57話
南部新領地アレク領
「師匠、大変です。大変です。」
「今は、ブレストに居ないから平和だよ。」
「難民が、押し寄せてきてます。」
「難民なんて、いつもの事でしょう。」
「違うんですよ、グラムット帝国からの難民なんですよ。」
「な、なんだって。そんなに来てるの。」
「500人はいると思われます。しかも難民は、女子供が多いようです。」
「リック、君に特命だ。難民を救え。以上。僕は他に仕事があるから。」
「・・・そんな訳に行くわけないでしょう。さあ、行きますよ。」
「いやだああぁぁ、ガレオン号の改造が・・・・」
避難民が集まる場所に、アレクとリックは来ていた。
「ここの、代表者は居ますか。」
「はい、私が、この避難民の代表をしています。ジョアンと申します。」
ジョアンになぜ、グラムット帝国から避難民が来るのかの説明を求めた。
グラムット帝国は、近隣の国に侵略して大帝国になった。帝都を中心に、忠誠心の厚い者たちが帝国の内側に領地を持ち、グラムット帝国の国境付近の領地は滅ぼした国の貴族たちを、領地替えをして侵略の戦力にしているようだ。
ミルトン王国との戦争で負けたのは、滅ぼされた国の兵力であった。グラムット帝国は今回の戦争で、敗北したミルトン王国に隣接している貴族領を切り捨てたのだ。
その地域にいたグラムット帝国の監視役、主要戦力は、貴族領から撤退していった。貴族たちは、固有の軍隊を持っていない為、領地が無法地帯となり、収拾がつかなくなっている。それでこの避難民たちは、食料と安全を求め、この地まで来たという。
アレクは、黙っていた。
アレクの思考が、警戒音を鳴らしていた。
グラムット帝国の戦略が、見えてくるからだ。グラムット帝国の領土は広い、この南部で一番の大国だ。
一部の土地を放棄したところで影響はない。寧ろ有益に働く。グラムット帝国は放棄した地域を無法地帯として、オリオン家とミルトン王国に、負担を掛ける事に戦略の変更をしたのではと思うのだ。。
グラムット帝国は、放棄した地域はいつでも取り返せる。グラムット帝国の貴族領なのだから。
だが、オリオン家とミルトン王国は隣地に無法地帯があれば、領地を守るために対応しなければいけない。
下手に介入したら、グラムット帝国から難癖をつけられるだろう。
アレクは、避難民たちを保護することを決める。
追い返す訳にはいかないからだ。臨時の避難民、逗留地区をつくり、対応することにした。
対応をリック隊に任せ、ジョアンに落ち着いたら、今後の事を話そうと伝えその場を去った。
アレクはガレオン号に乗り、急ぎオリオン領都に向かった。
「父上、お話があります。」
「どうした、アレク。話なら通信機があるだろう。」
「重要なので、通信機では話せないことです。」
ハロルドは、真面目な顔つきになり、デリックとエレメルを呼び、4人で話すこととなった。
「南部の領地に、グラムット帝国から避難民が500人ほど来ています。」
アレクは、避難民への今の対応、グラムット帝国の戦略等の自分の考えを3人に伝えた。
「アレク、話は分かった。お前が態々、この領都まで来たのだ、解決策を持ってきているのだろう。」
「父上、その前に確認しておきたいことがあります。ローエム王国は、山脈より南はすべて父上が采配出来ると考えで間違いないでしょうか。」
「そうだ、山脈より南の采配等のすべて私が出来る。だが私は、ローエム王国の貴族だ。ローエム王国の利益に反することはしないぞ。」
「はい、あります。少し無茶な、部分があるかもしれませんが。」
3人の顔が、真っ白と真っ青と無表情になった。
「僕の考えている今後の対応ですが・・・・・・・」
アレクは、「無法地帯にいる、グラムット帝国に滅ぼされた国の貴族に、建国させてそれを支援する。
そして、南部をまとめることを、提案したのだ。ミルトン王国、無法地帯の国、オリオン家をローエム王国の属国にしてしまいましょう。
属国とすれば、ローエム王国を主君と出来ます。ローエム王国に献上名目で税も払えます。
属国同士で同盟を組めば、グラムット帝国に対抗も出来るでしょう。相手は南部一の大国ですから。
問題になるのが、オリオン家です。国ではないので、力があっても、色々と支障が出てくるでしょう。
なので、思い切って、オリオン領南部地域をオリオン王国にしましょう。」
「「「はあーー?。」」」
アレクの説明は続く。
「ローエム王国に対して、配慮もしなければ了承も取れないでしょう。税の件ももちろんですが、地位も重要です。属国の貴族は、一段低くしましょう。例えば、ローエム王国の伯爵なら、属国は子爵扱い。子爵なら男爵となります。幸い、南部は準男爵がありませんので、うまく調整出来るでしょう。
後は、父上がローエム国王陛下に承諾をとれば完了です。」
「あっ、ミルトン王国と貴族の建国は、僕も協力します。」
「協力だぁ、当たり前だ。お前の提案だろう。」
「あ、いや、ほら父上はオリオン家当主ですから、ね。」
「何が、ね、だぁ。」
ハロルドは、怒っているが、解決策としては悪くないと思っていた。思うのと、ローエム王国に対しての働きかけ、説得は別物である。
頭が痛くなり、一時休憩となった。
2時間ほどの休憩をとり、再び集まった。
「アレク、ローエム王家の承諾はとる。だが、失敗は出来ないぞ。もし失敗したら、ローエム王国はもちろんオリオン家も信用と信頼を失う。」
「それに、今はオリオン家には、兵もいないぞ。出来るか。」
「大丈夫です、デリックもいるし。」
デリックはやな顔をする。アレク、ニヤける。
「すべては、ローエム王国の承諾をとってからだ。」
ハロルドは、急いでローエム王国王都に、青い彗星号で飛びたっていった。
数日後
ハロルドは、疲れ切った、老けて、帰ってきた。
「父上、何かありましたか?疲れてますよ。」
アレクは、この数日間、気ままに、のんきに過ごしていた。ハロルドの事を忘れていたのだ。
ハロルド、ため息も出なかった。 ガックリ。
会議室
「ローエム王国との話合いの結果、承諾は取れた。が、条件が多少変更、いや追加になった。」
「ローエム王国の第二王子がいてな、その子に国を持たせる。ローエム王国として、いくら属国にするといっても国は国だ。南部に確実な影響力を残したいのだろう。
あとはオリオン家は公爵になる。南部には公国として建国する。今の北部は、ローエム王国の貴族領となる。
変更は、南部のみだ。」
「山間の迷宮都市はどっちになります。」
「迷宮都市は、ローエム王国内となるな。
属国の献上税は、国の税収の5%となる。オリオン家には、今までより安くなるな。
あと細かいことは、その都度確認してくれ。」
アレクは、ハロルドたちと打ち合わせを念入りに行い、南部に戻っていった。