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第61話 ロディ、フェイの願いを受け取る

 いつまでも話をしていたい所だが、いつまでもそうしているわけにもいかない。

 一通りの話題が尽き、その時が来たことを全員が何となく感じたころ、

 おもむろにフェイがロディに言葉をかけた。


「これまでたくさんの別れを経験してきたのじゃが、弟子と別れるのは初めてじゃ。これはなかなかにさみしいもんじゃな。」


 フェイがさみしげにつぶやくように言うと、ロディは師匠を元気づけようと少し明るく言った。


「はい、私もさみしい思いで一杯です。でもみんなにはまたいつか会えると思います。きっとここに会いに来ますよ。」


 ロディの言葉を聞いたフェイは、寂しげな顔にフッと笑みを浮かべた。。


「そうか、また会いに来るか。ならばワシはそれまで頑張って生きておくとしようかの。」

「アンタは殺しても死にそうにないね。」

「お互いにのぅ。ロディが会いに来るならまだ30年は生きるつもりじゃ。」


 ロスゼマの突っ込みをフェイは笑って躱す。

 そしてフェイはスッと笑みを収めて、真剣な顔をロディに向けた。


「ロディよ。最後にワシの願いを聞いてくれぬか。」

「願い、ですか?」

「そうじゃ。」

「あんた、また無理難題をロディに押し付ける気じゃないだろうね。」

「なに、簡単なことじゃよ。未来のロディにとっては、な。」


 フェイの言葉を聞いたロスゼマがフェイに懸念を向けるが、フェイはロスゼマを振り向きながら、何やら含みのある言葉を口にした。


 最後の最後に願いがあるというフェイ。そして『未来のロディにとっては』とは何を意味するのだろうか。少し考えるも、判るはずもないとあきらめたロディは、改めてフェイに問う。


「師匠のお願いならできるだけかなえようと思いますが、どんなことでしょうか?」

「そう身構えんでよい。なあに、お主がこのまま冒険者として進んでいけば、願いはきっと叶えてもらえるじゃろう。そういったものじゃ。」


 簡単とは口で言うものの、今までの言動からロディだけでなく他のみんなもそれを簡単には信じていない。フェイを見つめる目は、程度の差こそあれ疑いのまなざしである。

 そんな目が見つめる中、フェイはその願いを語る。


「ロディ、おぬしは『賢者アルフェイトの弟子』と呼ばれることがあるそうじゃな。」

「ええ、たまにですが、フェイさんが本当の賢者であることを知っている方からそう言われたりします。本当に光栄です。」

「ふぉっふぉっふぉ、小さい小さい。そんな事で光栄など思うておってはワシの願いはかなえられんぞ。」


 フェイの言葉にロディは少し戸惑う。『賢者アルフェイトの弟子』であることが小さいことだとフェイは言い切った。ではフェイの願いとは一体何であろうか。


「ワシの願い、それはな、ワシが『ロディの師匠』と呼ばれることじゃ。お主が『フェイの弟子』と呼ばれるでなく、な。」


 フェイの言葉の意味をすぐにはロディは理解できずに少し考える。


(「フェイ師匠の弟子」と「自分ロディの師匠」、同じ意味のようだけど。「自分の師匠」と呼ばれることに何の意味が・・・)


 少しの時間考えをめぐらすロディ。それをゆっくりと見つめるフェイ。

 ややあって、ロディはその意味に思い当った。


(「フェイ師匠の弟子」とはつまり「フェイ」という人物あっての言葉だ。フェイ無くしてはその言葉は成り立たない。逆に「ロディの師匠」ならば自分が主役となる。つまり・・・)


 ロディはハッと顔を上げてフェイを見た。


「師匠・・・」

「うむ。わかったようじゃな。」


 フェイは優しい顔でロディを見つめている。ロディがこれまで見たことのない優しい顔だ。


「ロディよ、ワシを超えよ。ワシを超える賢者となるのじゃ。おぬしなら出来るはずじゃ。さすればワシは後世から「賢者アルフェイト」ではなく「賢者ロディの師匠」と言われるであろう。」


 フェイが一歩前に歩み寄り、ロディの肩に手を乗せ、強く、それでいてやさしく言った。


「それが、ワシの願いじゃ。」


 その言葉に、ロディは思わず目から涙がこぼれた。

 そこまで、師匠に言われるとは思っていなかった。そこまで、師匠に期待されているとは夢想だにしなかった。


(師匠は、俺を自分を超えることを期待しているんだ。この俺が、師匠を、超えられると・・・)


 ロディは師匠から自分に向けられた想いを知り、熱い感情があふれてきた。

 この別れでは泣くまい、笑ってお別れをしよう、そう思っていたロディだったが、思いもかけないフェイの言葉にロディは涙をこらえることができなかった。


「う・・ううっ・・師匠・・・俺は・・・」


 うつむき、嗚咽をこらえて泣くロディ。一人称が『俺』になってしまったのも気づかない。

 そんなロディを、フェイと、他のみんながロディを見つめていた見ていた。全員、うっすらともらい涙を浮かべながら。




「・・・師匠の願い、確かに受け取りました。」


 しばらくして涙を止めたロディは、顔をしっかりと上げ、まだ赤い目でフェイを見つめて言った。


「いつか師匠の望みがかなえられるよう、精一杯やっていきます!」


 ロディの顔は、心を決めたように晴れやかだった。

 フェイはその答えに満足そうに何度も頷く。


「うむ。うむ。それでこそワシの弟子じゃ。期待しておるぞ。出来ればワシが生きているうちに聞きたいもんじゃ。」

「じゃあ、出来るだけ長生きしてください。30年でも、50年でも。」


 泣き顔のあとの笑顔が、皆の顔に浮かび上がる。



 ロディたちの旅立ち。それはザイフの街のそこかしこで繰り広げられている、数ある情景の中のとある出来事の一つ。

 しかしそれは、彼らにとっても後世の人たちにとっても、決して軽くない出来事。

 過去の賢者と未来の賢者とが出会い、成長し、そして旅立って行くという、永きにわたって語り継がれていくであろう、印象的な出来事であった。


       第4章 完

◇◇◇◇

あとがき


これで第4章は完了です。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

楽しんでもらえたでしょうか。

 このあとはエピローグと、ショートストーリーを出す予定です。

その後、少し時間がかかりますが、第5章を製作する予定です。


本作品のブックマークやご評価いただけましたら嬉しいです。

また、知人に作品を紹介いただけたら、さらに嬉しい限りです。


 今後ともよろしくお願いします。


灯火楼

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