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エロ同人みたいな恋がしたい!!!!  作者: 眼鏡っ娘至上主義クラブ


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過去編4

 立て付けの悪い扉は悍ましい音を響かせてゆっくりと響いた。

 現れたのは藤村の母親だった。彼女はまだ若いのにも関わらず、その形相は山姥のようでボサボサに伸びた長い髪に死んだ表情、ただその瞳だけは何かに怯えるように見開かれていた。


「あんた誰? MSSの手先だろ」


 嶋咲にはそれは独り言のように聞こえた。虚空を見据え、決して対話をする相手がいるものだとは思えなかった。


「藤村くんの同級生の嶋咲です。藤村くんはいらっしゃいますか?」ハキハキと尋ねた。それは恐怖を跳ね除けるために自身を鼓舞したからであった。


「藤村……? あいつもう死んだ?」ふひひと顔を歪めて笑っていた。


「なにを言うんですか! まだ生きてますよ」大きな声を出して。


「生きてるわけないだろ! お前はKGBのスパイだな」発狂して言った。「あの悪魔を蘇らせるために、先に私の事を殺しにきたんだろぉ」


 彼女には話は通じなかった。藤村の名前を聞くとただ、暴れ始め、地団駄を踏み、髪を掻きむしり遂にはぶちぶちと抜き始めた。嶋咲は恐ろしくなって後退りした。

 何故か玄関には包丁が置いてあり、彼女はそれを手に持った。嶋咲は振り返って走り出した。


「委員長後ろ乗って」


 振り向いた視線の先には、藤村が自転車に乗っていた。嶋咲は自転車に向かって走り出し、藤村が漕いでいる自転車の後ろに飛び乗った。藤村は勢いよく自転車を漕ぎ始め、母親を置き去りにした。

 嶋咲は恐る恐る振り返ると、未だモタモタと走りながら追いかけていた。その足下には血が滲み、見れば裸足のままだった。

 なにも言えず、震えながら藤村の背中にしがみついていた。

 藤村は嶋咲の家の近くの公園に自転車を停めた。二人は並んで座り俯いた。


「ごめんな、お袋のせいで怖かったろ」申し訳なさそうに呟いた。


 嶋咲はなにも言えず、想いが溢れて泣き出してしまった。その涙が自身の何処から湧き出てくるのか、嶋咲すら分からなかった。ただ両手で顔を隠してしくしく泣いた。

 藤村はよっぽどお袋が怖かったんだろうと申し訳なく思った。慰める資格も自分には無いと思い、黙って俯いていた。

 心の整理がつかない嶋咲は藤村に送られて家に帰った。一晩中思い悩んだ。そして強い心を持った彼女は自分の弱い心を打ち破り、藤村を救うことを心に決め、翌日には行動を始めた。


 嶋咲は児童相談所に通報した。彼女の言葉は驚くほど素直に受け入れられた。それから数日後、藤村とその母親は保護された。母親は精神病院へ、しかし藤村の行方は難航した。母親の両親、つまり藤村の祖父母は藤村の受け入れを拒んだ。父親はというと行方不明な上、何処の誰なのかも分からなかった。

 結局孤児院に入ることになった。孤児院の学区は今の中学校の範囲とは違うので転校の話も出たが、そこは藤村も賢しく、この環境が変わった状態で学校まで変わってしまっては、自身がどうなるかも検討がつかない。と、自身を人質に取り、特例として同じ学校に通うことを許可された。

 肥溜めを生きてきた藤村にとっては、孤児院は安息の地であった。藤村はよく子供に好かれる性格であった。工具を使って自転車の不具合を直してやったり、子供達が好きな漫画のキャラクターの絵を描いたり、誰にも弾かれず埃を被って置いてあるキーボードを弾いた。


