43話 キャロル
夜の鐘が鳴る。俺達はキャロルの店へと向かう。
ドアをノックし出迎えを受けるとそのまま2階の会議室へと通される。
会議室の中には30~35人程集まっていてくれた。
女将が声をかけてくる。
「ああ、良かったよ無事で。あいつらに連れられて行ったって聞いたからさ。」
「ああ、あいつらね。話合ったら分かってくれたよ。」
「ええ?あいつらが話を??」
「それより良く集めてくれたな。」
「あ、ああ・・。みんな暇だっていっただろ。ところで・・・」
そういってガーシュを見る女将。ガーシュはもちろん仮面付きだ。
徐に仮面を外すガーシュ。ざわめきが起こる室内。
「本当にガーシュさんだ・・・」「死んだと思っていた・・・」など聞こえてくる。
「みんな心配かけてすまなかった。それと今もって迷惑をかけているようで本当にすまん。」
そう開口一番で謝罪の言葉を述べるガーシュ。
そんな中一人の女性が口を開く。
「ガーシュさん頭を上げてくれ。あんたは何も悪くない。悪いのはあいつらさ。そうだろ?」
「でもあいつらを止める事が出来なかった。」とガーシュ。
「さて皆さん初めまして。今は勇者の使いをしてますユウといいます。これからみなさんにある提案をしたいと思います。
乗るのも乗らないのも個人の自由で構いません。乗らなかったからと何かをする事もありません。ここで聞いた事をゴルド商会に告発してもかまいません。
ええ、我々には勇者が付いていますのでなにも恐れる事はないのです。」
ざわつく会議室内。
「ユウさん。私はキャロルと言います。ここの会長だったがもう虫の息さ。そんな私達を集めての提案ってのはどんなものなんだい?」
やはりさっきガーシュに声をかけたのがキャロルか。
「どうもキャロルさん。提案とは他でもない。我々の町に移住しそこで商売をしないか?という事です。」
「どういう事だい?勇者様が町でも作ったってことかい?」
「はい、その通りです。ここから馬車だと10日程でしょうか?山の近くの草原に新たに町が出来ました。」
「山の近くの草原だって??リベルの先の草原かい?あんなところに町なんか作ってもダンジョンも水すらもないじゃないか。」
ユウ:ガーシュキャロルの言ってる事あってるの?
ガーシュ:はい、町の位置はそこであってます。
「ダンジョンはありませんが水も食料も今は豊富にありますよ。それに宿が出来て人がこれから押し寄せるでしょう。」
「そんなばかな・・・でもその食糧だって王都のゴルド商会に目を付けられたらお終いじゃないのかい?」
「そこの心配には及びません。言ったでしょう。我々は勇者に守られていると。勇者の力の前にはゴルドなどなす術もないでしょう。」
それを聞いたキャロルが手をあげる。
「少しいいかい?」
「どうぞ。」
「そこへ行ったとして私達はどうすればいいんだい?物を仕入れようにも王都ではゴルド商会が目を光らせてるし。他に当てがあるわけでもない。」
「商品の仕入れなら我々の町にいるドワーフ達から仕入れればいいでしょう。彼らの裁縫技術は確かですから。」
「ドワーフだって?しかもその商品を仕入れられるのかい??」
「ええ。武器に鎧に衣服何でも作っておりますから。」
「この王都だってなかなかドワーフの服は手に入らないってのに。あんた何者だい?」
「ですから勇者の使いと。」
違う男の人が手をあげる。
「俺は食堂をやってたんだが料理人はどうしたらいい?町には食材もあるのか?」
ああ、料理人の問題は難しいんだよな。
「肉や野菜は少しあるのですが、これから整備していくところです。」
「これからか・・・。じゃあ今町はどうやって飯を食ってるんだい?」
「勇者の力で異世界の食事を召喚してるのです。」
「異世界っ!!ぜひ俺にも食べさせてくれ!それと出来れば俺も作れるようになりたい。」
いや、出来たのがポンっと出てくるなんて言えねぇなこりゃ。
「教えるのはいずれ農地などが整備されてからですね。ところでここにいる方達の職業を教えてもらってもいいですか?」
キャロルがまとめてくれる。
服、武具、ポーションなどを売る商人が16人、料理人が6人、家具や家など作る大工3人、農家6人、酪農5人。
商店や料理人などは理由も分かるが大工や農家などはどういった経緯なのだろうか?
