閑話【国の犠牲者】
ここは一体どこなのか……。
既に時間の感覚は無く、暗くて狭い場所にいるということだけが分かっている。手には壁に繋がれた鎖、足には重そうな重りのついた足環。自由に動くことは出来ない。定期的に揺れが伝わり、たまに止まっていることから移動しているのは分かる。私自身軍の人間に拘束され、ここにいる。つまりココは軍の移動設備という訳だ。何故私が拘束されたのかは察しがついている。
この世界には数万人に1人程度の割合で魔力が桁違いに多い人間がいる。そうした人間は魔法が普通の人より強力に使えたり、魔道具を長く使うことが出来る。魔力の放出量が多ければ多いほどより強い力が行使できる。
私は生まれつき魔力が多かった。それを見た両親は私を軍に引渡し、魔法兵として志願させた。しかし、実際私の魔法適性は光属性だった。その上治癒魔法が1番得意で、戦場に出されるならまず衛生兵となるだろうとも考えていた。だが、魔力量測定検査の時、私の常識の全てが置き換えられた。私も数万人に1人の魔力量が桁違いだったのだ。その日から全てが変わった。授業も攻撃魔法系になり、訓練もより実戦的ものに起き代わった。そうして国は1人の兵器を生み出したのだ。
当然そんな事他国に知られれば私の身を狙ってくるだろう。だから今回私は戦争のきっかけ作りに利用された。
軍部のシナリオは恐らくこうだろう。
他国のスパイに新兵器運搬移送の話をチラつかせる。そして、その兵器を奪取しに来た国と戦争を始める。
最近は隣国スレイブ教主国が世界各国と摩擦を生んでいた。それに乗じて我が国は戦争のきっかけを作り、スレイブ教主国に眠る地下資源を頂いてしまおう……と
計画はご立派だが、果たして成功するのか……と内心は思っていた。だが、先程から車内が騒がしいので、恐らくどこかしらの勢力が手を出してきたのだろう。
「チッチ」
「……ネズミ……?」
「チッ」
「どこから乗ったか知らないけど、この列車は危険だよ。早く降りた方がいい。」
話しかけたとて相手はネズミ。こちらの話を理解しているとは思わないが暗闇の中で少し心細かったのかもしれない。私がいるのは機関車両の一番奥。元々は燃料庫だったはずだが、私がここにいるだけで燃料は申し分ない。そのくらいの魔力は勝手に放出されている分で事足りる。
しばらくすると爆発音が聞こえ、列車が大きく揺れる。どうやらだいぶ強行的な手段に出たようでそのうちここにも誰か来るのだろう。
爆発音がしたあと、浮遊感を感じる。重りが壁に突き刺さり、身体が引き伸ばされる。
「ウグッ」
肩関節が外れ、膝が悲鳴をあげる。どうやら列車が脱線したようで機関車両がグチャグチャになっている。焦げ臭い臭いが鼻をつく辺り火の手が上がっているのだろう。
「あはは……まさか……ここまでやるとはね……。」
あのネズミは無事なのか……。と気にするも今の私は籠の中の鳥。しかも鎖で吊るされ、身動きが取れない。この鎖に魔力を流せば機関室を暴走させて爆破する事は可能だが……。その場合私が死ぬ。
他国の連中に私が渡っても恐らく殺される。そもそもここまで破壊されればどっちに転んでも戦争は決定的だろう。それが何であれ国は都合のいい口実だけが欲しいのだから。
ただ生まれて
ただ国に利用されて
戦争の口実の為に死ぬ
どこかでほくそ笑む戦争屋共が憎らしい。
「ほんとにここに人がいるの?ウーノ。大分ひしゃげているわよ?」
「チッチッ」
「あ、アリス。危ないぞそこ。崩れそうだ。……ふむ。確かに魔力を感じる。何かあるのは間違いないな。」
「我が瓦礫ごと退かすか?」
「いや、今絶妙なバランスで崩壊していないだけだから……風で崩壊しかねないぞ。」
「むぅ。ならばどうする?」
会話が聞こえてくる。しかし、周囲の壁を叩くことも大きな声を上げることも叶わない今、私がここにいることを知らせる手段がない。
「チッチチ。」
重りについた鎖を伝って先程のネズミが登ってきた。どこから入ってくるのか不思議なネズミだが、不思議と安心感を覚えた。
「君……また来たの?無事で何よりだけど、ここは危険だよ。私のことは気にせず早くお戻り。」
「チッチチチ。チッ。」
ネズミは私の耳元で囁くように鳴くと下へ下り、比較的安全そうな場所に何かを置いた。緑色の物体は設置されるとムクムクと成長し、人一人が楽に入れるほどの大きさの箱になった。
「まさか……助けてくれるの?」
鷹揚に頷くネズミ。
「君は……私のヒーローだね。」
「チ?」
小さく傾げる姿も愛らしい。小さなヒーローに少し微笑んだ。
「あぁ、狭いな。」
久しぶりに人の声を聞き、目線を送ると黒髪の青年が丁度でてきたところだった。
「さて、俺は桜馬悠。助けに来たんだがおたくが『ユーリィ』で合ってるのかな?随分な有様だがどうした?」
「質問にはひとつずつ答えますよ。勇者様」
「あぁ、悪い。取り敢えず、鎖を解いてもいいか?」
「自力じゃどうにもならないので……。お願いします。」
勇者は懐からナイフを取り出すと目にも止まらぬ速さで切った。すると吊り上げられていた腕が元の位置に戻りよく使っていた治癒魔法で治療する。鬱血と指先の方が壊死しかけていたが問題なく治りそうだった。
「流石に鎖は硬いな。まぁいい。行くぞ。おたくが何者で何故俺らが関わることになったか説明してやる。」
「先程の質問はよろしいので?」
「あぁ。分かったからいい。」
どこの派閥にも属さず、戦争を回避してくれる人間……。彼がどういう人間なのかはさておき十分な逸材と出会うことが出来た。
こうした運命の巡り合わせに第三者が介入しているなら良くやった徒歩)てやりたい気分だった。