「藤村ピアノも弾けるの?」子供達は藤村を取り囲んで喜んでいた。


「まあね、リクエストがあればなんでも言ってよ」得意げに微笑んだ。


「じゃあ、鬼殺の刀の曲!」女の子が手を挙げて言った。


「オーケー」と言いながら藤村は自信満々にアメイジング・グレイスを弾いた。


「全然違うよ!」子供達はワーワー騒いだ。


「ごめんごめん間違えた。気を取り直して」次はバッハのアリアを弾いた。


 子供達は間違っているとまた騒いだ。藤村は絶対音感などないので曲名を聞いただけで演奏することなど出来なく、自信満々に違う曲を何度も弾いていた。そして子供たちもそれが面白く何度も野次を飛ばしていた。


「じゃあみんなで一緒に弾こう」それから最後はわざわざ鬼殺の刀の曲の楽譜をネットで調べて、子供達と一緒にサビの部分を弾いて遊んだ。


 一人の女の子は随分に熱心になったので、コンビニで楽譜を印刷してドレミを描いてあげると喜んで練習していた。藤村も楽譜を読むのが得意ではないために苦労したが、小さい女の子が喜んでくれたのを見れば嬉しさが疲れを吹き飛ばした。絵描きの少年と一緒にスケッチブックを持って公園に出かけたりして、子供たちに好かれていった。

 そんなことは知らない嶋咲は、一人、罪の意識に苛まれていた。自身が藤村の全てを奪ってしまったのだと……。藤村の顔さえまともに見られなかった。それでも嶋咲は放課後に藤村を呼び出した。


「あの、藤村、ごめん来てもらって。話があるの」震える声で切り出した。


「あぁ」としか返事ができなかった。藤村は思い上がっていた。それは孤児院での生活が充実していたからであろう。嶋咲の愛の告白を想像し、その洒落た返事を必死に考えていた。


「藤村のお母さんのこと、児童相談所に連絡したのは私なの。許しもらおうなんて思ってたんじゃないの、ただ、黙っているのは藤村を騙しているような気がして……。私は自分の物差しで藤村の幸福を考えて、藤村から全てを奪ってしまった。それでも私はその罪悪感に耐えられなくて、自分のために謝って許してもらおうとしている。私のことを憎んでね。許さなくていいから……」涙を流して消え入るように言った。


「泣かないでくれよ。なぁ、委員長聞いてくれ、俺は行政の人が来てくれた時ホッとしたんだ。ようやく、この地獄から解放されるのかって。俺は人に頼る方法を知らなかったし、苦しみの中で生きないといけないって本気で思ってたんだ。今、孤児院にいて本当に楽しいよ。食事や寝床の心配もしなくていいし、子供達は本当に弟妹のようでさ、後高校生の優しいお姉さんもいるしさ。俺は今幸福なんだ。それを委員長が気に掛けてくれていて、俺をそこへ導いてくれていたのだと思うと凄く嬉しいよ。委員長は俺にとってのベアトリーチェだよ」


 嶋咲は黙っていた。藤村はさらに言葉を続けた。


「今度孤児院に遊びに来てよ、本当に俺がどれだけ幸福な場所で過ごしているかが分かるからさ。委員長にも見て欲しいんだ。ね?」


 優しく諭すように言うと嶋咲は頷いた。

 二人は放課後孤児院へ向かった。


「藤村ぁ」と子供達は帰ってくる藤村を見るなり駆け寄ってきた。「お姉ちゃん藤村の彼女?」一人の女の子が尋ねた。


 嶋咲は困惑して藤村を見た。


「ああ、そうだよ」藤村は平気な顔で笑っていた。嶋咲は顔が熱くなるのが自分でも分かった。


 その時一人の女の子がわあわあと泣き始めた。その子は藤村のことが好きだったのだ。藤村はしゃがみ込んでその女の子を抱えようとした。


「他の女を抱いた腕で私を抱こうとしないで」と叫んだ。


 何処で覚えたんだそんな言葉と藤村は困惑しながらも、何度も宥めてやり、抱っこして歩き始めた。その女の子は、藤村に顔を見られないようにしながしながら、嶋咲のことを睨みつけていた。嶋咲は可愛らしいなと微笑んでいた。

