第1話 ロディ、護衛依頼を受ける
ザイフの街を旅立ったロディたちは、一路王都を目指していた。
王都はラックヒルと呼ばれる街で、ザイフから4日ほど歩いた距離にある。
ラックヒルはザイフから遷都によって新たに王都となった街で、それにより近年街の規模が大きくなり、人口も増加の一途だ。
当然ながら物流も盛んで、連なる街道には人や荷物の流入、流出がひっきりなしなのだ。
そんな王都を目指すロディたちは、途中の小規模な町である、カスバ―にいた。
カスバーはロディたちが出発した最初の街メルクーより人口、規模ともに小さく、どちらかというと田舎っぽいのんびりとした雰囲気の残る町だ。
しかし活気がないわけではなく、薬草などが豊富にとれる森が近くにあるせいか、意外に冒険者も多く見かける。
総じて雰囲気の良い町だ。
「で、ここに用があるんだっけか。」
テオがナコリナを振り向きながら尋ねる。
「そう、ザイフの街を出る際にロスゼマさんから言付かって来たの。ここで薬屋のミレーの店に寄ってくれって。なんでもついでに頼みたいことがあるって話だけど。」
「ミレーって誰なのだ?」
「なんでもロスゼマさんのお弟子のひとりらしいわ。かなり前に独立したって聞いたから、結構お歳なんじゃないかな。」
「へー、兄弟子・・・いや姉弟子か。」
「そういうことになるわね。ちょっと楽しみ。」
ロスゼマはロディたちに『王都に行くんだったらついでの用をやっときな。なに、大した手間にはならないだろ。』と言って、半ば強制的に用事を押し付けていたのだ。
「どんな用だろう?」
「さあ、ロスゼマさんは『行きゃわかるよ』って言って詳しく教えてくれなかったから。」
ナコリナは少し困ったような表情で答えた。いかにもロスゼマらしいぶっきらぼうな感じだ。
「まあ、何にせよ行けばわかるんでしょ。早速行ってみましょうよ。」
エマが明るくみんなの背中を押す。
「ま、そうだな。行ってみるか。」
苦笑交じりにそう言って、ロディたちは町の中を進んでいった。
ミレーの店はこの町では有名らしく、町の人に聞いたらすぐに場所が分かった。教えてくれた町の人の表情は穏やかで、そこからもミレーの店はみんなに信頼されているのがうかがえた。
5人がたどり着いたミレーの店は、普通の薬屋のような構えをしていて普通の人も入りやすそうな雰囲気だった。入り口の上のほうに『ミレーの薬店』と書かれている小さな看板がある。
「よし、入ってみよう。」
ロディたちは扉を開けて店内に入っていった。
店内は明るくも暗くもなく、清潔で、いい雰囲気の店だ。液体や様々な野草などが入った瓶が所狭しと、それでいて整然と並んでいる。
まだ会ってはいないがミレーの人柄が現れているようで、ロディたちはほっとした気持ちになる。
「いらっしゃいませ!」
と、奥から元気のよい声が聞こえてきた女性の声が聞こえてきた。
全員がそちらの方向を見ると、カウンターに年若い女性が笑顔でこちらを向いていた。
見た目から判断すると自分たちと同じくらいの年齢に見える。おそらく彼女はミレーではないだろう。
「すみません、ミレーさんを訪ねてきたんですが、居られますか?」
「えっと、どちら様でしょうか。」
「私はナコリナといいます。ザイフのロスゼマさんから用事を言いつかってきました。」
「ああ、ロスゼマさんからですか。」
それを聞いた女性は合点がいったといったようにパット笑顔になった。
その顔は見る人を明るくする表情で、とても好感が持てる。その笑顔を見ると、この店は繁盛してるだろうな、とロディは自然と思うのだった。
「私はキシリヤといいます。ミレーは母になります。」
「え、そうなんですか。」
キシリヤはミレーの娘だった。ロディたちはキシリヤに自己紹介していく。
自己紹介も終わり、改めてナコリナがキシリヤに問いかける。
「それで、ミレーさんは居られますか?」
「母は残念ながら別の街に出かけていて、数日は戻ってきません。」
と、申し訳なさそうにキシリヤが答える。
「・・・そうなんですか。会えるのを楽しみにしていたんですが、仕方ありませんね。」
姉弟子に会えないとわかり、ナコリナが少し残念な様子だ。だがこればっかりは仕方がない。
ロディは、ミレーが不在ということは、場合によっては数日ここに滞在することになるかもしれない、と考えた。
が、それは杞憂だった。キシリヤが言葉を続けた。
「でもロスゼマさんからの話は私も聞いています。母はいませんが私が対応できますよ。」
「よかった、助かります。」
ロディたちは少しほっと胸をなでおろした。
「ロスゼマさんからの依頼というのは、この薬や材料などを王都に運ぶことです。」
キシリヤから店の裏手のほうへ着連れていかれたロディたちは、小さな倉庫に入った。そこにはおよそ1m四方の大きさの箱が10箱ほど並んでいた。キシリヤ曰く、中には薬品や材料などが詰まっているらしい。
「これはロスゼマさんが何かのためにここに在庫として貯めていたものです。ここはザイフよりも王都に近いからと、母に頼んでここに保管していました。今回ロスゼマさんからそれを王都に運ぶようお願いされています。」
「えっと、これを王都まで運ぶのが仕事ですか?」
これを5人で運ぶにはふつうは無理だ。もちろんロディには『収納』があるのだが、それを大っぴらにしていないし、使うわけにはいかない。
しかしキシリヤは首を横に振った。
「少し違いますよ。ロスゼマさんの手紙には『荷物を運送するのに、ザイフから護衛を送る。彼らを好きに使ってくれ。』と書いてありました。」
「「「「「護衛!?」」」」」
なんと、ロスゼマはロディたちを王都ついでの用事として、荷物運びの護衛をさせるつもりのようだ。5人は顔を見合わせる。5人とも『聞いてない!』といいたげな表情だ。
しかし、とロディは考える。
ロスゼマさんには世話になったし、自分たちが王都に行くには変わりがない。ついでといえばついでだ。
護衛も、冒険者である自分たちには特に問題なく務まるだろう。ただ働きにはなるのだが仕方がない。
「なるほど、わかりました。この荷物の護衛をやります。」
「ありがとうございます。」
ロディの承諾の言葉にキシリアが明るくお礼を言ったのだった。
「ところで、この荷物を運ぶには馬車が必要よね。それは手配は済んでいるの?」
ナコリナがキシリヤに問うと、キシリアは得意そうに胸を張った。
「はい!すでに手配済みです。すぐにでも出発できますよ。」
「あ、でもこの中に馬車を操縦できる者はいませんが。」
「ご安心を。御者のほうも手配済みです。多分もうじき店に顔を出すころですが。」
そう言い終わるや否や、店のほうからキシリヤを呼ぶ大きな声が聞こえてきた。
「キシリヤちゃーん。来たぜー。」




