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エピローグ.1  フェイにもらった魔法の検証 その1

「この辺でいいだろう。」


 そう言ってロディが振り向くと、そこにはおなじみの4人、ナコリナ、エマ、テオ、レミアがいる。


「そうね。周囲からも見えにくいし、何か起きても影響は少なそう。」


 ナコリナがあたりを見渡しながら言い、他の3人は同意するように頷いている。

 

 今彼らがいるところは、山間の少し開けたところ。しかし草木はほとんどなく、土や岩が露出している。少し離れたところに岩壁のような山肌も見える。


 なぜ彼らがこんなところに来たのかと言うと、ロディがフェイからもらった魔法を詳しく検証するためだ。

 フェイから魔法陣をもらったときは旅立ちの準備で忙しく、ゆっくりと魔法を確かめる暇が無かった。そのため彼らはザイフの街を出てから移動する途中で魔法を検証することにしていたのだ。


「お兄ちゃん、フェイさんからもらった魔法陣は2つだよね。」

「そう。光道の魔法陣と、浮遊の魔法陣だ。」

「浮遊って、浮かぶんだよな。なんかおもしろそうだな。」


 テオは浮遊の魔法が興味深そうだ。浮遊は「空を飛ぶ」とまではいかないが、地面を離れて浮くことができる。男子は誰でもそういったものには興味を惹かれる。


「光道ってどんな魔法なのだ?」

「光道は光が一直線に伸びて照らす魔法だよ。かなり遠くまで伸びるので、ダンジョンとか、行く先が暗い場合に先を見通しやすくするんだ。まずはこっちから試そうかな。」


 そう言ったあとロディは顔をナコリナに向けた。


「でもそれを試すなら夜の方がよかったんじゃないか?それにわざわざこんな辺鄙な場所でやらなくても。」


 どうやらこのような人気のない場所で魔法を検証することを提案したのはナコリナのようだ。

 ロディの言葉に、しかしナコリナは首を横に振った。


「ダメよ。ロディの魔法は『規格外』なんだから、他の人に見られないよう、目立たないようにしないといけないわ。それに、ロディの魔法は大体いつもとんでもないことが起きるでしょ。被害が出ないようにしないといけないわ。」

「でも、光道と浮遊だよ。光を照らしたり、ちょっと体が浮くくらいだよ。そんな被害が出るようなことがあるわけ・・・」

「絶対ないって言いきれる?」

「・・・いや、無理かな。」


 ロディは最初に魔法を使ったときのことを思い出す。

 池にファイヤーボールを投げ込んで大轟音を発生させてしまいメルクーの街の噂になったり、さらに池に棲むレインフロッグに2度も追いかけられたりしたのだ。ナコリナの意見を否定できない実績がある。


「ま、せっかくここに来たんだし、早速魔法を試そう。」


 ロディはごまかすように話を変えて、魔法の準備を始める。


 最初に試すのは光道魔法だ。この魔法はフェイにもらった魔法陣の修正はほとんどなかった。少し線のゆがみを修正しただけだ。魔法陣に修正が少ないのは、発見された魔法陣をそのまま写し取っただけだからだろう。

 「魔法陣全集」に載っている魔法陣は、人づてに伝わっていたものを収録したものであるために、多かれ少なかれ魔法陣の変化、いわゆる劣化がみられるのだ。

 その点、発見してすぐに秘匿していた魔法陣はそういった劣化が無いのは当然だ。


「じゃあやるぞ、『光道』!」


 ロディが右手を前に突き出し、手のひらを正面に向けるように構え、魔法を発動させる。

 すると手のひらの先から、直径1mほどの円筒状の光が一直線に伸びて行った。そして30mほど先にある岩壁に当たり、光の円を映し出した。


「へぇ、30m先にも光が届いているな。それにかなり明るいぞ。」


 テオが感心したようにつぶやく。


「昼間でもこれくらいの明るさなら、夜とか薄暗いダンジョンなんかで先を照らすのにかなり有効ね。」


 エマもそう言ってこの魔法に感心していた。2人ともここしばらくダンジョン攻略を中心にやっていたために、その効果を実感できるのだろう。


「ロディ、魔力の減り具合はどう?」

「あんまり減らない感じ。長時間使えそうだ。」

「いい魔法ね。私も覚えられるかしら。」

「普通の魔法師なら覚えて使えるんじゃないかな。」


 光道の魔法陣はあまり大きな魔法陣ではなく、およそ中級レベルだ。使いやすそうな魔法のため、覚えておいて損はなさそうだった。


「で、ロディはそこからさらに魔法を修正できるのだ?」

「うん、そう。」


 レミアの言葉にロディは振り向いて頷いた。

 ロディは覚えた魔法をさらに修正することができる。

 覚えるときには「魔法を最適化」するように赤い線で魔法陣の間違いを指摘するのだが、魔法陣を覚えたあとは「魔法のある部分の特性を強調」させるように修正できる。

 例えばライトの魔法ならば、明るさをさらに強くすることも可能だ。しかしそういった特性を強調させた場合、その分他の性質が犠牲になる。例えば発動するための時間が長くなり、持続時間が短くなり、魔力を大量に消費するようになることもある。つまり「明るさに特化したライトの魔法」というもので、他の性能には目をつぶるしかないのだ。

