第14話 ロディ、フェイからの教え(1)
「ロディに新しい魔力の使い方を教えよう。」
それから1か月を過ぎたころ。
ロディはフェイの教える基本的な魔力と魔法の座学の理論はすでに学び終えた。以降は実際のに使えるように実践的なことを教わっていく段階だという。
「ありがとうございます。」
ロディは新たな段階に進んだこと、そしてフェイから高い段階の教えを受けることにワクワクしながら言った。
「それで、どのような使い方ですか?」
「うむ、ワシが編み出した魔力の使用方法は数多あるが、まず教えるのは『索敵』じゃな。」
「え、索敵?」
「索敵」と聞いてロディは少しがっかりとした。なぜなら索敵はロディはすでにスキルとして習得している。まだ取得していない能力を期待していたロディは、その気持ちが顔に出てしまった。
が、フェイはそんなロディを見てややたしなめるように言った。
「お主がすでに索敵を取得しておりことは知っておる。が、ワシが教えるのは魔法で誰もが使うことができる索敵ではない。」
「え?」
「ワシが編み出した『魔力による索敵』じゃぞ。その能力は魔法の『索敵」よりも優れておるに決まっているであろうが。」
「そ・・・そうですね。失礼しました。」
ロディはこのひと月のうちにフェイの実力をいやというほど知らされた。なので魔法や魔力などに関してフェイを疑うなんてことはできようはずもない。そのフェイが『優れている』と言っているのだ。教えてもらえる『索敵』は間違いなくすごいものだろう。
「無論、簡単にできるものじゃないからのう。使えるようになるまでビシビシいくぞ。」
「・・・はい、わかりました。」
ロディはこれから始まる新たな訓練に大部分の戦々恐々と、少しの楽しみを心に抱くのだった。
「まず魔法の索敵じゃが、ロディよ、一度やってみるがよい。」
「はい。」
フェイに言われてロディが索敵魔法を発動する。
魔法の索敵はおよそ半径50m。地下訓練場を完全に覆うには少し足りない。それでもかなりの範囲である。
索敵の発動を終えたロディにフェイが訪ねた。
「どうじゃ、何か気づいた点はあるか?」
「気づいた点?いえ、いつもの索敵だし、特には・・・」
「ま、それが『索敵』と思うておるからしかたないのう。質問を変えようか。索敵の不満点や改善してほしい点はないか?」
「不満点?・・・」
ロディはフェイに言われてしばらく考え始めた。
そしておもむろに口を開いた。
「そうですね。まず、索敵が終わるまで時間がかかります。」
魔法の索敵は1回の発動でに10秒間かかる。その間に50m半径の範囲を認識し、その状況を発動者に情報として伝達する。つまり索敵を発動してから情報を得るまで10秒のタイムラグがあるのだ。ロディはこの10秒を問題視していた。
「ふむ。それだけかの?」
「そして、相手の動きがわかりません。」
「そうじゃな。」
ロディの指摘した点に満足そうにうなづく。
索敵は『ある時点での情報』を取得するただけであるため、相手が動いている場合には得られた情報からすでに違う場所に相手がいる場合がある。
だから索敵は、遠距離にいる敵に対しては効果を発揮できるのだが、相手が近くにおり、かつ動きが早い場合にはその効果はかなり下がるのだ。
「その不満はかつてわしが冒険者時代には常に抱いておったんじゃよ。じゃからワシは研究したのじゃ。もっと効果的な索敵方法はないのかと。」
フェイはそこまで言うとロディに顔を向けてにやりと笑った。
「今からロディに教える魔力『索敵』はそれらの不満点を克服したものじゃ。その分習得も難しいからの。心の準備はよいか?」
「はい、ぜひともお願いします。」
すぐさまロディは目を輝かせながら言った。話を聞いただけでもすごい性能だとわかるのだ。ロディの魔力索敵への気持ちは、訓練の辛さを凌駕していた。
