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第24話 ロディ、ボコボコにされる

 それ以降不審な男の件については、ロディは何もしなかった。というよりできなかった。

 その男が怪しいとはいえ、明確な証拠はない。その男自体もすぐに人ごみに紛れてしまい探しようがない。

 もやもやする事ではあるが、今はどうしようもないため、ロディはとりあえず保留することにしたのだ。


◇◇


 フェイとの剣の稽古でのこと。

 相変わらずフェイにあしらわれてはいるのだが、ロディが日に日に上達しているのは実感できている。

 何より練習を重ねれば重ねるほど、ギフトが見せる『赤い影』の動きに自身の動きが近づいているのがわかる。これはロディにとって励みになっていた。



 その日はロディの調子が非常によく、フェイの木剣に対等に近く打ち合えていた。


「ほほう、今日はなかなか調子よさそうじゃの。」

「ええ、今日こそ一本取りますよ。」

「威勢がいいのう。果たして出来るかの?」


 剣を振りながら2人は会話をする。ロディは最近は稽古中に会話をできるくらいには余裕を持つことができている。だがまだにフェイの体に剣が届いたことはない。今日こそは、とロディは気合を入れる。


 ロディがフェイの剣をいなし、すぐに剣を翻してフェイに向かって打ち込む。いつもの剣の流れではあった。

 が、その時は違った。


「!」


 不意にロディは、剣が体ごと引っ張られるかのように感じた。何に引っ張られたのか?それは、あの赤い影に。

 次の瞬間、


パシッ!


「ぬおっ!」


 フェイが驚きの声を上げた。対するロディも驚きの表情で自分の剣を見ていた。

 ロディの剣はフェイの剣を見事に弾き、そして剣先をフェイの目前に突き付けていた。


 カラン、とフェイの木剣が転がる音がする。

 しばらく動かなかった二人だが、ようやく状況を飲み込めたロディの顔が次第に喜びの表情に変化していった。


「いまの、一本・・・一本取りましたよね。」


 それを聞いたフェイは、少し微笑んで言った。


「うむ、一本じゃ。」

「や・・・やった!フェイさんから初めて一本取ったぞ!」


 喜びを爆発させるロディを傍目に、フェイがややうなだれたように言った。


「しかし、これほど早く取られるとは思わなんだ。むぅ・・」


 フェイの言葉には少し悔しそうな色合いがにじみ出ていた。


「しかし、さっきの剣はいきなり早くなったように見えたぞ。まるで瞬時に加速したようにじゃ。」


 すぐに気を取り直したように、フェイは先ほどの動きに違和感があったことを聞いてきた。


「あ、それはギフトのおかげじゃないかと思います。」

「?どういうことじゃ?」


 ロディはフェイの疑問に対し、まるで体が赤い影に引っ張られるように感じたことを告げた。


「ふむふむ、ギフトが体を動かしたのか。・・・もう一度できそうか?」

「やってみます。」


 フェイの質問に応え、ロディとフェイは再び木剣を握って練習を始めた。

 しかし、


「あれ・・・全然引っ張られる感覚がない・・・。」


 いくら剣を振っても、先ほど感じた赤い影に引っ張られて追いつく感覚が再現しなかった。

 ロディには訳がわからなかった。てっきりギフトが成長して、自動で体を動かしてくれるようになったのではないかと思ったのだが、どうやら違うようだ。

 戸惑うロディに、フェイが納得したような表情で言った。


「おそらくギフトが成長したのではなく、ロディ、お主が成長したからじゃな。」

「え?それはどういうことですか。」

「ロディのその赤い影にはお主を引っ張る力はたしかにあるんじゃろう。しかしその力は実は小さく、おぬしの体が赤い影に近くなってようやく発揮されるんじゃないかの。」

「・・・」

「お主の剣技が成長し、赤い影と体がマッチしてきた時にアシストで影に引力が発生するんじゃろう。さっきワシから一本取ったのはロディの会心の打ち込みじゃたから体が赤い影に近くなり、影から引力が発生して引っ張られたように感じたんじゃ。そのあとの稽古では、会心の動きからはやや劣るために赤い影とのずれが大きく、引力が発生しなかったんじゃろう。」

「な・・・なるほど。」


 ロディとしては、ギフトが成長したことではないのは残念だが、自分が成長したためにギフトの力を引き出せるようになったのは嬉しい事だった。まだたった1回ではあるがフェイから1本取ることができた。これは自分が成長しているからだ、とわかり喜びが込み上げてきた。


「さて、ワシから1本取ったことでロディの剣は冒険者としてBランクギリギリに入ってきたと言ったところじゃろうな。」

「はい!ありがとうございます。」


 ロディはフェイに認めてもらえたことで嬉しそうに返事をした。が、フェイの言葉は新たな地獄の始まりとはその時はわからなかった。

 次のフェイの言葉にロディは固まった。


「これから稽古は1段階上げようかの。」

「・・・はい?」

「ワシはこれまでBランク程度の力で稽古をつけておったのじゃよ。」

「は・・・はあ。」

「これからは、ワシはAランクの力でロディに稽古をつけることにする。」

「・・・え!?」


 ロディの目にはにやりと笑うフェイの顔が映った。その微笑は、笑っているようでそれでいて恐怖を感じる。


「これからもっと稽古して、もっともっとロディの力を引き出してやろうかのぅ。なんと、ワシはとてもやさしいのう。」

「・・・ひょっとして一本取られたこと、怒ってません?」


 そう聞いたロディに向けたフェイの顔は、笑ってはいたがロディには悪魔のように見えたとか。


「まさか、そんなわけなかろう。ロディの成長をワシは喜んでおるよ。殊の外にのう。」


 フホホと笑うフェイを見て、ロディは「これは今日はまともに帰れそうにないかも」と、半ばあきらめの境地だった。



 Aランクの力を出したフェイはこれまでとは比較にならないほどの強さで、ロディがとても太刀打ちできるものではなかった。

 そしてロディの動きに近づいてきていた赤い影は、フェイが動きのレベルを上げたことで最適値が変わったためにロディの動きから離れていってしまい、全く追従できなくなってしまった。

 結局、その日はロディがフェイにぼこぼこにされて終わったのだった。

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