 ロディが再度修正した魔法はピーキーな特性を持つため、汎用性はあまりないかもしれないが、うまく使えば効果的な使用ができるというわけだ。


「うーんと、可変の部分は・・・と、ここか。」


 ロディは頭に思い浮かんでいる魔法陣のうち、赤く点滅している部分を変えてみる。

 ロディにしか魔法陣は見えないので、ロディが独り言をぶつぶつ言っているようにしか聞こえないのだが、それは仕方がない。


「じゃあちょっとやってみるか。」


 魔法陣を変更したロディは、みんなに背を向けて岩壁の方に手を伸ばす。そして再修正した魔法を発動させた。

 ロディの手から伸びた光は、先ほどより直径がかなり小さい。およそ20cmほどだろう。その光はロディの前方の岩壁の手前にある高さ1mほどの岩に当たっている。

 ロディ以外の4人がぞろぞろと移動して、その岩のそばにやってくる。


「さっきより小さいけど、さらに明るいわね。」

「そう、サイズを小さくしたんだ。」

「その魔法の他の性能はどうなの?」

「うん、どうも結構魔力を消費するようだ。サイズを小さくしたら消費電力が下がるかもと思ったんだけど、逆に明るさが増して、魔力を使っちゃうようだね。」


 ロディは想定が外れたようで、少し残念という顔をしている。


「ふーん。光の感じはどんなもんかな。」


 ここで岩に当たっていた光を見ていたテオが、何の気なしに左手を光にかざそうとした。しかし手が光に触れた瞬間、


「熱ッ!!」

「「「「 !!!! 」」」」


 テオは悲鳴のような声を上げて手を引っ込めた。そして手をまじまじと見ている。


「大丈夫!?」

「どうしたのだ!」

「何があったの?」


 みんなが一斉にテオを見る。テオは顔をしかめながら左手の指を覆うようにしていた。


「ヤバい、この光、すごく熱い。火傷したかもしんない。」


 そう言ったテオの手は、火傷とは言わないまでも、かなり赤くなっていた。


「ヒール!」


 レミアがヒールを唱えると、光がテオに飛んでいき、手の負傷をいやす。


「サ、サンキュー、レミア。」

「魔法に手を突っ込むとか、馬鹿なのだ?」

「バ、馬鹿って言うなよ。・・・光の魔法がこんなに熱くなるなんて思わなかったんだよ。」


 レミアに馬鹿と言われ、テオは悔しそうに反論する。先ほどの手の痛みの顔よりもさらに苦しげに見えた。


「でもテオのおかげで、光を集めると火傷しそうなくらい熱いってのが判ったわ。ある意味名誉の負傷ね。」


 光のサイズを小さくすると、その光が集まってきて、照射されたものを熱くしてしまうようである。レンズなどで集光したら熱くなるのと同じだ。


「じゃあさ、魔物にこの光を当てればいいんじゃない?火傷しちゃうほどなら、結構効果があるじゃない?」


 ナコリナは魔法の使用法を考えるが、ロディは残念そうに首を振る。


「でも魔力の減り方もかなりのものだよ。30秒くらい使ったら2割くらい魔力が減ったよ。これならファイヤーボールの方が効率がいい気がする。」

「2割も減るの?」

「お兄ちゃんの魔力の2割って、相当じゃない?」


 効果はあるかもしれないが燃費が悪いのは悪い材料だ。ほかの魔法で代用ができるなら、使いどころはあまりなさそうである。


 その後いろいろ条件を変えて試してみたが、あまり目立った効果は見えなかった。この光道魔法は標準状態で使うのがいいのだろう、そう言う結論に達しかけた。


「これで終わりにしよう。せっかくだし最後は極限まで小さくしてみるか。」


 そう言ってロディは再び先ほどの岩に体を向ける。最高に小さい光にしたらどうなるのか、ロディは試してみたかったのだ。


「ロディ、大丈夫なのだ?さっきは小さくしたら魔力の使用量が増えたのだ。さらに小さくしたら使用量がものすごく増えるのだ。」


 レミアが心配して声をかける。魔力を使いすぎてしまうと体調が悪くなり、最悪倒れてしまうからだ。


「だけど、気になるから最後にやっておきたいんだよ。大丈夫。俺の魔力量は多いし、それにまだ魔力は十分残ってるんだから。」


 そう言ってロディは皆に笑顔を返す。なにを言ってもやめそうにないロディに、皆はあきらめ顔で見守るしかない。


「・・・よし、行くぞ。」


 ロディが修正した光道魔法を発動させようと手をかざす。皆がかたずをのんで見守る。

 一瞬後。



 キュインンンッッッ!!