「大工や農家のみんなは何でゴルドに目を付けられたんだ?」
見るからに棟梁といった男性が口を開く。
「店を建て増しするってんで引き受けたんだがよ、注文通りに作ったのに難癖付けて金を払わねぇんだ。
文句言ったらそのうち払うって言うからよ、待ってたんだが結局払わねぇ。
それどころか店の客にあの大工は適当に仕上げて高い金を取る。最後は脅しも掛けてきた。なんて噂を流しやがって。
昔っからのお客さんは信じなかったがよ、中には信じちまう人もいたんだよ。そっから仕事はなくなるのはすぐだったよ。」
「俺達も同じ手口だったぜ。なぁ」「ああ。」
「奴らの仲間にも大工はいるんだが、今じゃそいつらが王都の大工を仕切ってやがる。」
なるほどねぇ。
「大工さん達の理由は分かった。じゃあ農家のみんなは?」
「俺達はもっと野菜を安く卸せと言われたんだ。税金だってあるんだしもう無理というところまで安くはしたんだが言う事を聞いてくれなかった。
安くしないなら他の人に卸してもらうって言われて、こっちも生活があるから他の店に売ることにしたんだよ。
そしたらゴルドのやつらがその店に「あいつから買うな。うちが怖くないなら買ってもいいがな」って脅しを入れてきたんだ。
行く店行く店全部うちからは仕入れてくれなかったよ。そうやってあいつらは自分の言う事を聞かない奴らを潰していくんだ。
そんな光景を見せられたらみんな渋々ゴルドに卸すしかない。俺らは見せしめに潰されたんだ。なんとか税金だけは払えたがもう無理なんだ。」
あいつら、何が生産者を守るだよ。嘘ばっかりじゃねーかよ。
ユウ:ガーシュ、ダメだなあいつら。潰すしかないぞ。
ガーシュ:ええ、同感です。奴らは商売人じゃない。ただの金の亡者だ。
そうだな。お客の笑顔が見たいっていう俺達とは真逆の人間だ。
そんな店はない方が王都民も幸せだろうな。
「さて私達はあなた達にお店を用意しましょう。もちろん仕入れの確保もしましょう。農場に牧場も用意します。
それで最初の一年は税金は利益の1割。次の年からは2割頂きます。」
おぉぉ、と歓声がわきあがる。
ガーシュ:ユウ様、王都での税金は利益の5割でございます。いくらなんでも2割は安すぎます。
ユウ:5割もとられるのかよ。高すぎだろ王都。
ガーシュ:だいたいどこの国でも同じようかと思いますよ。
勉強不足だったか、これは。
まぁいい、金が欲しいわけじゃないからな。俺が欲しいのは人だ。
「いかがでしょうか?今聞いてすぐに決めろというのも無理でしょう。明日の夜まで待ちます。
このまま王都にいても先が見えないのなら死んだつもりで私達と共に歩くのもいいと思いますよ。
では明日の夜、良いお返事期待しております。」
「あ、ああ、わかった。少しみんなで話し合いたい。また明日の夜待ってるよ。」
とキャロルはまだ信じられないと戸惑っている様子。
「では、ガーシュを残していきましょう。まだまだ聞きたい事もあるでしょうから、何でも聞いてください。ではガーシュ頼む。」
「かしこまりました。」
ユウ:俺に関する事以外なら町の事を教えてやれ。分からないところは勇者の力で誤魔化せばいい。
ガーシュ:かしこまりました。
キャロルの店を出るともう夜中(23時頃)なので歩いてる人はほぼいない。
なので路地に入り込みダンジョンまで転移で帰る。
今夜は長くなりそうだ――。
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