第1の災厄の街
武器を整え、道具を揃え情報をアリスを通じて手に入れる。今回予想される場所はこの王国と隣の連合国との東側国境付近にある小さな山岳地帯の街「アーラム」だった。王の話ではアリスの転移魔法で災厄が発生し次第移動を開始。展開し状況を確認するらしい。
「俺にはなんの情報もないってことは勝手に行って勝手にやっていいって事か?」
「そうなんじゃない?」
「あっそ。まぁ、従う気もないがな。」
「ほんと嫌われてるわね。何したの?」
「何も?人様勝手に召喚しといて『お前使えない』とか言われただけだけど?」
「そう……。大変だったのね。あの王様高圧的で私も苦手。」
「取り敢えず了解。」
「何があるか分からないからお互い気をつけないと。」
「王国とて一枚岩じゃないのは既にわかったことだしな。」
クソみたいな派閥が熾烈な争いを繰り広げていることは理解出来た。そのうち襲ってくるかもしれないが降りかかる火の粉は払うまでである。
「主ー話は終わったか?」
0歳児が駆けてくる。その手にはよくできた人形が握られている。
「あるじ?えと、その子は?」
「あ?あぁ。俺があの迷宮で看取ったドラゴン……かな」
「……死んだドラゴンが……少女の姿で……勇者に……?」
「あぁ。まぁ、ドラゴンって奴は死なないらしい。というか大人になって死ぬ時に次の肉体を産み落として思念体をその体に移すそうだ。」
「で、あのドラゴンが何故か人の姿であなたの元に来たと?」
「いや、朝起きたらいた。」
「……そう。まぁ戦力が増えるのはいい事ね。」
しかし、リンはルウと神殿に行ったはずだが何かあったのだろうか?
「おう。リン、ルウはどうした?」
「ん?ルウならまだ神殿にいるぞ。話し合いが終わっているなら連れてきてくれと言われている。」
「わかった。」
「じゃあまた明日。」
「死ぬなよ?」
「もちろん。」
知り合いに死なれると目覚めが悪いからな。それはそうと神殿は俺に何の用だろうか。取り敢えず警戒しておくとしよう。
「ルウー連れてきたぞー」
「あぁ。ありがとう。ユウ様、今回の災厄の位置が特定出来ました。今から向かえば災厄の始まりに遭遇し被害を抑えられます。」
「なるほど。準備は出来ているのか?」
「えぇ。先程。武具と装備品、消耗品、食糧、あと、ユウ様の注文のあった品を預かってます。」
「ありがとう。では行くとするか。リン」
「了解なのだ。」
「建物の中で大きくなるなよ?」
「分かっている。」
王都の連中にリンの本来の姿を見せる訳にもいかない為、外に出て森の中で変身してもらう。すると、翼を広げて20メートル程の黒い竜が現れ、降り立つ。
「でかいな」
「これでもまだ幼体だ。まぁ、そんじょそこらの魔物には負けないがな」
「さてと、それじゃあリン。まずは王城に向かってくれ。」
「え?何故?」
「ちょっと大事なもの忘れちゃったからな」
「……。」
「白状するなら王城は破壊しないでおいてやるぞ?」
ルウを見やるとそこには小さな蜥蜴がうろちょろしている。
「解放しろ。そして二度と仲間に手を出してくるな。次はねぇぞ?」
殺気を放つと蜥蜴は頷くような素振りを見せ、消え去る。
「あ、あれ?ユウ様?」
「お疲れ。これからちょっと災厄が起きると予想されている街に行くぞ」
「は、はい。リンよろしくお願いします。」
「……どこで気づいたのだ?」
「まぁ、音かな。ルウから2つの心音が聞こえたからな、何かされた可能性を考えてカマをかけたって感じだ。予定通り東に向かってくれ。」
「了解した。」
視界の時計には既に残り11時間と表記され、だいぶ逼迫している。眼下に広がる森と山岳に心奪われ異世界捨てたもんじゃないなと思い始めていた時、ルウが生まれて初めての高高度に怯え気絶した。
「主は強いな。この高度になると鳥や魔物も空気が薄くて気を失うというのに」
「そうなのか?まぁ、確かに空気は薄いが……。」
「む、この気配……。気をつけろ主。なにか来る。」
「あぁ、そのようだな。魔導師や魔道具を使って空を飛ぶことは可能なのか?」
「いや?我の知る限りそのようなことは無いはずなのだが。」
こちらが向かっているからかあちらが向かってきているのかは不明だが一応隠蔽スキルで隠蔽を施し、アーラムに着陸する。街は鉱山業に栄え、トロッコや労働者と思しき人々が行き交い、露店では拳大の功績などが陳列され、活気に溢れていた。
「ここが……災厄の街?」
「おう!旦那。見ねぇつらだな。観光かい?」
「あ、あぁ。」
気さくに話しかけてきた露店の商人と軽く雑談を交わしながら取り敢えずこの街の権力者の元へたどり着く。
災厄は既に始まっていたことなど知る由もなく。
後日主人公の得たスキル等を公表します。