 それからいつものように絵を描いたり、ピアノを弾いたり、勉強したりしていた。


「藤村ピアノなんて弾けたの?」嶋咲は驚いて聞いた。


「教会で説教を聞いた後にご飯が振舞われれるから、教会にタダ飯食らいに行ってたんだよ。ほら、彼らの信仰の一環で、恵まれない人に恵んであげるってやつさ。それで教会にオルガンがあって、よく教えてもらってたんだよ」


「そうなんだ。藤村ってキリスト教に詳しいもんね」


「ま、俺には信仰心のかけらもないんだけどね。信仰心のある優しい人が親切で好きなだけでさ。まあほんとにみんな親切でさ。当然といっちゃ当然なんだが、優しくなきゃ毎週何を聞いているんだって話だよ。汝、隣人を愛せよってね」


「ピアノすごい上手だったよ。沢山練習したんだね」感心して言った。


「楓の結婚式の時にでも弾こうと思ってさ、練習してたんだ」フッと笑った。


「そうなんだ。吉乃喜ぶと思うよ」


「委員長も結婚式をする時は俺に弾かせてくれよ。カノン弾くからさ」微笑んでいた。


 嶋咲はなんて言おうか戸惑い口篭った。


「本当に藤村の彼女なのかよ」と小学校高学年のくらいの男の子がやってきてつっけんどんに聞いた。


「ああ、そうだよ」平気で嘯く。


「本当かよ? カップルにしては、妙に距離感があるけどなぁ。手も繋いでないし」疑り深い様子で。「彼女いるなんて嘘だったんだろ」馬鹿にしたような表情で。


 それを聞くと嶋咲は藤村の手をぎゅっと恋人繋ぎで握りしめて側に寄り添った。


「どうこれで満足? ハグもする? キスもする? 流石にエッチは人前でしたくないけど、藤村がどうしてもって言うのならしてもいいけど」嶋咲は藤村が馬鹿にされていることに怒り強気に言った。


「いや、疑って悪かったよ」男の子はトコトコ歩いて行った。


 それから藤村は委員長を見送る時に申し訳なさそうに言った。


「ごめんね。孤児院の子ってさ親の愛情を受けられなかった子達ばかりだから、あんなふうに誰かと付き合ってるとかに変に敏感なんだ。それで彼女がいないってなると凄く立場がないというか、揶揄されるというか。俺も情けないんだけど、彼女がいるって嘘ついちゃってさ。委員長には迷惑かけたね。今度別れたってことにしておくからさ」


「別に私は気にしてないからいいよ。そっちの方がここでの生活が上手くいくんでしょ? だったらそうしてよ」


「そっか、悪いね。ありがとう」


「でも、ここでは私、藤村の彼女なんでしょ?」ニヤリと笑った。


「そういう設定にしておいてもらえると助かるかな」


「うしろで隠れて子供たちが見てるけど、別れのキスはしなくても平気なの? あいつらキスもしてなかったって言い触らさない?」目を細めた。


「するかもしれないけど」


「じゃあ、しておいた方がいいんじゃない?」首を傾げた。


「……えっと、じゃあ、フリだけ」


「うん」頷くと目を瞑り、つま先で立ち藤村の肩に捕まり顔を寄せてた。


 藤村も顔を寄せた。唇が触れ合う直前で動きを止めた。互いの鼻息がかかり、二人はこそばゆい感覚だった。嶋咲はこっそり薄目を開けて目の前にある藤村の顔を見た。もういっそ、そのまま本当にしてやろうかと思った。

 藤村は顔を上げ、お互い真っ赤な表情で見つめあった。


「じゃあね、ダーリン。また明日」嶋咲は藤村を揶揄い手を振った。


「ああ、また明日」藤村も大人しく手を振り返した。

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