 甲高い音とともに、今まで見たことのない強い閃光がロディの手より放たれた。


「うおおっ!?」

「えっ!!!」

「あっ!」

「きゃっ!」

「なに!!」


 あまりの眩しさに手を目の前にかざし、さらに目をつむる5人。

 そして恐る恐る目を開けたが、すでに光は無かった。

 ロディの手から放たれた閃光は一瞬だったようだ。


 ロディは口を半開きの唖然とした表情で前を見ている。


「な・・・何だこりゃ。」

「ロディ!」


 4人が慌てた様子でロディの元へと駆けつけ、ロディの体を心配する。


「大丈夫か、ロディ?ケガはしてないか?」

「あ、ああ。大丈夫、ケガはぜんぜん無い。」


 ロディの言葉と特におかしい所は見られないその様子に、4人はほっとした。


「なんだかすごい光だったのだ。」

「うーん、ここまで光るとは予想してなかったな。・・・で、魔法の効果は?」


 ロディのそして答えを求めて前を見る。つられて4人も同じ方向に振り向いた。その方向にはロディの魔法の標的であった岩があった。

 標的の岩は変わりなくそこにあった。特に変わっているようには見えない。


「・・・あの黒い点は何なのだ?」


 最初に気づいたのはレミア。気づいたのは、岩にある黒い点のようなもの。


「何だ、焦げたのか?」

「うーん、よくわかんないな。」


 5人が岩に近づいて行く。

 最初に黒い点に見えたものが、だんだんはっきりと詳細に見えてくる。それは黒い点ではなかった。

 それがなんであるかわかった5人は、それぞれ驚きと疑問とあきれが入り混じったような表情になった。


「・・・穴があいてる。」


 その黒い点に見えたものは、岩に穿たれた穴。直径1cmほどの大きさで周辺が黒く焼けただれたようになっている。


「ちょ、ちょっと、この穴、反対側まで通じてない!?」


 エマの驚きの言葉通り、その穴は岩を貫通しており、反対側が見える状態だ。さらにその先にある岩壁にも黒い穴が見える。


 つまり、ロディの放った極限の光道魔法は、1m幅はある岩を溶かして貫通し、さらにその先の岩壁にも到達していたのだ。


「・・・ちょっとこれはとんでもないわね。」


 ナコリナがつぶやくように言う。その言葉は他の4人も同感だ。

 これは岩をも貫けるとんでもない威力の魔法だ。魔物であれ何であれ、この魔法をまともに受けたら無事では済まされないだろう。


「すげえぞ、必殺の攻撃魔法じゃねえか。」


 テオが無邪気に喜んでいる。やっぱり男子は「すごい攻撃魔法」とか「一撃必殺」とか、カッコいいものに憧れがあるのだ。

 テオの様子を見て、しかしロディは笑いながらも首を横に振った。


「確かにこれを使うことができれば無敵だね。だけど、残念ながらこれはあまり使えないよ。」

「え、何で?すげえカッコよさそうなのに」

「魔力の消費量が半端ない。この魔法で魔力を半分以上持ってかれた。おそらく俺の全魔力量の半分は使うだろう。」

「!!!」


 その言葉に皆が一様におどろく。

 ロディの魔力量は豊富で、通常の戦闘ではまるで魔力が無尽蔵であるかのように、たくさんの魔法を使用しても平気な顔をしている。かの師匠であるフェイも『ワシよりもはるかに魔力量が多い』と認めているほどだ。

 そのロディの魔力を半分使って放つ魔法。しかも一瞬でだ。威力も桁違いだが燃費も桁違いだ、悪い方に。


「この魔法は、封印しよう。」


 ロディはこの魔法を使用しないことを心に決めた。これは普通に使える魔法ではない。短髪でしか使用できないし、使うためには自分の魔力残量をうまくコントロールしておかなければならない。それに威力が大きすぎる魔法は他者に見られると、いろいろと厄介ごとにもなりそうだ。使わないほうが安全だろう。


「そうね、それがよさそう。」

「お兄ちゃんに賛成。人に見られたらヤなことになりそうだもんね。」

「・・・残念だけど、それがいいかもな。」


 ナコリナもエマもテオも封印するというロディの意見に納得したようだ。


「でも、すごく強い敵が出て、負けそうになったらどうするのだ?使わないのだ?」


 このレミアの質問は、全員が思い浮かべた問いだ。

 この先どのようなことが起こるかわからない。はるかに強い敵と相対することもあるかもしれないのだ。

 それに対しロディは少し考えて、そして笑って答えた。


「そんな時が来ないことを祈るよ。・・・相手のためにもね。」


エピローグなのに話が長くなりすぎたので2回に分けます。すいません。

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