバー様ですよね」
「そ、そこまで……」
そう言うと絶句してしまった二人。
「さて今回の事についてですが、普通に楽しんで頂けるなら我々もこれ以上手出しは致しません。敵意のない人まで排除するつもりはございませんので」
「わ、わかった。上官にもそう伝えておく」
「我々はここに楽園を作りたいと思っているだけです。それを邪魔するのであればどんな敵とでも戦う所存でございます。とお伝えください」
「もし国が相手だとしてもか?」
「ええ。もちろんです。ですが出来れば話し合いで両者が納得出来たらそれが一番です。あなた方の様に今回の工作に反対の上司はおられますか?」
「いるのはいるのですが、正面切って反対を出来る程立場的に強くないのです」
「なるほど、私達はいつでも話し合う用意があるとお伝えください」
「わかりました。しっかりとそちらの考えを伝えておきます」
そう言うと二人は退室していった。そのまま王都に戻るようである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
残った俺達5人
「ユウ様。もし戦争になったら本当に戦う気でありますか?」
「そうよ、ユウ。戦うなら戦力が足りないんじゃない?」
ガーシュとルーリが問いかけてくる。
「まぁ、戦いにはならない。多少の小競り合いくらいにはなるかもしれないがそれでも2000人程度だろう」
「2000人って。勝てるわけないじゃん!」
「そうですよご主人様。私も話していて気が気じゃありませんでした」
アイシャも心配だったのか。堂々としてたので気が付かなかったわ。
「まぁ大丈夫だ。最悪俺一人で倒せると思っている。まだ見せていない手もあるしな。」
実際闘技場でもまだ使っていない手はいくつか隠してある。今は少しずつレベル上げでもしておこう。
「まぁユウがそう言うなら大丈夫なんだろうけど・・・その時は私も戦うからね!」
「ああ、やっとパドメの出番が来るかもな」
「あっ!それいい!早く戦いたい!いつごろ攻めてくるかな?!」
ハハ、ルーリは幸せだなぁ。
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