第16話 ロディ、土魔法の使い方を聞く。ついでにフェイのお願いを聞く
フェイによる魔法講義は多岐にわたる。
魔力索敵だけではなく、初級や中級、様々な種類の魔法にフェイなりの知見や工夫がある。そしてフェイはそれを惜しげもなくロディに教えていった。
「今から初級のサンドウォールの強度を増す方法を教えよう。」
この日は土魔法についての講義だ。
「サンドウォールはそのままでは簡単に崩れてしまい一時しのぎにしかならん。もう少し強度があれば戦闘だけでなく、休息時の壁としても使うことができるんじゃ。」
「なるほど。」
フェイの言う通り、初級のサンドウォールはかなりもろい。中級のハードウォールならばかなり硬いが、使用魔力が多いため使える者は少ない。
「さて、どうすればサンドウォールを長持ちさせることができるじゃろうか。わかるかの?」
と、フェイはロディに質問してきた。
フェイはよくロディにこのような質問する。ただ単に答えを教えるだけではなく、一度自分なりに考えてみさせることにしているようで、これもフェイの教育方針のようだ。
サンドウォールの改良策を問われ、ロディはしばし考えこむ。
(サンドウォールか。もう一度サンドウォールを発動しても意味なさそうだな。同じ土魔法のストーンバレットを打ち込んで内部強化・・・いや、衝撃で壊れるのがオチだ。土魔法じゃ無理かも。ならば、他の魔法だろうか・・・。)
考え込むロディをフェイは穏やかな表情で見つめている。
やがて、ロディは一つの可能性を思いつき顔を上げる。
「・・・水魔法、ですか?」
「うむ、そうじゃ。」
ロディの答えにフェイは満足そうに頷く。
さっそくフェイがサンドウォールを発動し、土壁を作る。
しばらくすると土壁は自重に耐えきれないかのようにボロボロと崩れ始めた。
「このように、サンドウォールは少し経てば魔力が薄れて崩れていく。魔力を供給し続ければまだ持つんじゃが、弱いサンドウォールにずっと魔力を使い続けるのはあまり意味がないじゃろうな。」
そう言うと、フェイは再びサンドウォールを作り出す。
「そこで水魔法じゃ。ロディや、ウォーターボールを出してみなさい。」
ロディは言われるままにウォーターボールを作り出した。
「そのウォーターボールの水をサンドウォールに吸わせるのじゃ。」
ロディはウォーターボールを土壁に近づける。土壁に接触した水はみるみる吸い込まれていく。ウォーターボールは1つでは足りず、合計5個ほど作り出し、吸い込ませた。
その後、離れてサンドウォールの様子を見る。
かなりの時間が経ってもサンドウォールは壊れる気配がない。フェイの言う通り、サンドウォールは強化されているようだ。水が土の間に入り込み、一種の接着剤の役割を果たすためだろう。
「とまあ、こういう感じじゃ。水を吸わせるだけでかなりの時間原形を保てるほど強化できておる。
無論、すごく硬くなったわけではないので戦闘に使うにはまだ不向きじゃが、一晩の休息のための壁としてならば十分持つじゃろう。」
冒険者はダンジョンや森の中などで野宿をする場合が多い。その場合ほとんどが何もないところで雑魚寝する場合がほとんどだ。ならばテントなどを持っていけばいいじゃないかと思われるが、テントなどの居住設備は荷物としては大きい。出来るだけ身軽な方が冒険するうえでは有利なため、獲物を求め、持ち帰る必要があるダンジョンなどではテントは持たないのが普通だ。
その時、サンドウォールとウォーターボールで一晩持つ壁が作れれば、物理的にはともかく少なくとも精神的に安心感を得ることができる。
しかもこれは、ランクの低い冒険者でも使うことができる魔法なのだ。少しの工夫で安心感を得ることができるし、突然野宿の必要が出来た時に際してもかなり有効な方法だ。
「これはいいですね。使ってみたくなります。」
ロディは素直に感心していた。
無論ロディには初級でも非常に硬い修正魔法のサンドウォールを持っているため、使う場面は少ないだろう。しかしフェイはこういった誰でも役立つ工夫を考えてきた。常に冒険者たちの目線に立っているのがわかるので、そこは感心するところだ。
「それと土魔法と水魔法の合わせ技じゃがな。実はもう一つ、とっておきの使い方があるんじゃ。」
「とっておきですか?」
どうやらサンドウォールと水魔法にはまだ使い道があるらしい。しかもとっておきだという。
「この方法は傑作じゃぞ。場所は選ぶが戦闘にも使えるし、相手次第では非常に有効な手段となりうるのじゃ。」
そう言ったフェイは、かなり人の悪そうな笑みを浮かべていた。
「どんな方法ですか?」
「それはの・・・」
フェイはロディにその魔法の使い方を教えた。それを聞いてロディは、あきれた顔をフェイに向けた。
「そんな方法・・・」
「どうじゃ、有効じゃろう?」
「・・・確かに。」
その方法は、フェイが『傑作』というだけあってかなりの効果が期待できる。しかしなんとも『意地が悪い』使い方だ、とロディは思った。
「使ったことはあるんですか?」
「何回かは試しにな。もっとも、これまで手こずる魔物に出会ったこともないから使う必要はなかったがのう。」
どうやら既に使用済みらしい。そのうえで「使える」と言っているのだからやはり有効なのだ。
「しかしハマれば間違いなく効果絶大じゃ。土がある場所で、相手が空を飛ばなければ、という条件じゃがのう。」
そう言ってフェイはカラカラと笑うのだった。
「ところでのう。」
話題を変えるようにフェイがまじめな顔をしてロディに向いた。
「ロディにお願いがあるんじゃが。」
「お願いですか?」
フェイがこれまでロディにお願いなどしてきたことなど記憶にない。何か重要なことなのだろうか、とロディは心構えをした。
「なんでしょうか。」
「うむ、重要なお願いじゃ。」
フェイがキッと眼力を強めてロディを見、ロディは喉をごくりと鳴らす。
「ロディよ。」
「・・・はい。」
「ナコリナちゃんをお茶に誘ってくれんか。」
「・・・はい?」
「最近あまりナコリナちゃんと会っておらぬ。じゃからちょっとお茶でもして楽しく語り合う時間が欲しいのじゃよ。おっと、できればエマちゃんも誘うてくれるとなお良いぞ。」
フェイのお願いはナコリナとエマへのお茶のお誘いだった。
それを聞いたロディは緊張が一気に解け、その分脱力感がやってきてへたり込みそうになったのだった。