「よし。ではまず魔力を自分の体外に出すのじゃ。出す量は今は適当で構わん。」
そう言われたロディは、体から魔力を放出する。
「その魔力を1か所にまとめるようにせよ。」
フェイは体外に放出した魔力を集めるように指示する。体内の魔力に比べて外に放出した魔力を操作するのはかなり難しい。
しかしこれまでファイヤーボールのコントロールなどで修練を積み重ねていたロディは難なく自分の魔力を体の前に集めることができた。
「うむ、さすがにできるようじゃな。じゃが本題はここからじゃ。」
フェイはロディの魔力操作にうなづいてから、さらに課題を出してきた。
「魔力を横に細長いひも状にせよ。そして体の周りにぐるりと回して輪の形にするのじゃ。」
ロディはフェイの指示する通りに細長いひも状に魔力を変形させ、さらに体の後ろで端と端をつなげようとした。
しかしこの作業は、魔力操作に長けたロディでも一筋縄ではいかなかった。魔力を任意の形に形成するにはまとめている魔力を細分化してそれぞれコントロールしなければならない。それは細分化するにつれて困難さが増す。
ロディはコントロールに四苦八苦しながらも魔力を細く形作ろうと時間をかけて頑張った。
ようやくロディが魔力の輪をどうにかくっつけることができたのは、操作を開始してから1時間たったことだった。
「ふむ。太かったり薄かったりと不格好ではあるが、まあよかろう。」
「は・・・はい。」
何とかフェイから合格をもらったロディだったが、1時間も連続して魔力操作を行ったために疲労困憊でへたり込んでしまった。
「しばらくはこの魔力の輪を作る練習じゃな。素早く作れるようにせよ。目標は1秒じゃ。」
「え、1秒!?」
「そのくらい早く作らんと役に立たんぞ。それと、ひもの魔力は均一に作るよう心掛けるのじゃぞ。」
「は・・・はい。」
フェイの無茶振りとも思える指示を聞いて、ロディは荒い息のまま仰向けにころかった。
天井を見ながら、できるようになるのはどれだけかかるのだろう、と思わずにはいられなかった。
◇◇
ところが、予想に反してロディは短期間でフェイの指示通りの魔力の輪を作り出すことができるようになる。
それにはロディなりの工夫が功を奏したのだ。
最初は魔力を出してそこから細いひもを作り出すようにしていたが、その方法を変え、小さな魔力をいくつも作りそれを繋げるようなやり方にしたのだ。これなら魔力を変形する工程を減らし、かつ均一さも確保することができるようになった。
これで最初の方法よりはるかに早く、かつ均一な魔力の輪を形成することができた。あとは素早く生成する練習を重ねるだけ。
1週間後、
「できました。フェイさん、どうですか?」
作り出した魔力の輪をフェイに見せてロディはその出来を聞いた。
フェイは、出来上がった魔力の輪を見て驚きと満足とが入り混じるような目をロディに向ける。
「・・・うむ、合格じゃ。」
「やった!」
ロディはガッツポーズをした。1週間前には想像すらできなかったが、やればできるのもだ。フェイの教えを順調に消化してきている手ごたえを感じていた。
「いやはや、予想以上じゃな。ワシはここまでできるのに1か月は優にかかるじゃろうと思っておったが・・・。」
フェイはつぶやくように言うと、喜ぶロディに向き直り、そして満面の笑顔を向けた。
ロディはしかし、そのフェイの笑顔に不吉なものを感じて動きを止めてフェイを見る。なにを言われるのだろうかと不安顔で待つロディに、案の定フェイの口から無茶が飛び出てきた。
「これなら次はもっと早くできるじゃろう。もっとハードにスケジュールを変えんとな。」
「え・・は、はいぃ?」
笑顔のままフェイはさも当然のように、訓練のハードルを上げる宣告をしたのだった。




